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そこに居る、俺以外の誰もが、ポカンとして、それからざわつき始めた。剣を構えた弟分は、俺がなにを言っているのかさっぱりわからないらしかった。俺はちょっとノリを変えることにした。
「仮に、このまま俺に負けて逃げ帰ったところで、お前ら無事じゃ済まないんだろ?だったら、俺をアジトに連れて行ったほうが話が早いと思わないか?」
弟分はしばらく黙っていたが、やがて剣をおさめ、こう言った。
「あ…頭いいな、お前ぇ。」
頭痛い。鬼蜘蛛といいこいつらといい、どうしてこう盛り上がってる俺の気概を削ぐのかね。
「よし、じゃあ行こうぜ。ほら、お前も。」
「うぅ…。」
二人は下品な馬みたいな生きものに乗ってきていた。
「の…乗るか?」
「嫌だ、ビジュアル的になんか凄く嫌だ。」
「ビジュ…難しい言葉を使うな。」
「…いいから行ってくれ。走って追いかけるから。」
わはは、と二人は笑った。
「お前面白いな。」
俺は弟分の太ももにグーを入れた。骨がミシッという程度に。
「マジだから。いいから走れ。」
二人は慌てて馬を走らせた。
かくして俺たちは、ブ…盗賊団のアジトであるゴーストタウンに着いた。
もとは教会だったらしい建物のドアを弟分が叩くと、入れ、というドスの効いた声が中から聞こえた。二人が怯えながらドアを開ける。俺は続いて入る。
「お前ら、どういうことだ、そりゃあ?」
全部で二十人くらいだろうか?祭壇の真ん前に凝った飾りの木の椅子が置かれていて、ボスらしき男がそこにどっかりと腰を下ろしている。養蜂やってるやつが遊びで蜂を身体にとまらせたみたいなごわごわな髭を長く伸ばしていた。全員大柄だったが、ひときわでかかった。でかい=強いっていう図式は、ある程度あるんだろうね、やっぱり。
二人が怯え切ってなにも言わないので俺が前に出ることにした。
「そこの街でこいつらが女の子を襲ってた。懲らしめてやったが…飼主にもちょっと言っといたほうがいいかと思ってね。」
ギロリ、とボスが目を剥く。
「おうコラ、ガトーにチョコ、そりゃ本当か?」
(ガトーショコラ?)
二人はうつむいてなにも言えない。
「こんな枯木みたいなのにやられたってのかお前ら!!あぁ!?」
「なぁ、悪いけどそれ後にしてくれるか?」
「あぁ?なんだとアンチャン…。」
「早く用事済まして帰りたいんだ。」
「…用事たぁ、なにかねぇ…?」
「ブラッディ・ウルフ潰し。」
ボスはワナワナと震え始めた。
「おもしれえこというじゃねえか。いいよ、やってやるよ。俺とサシでやろうぜ。剣が欲しけりゃ貸してやる。ただじゃ殺さねえぞ、てめえ…。」
「いや、サシとかいい。」
「…あ?」
「面倒臭いからいい。お前ら全員まとめてかかってこい。剣は要らない。」
「お前、お前…お前、俺たちを誰だと思ってるんだ…俺たちはブラ…」
「名乗らなくていい、緊張感途切れるから。」
アーッ!!とボスは雄叫びを上げた。
「やってやらあ、お前らこいつ殺せ!!何回でも殺せ!!」
(ちょっとなに言ってるかわからない…)
太ったやつらが一斉に襲い掛かって来ると、絶対にどこかでモタつく場所が出来る。教会なんて椅子が山ほど置いてあるしね。まずそこから叩く。背後に回ると、遠くの奴らには仲間の影になってすぐには見つからない。結果、手前の数人ずつを順番に叩いていけばいい。一人一発。ボウリングより簡単。そうだ、ボウリングしよう。
一人の腹に膝蹴りをかまし、そのままサイドスープレックス的に投げ捨てる。五、六人巻き添えを喰らうのが見えた。スペアか。倒れているうちに急所にストンピングを落としていく。そんな調子でザコどもを片付け、俺とボスは教会の真ん中で対峙した。
「なにもんだ、てめえ…。」
「まあ、旅行者だよ、ただの。」
どこまでも人を食った野郎だ、とボスは唾を吐く。
「マジで殺し合おうぜ。剣を取れ。本気で俺をやるつもりならな。」
要らない、と言おうと思ったが、やつの本気とはどうやらチャンバラらしい。壁に立てかけてあるものの中から、一番日本刀に似てるものを探して、抜いた。
「いつでもいいよ。」
俺の名はバンプだ。とボスが突然自己紹介を始めた。
「お前も名乗れ。」
「…ヤミだ。」
「ふん、妙な名だ。」
「割と気に入ってる。」
ケッ、とボスが笑い飛ばして、剣を握る手に力を込めた。でかいやつがでかい剣を振り回す。テンプレだなぁ。
「死にやがれ!」