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待っていればなにかが現れ、俺を攻撃してきた。敵(と言っていいかわからないが)は次第に大きくなり、強くなった。最初は衝突の痛みだけで済んだが、やがて、牙だの爪だのという感じの、鋭利なものに変わっていった。そのたびに俺はアドリブで戦い方を考えなければならなかった。倒せば倒すほどに、敵の進化のスピードも徐々に速くなっていった、挙句の果ては俺とあまりサイズの変わらない感じの人間のようなものになった。そいつは俺に掴みかかってきた。


「こんちは」


と挨拶してみたが、無視された。力で俺を押し倒し、馬乗りになって殴りかかって来る。必死で身体を動かし逃れようとしたが、上手くいかない。やけくそでブリッジのように腰を浮かせてみると、相手のバランスが少し崩れた。そのスキに起き上がって、体勢を整える。どうしよう。とりあえずパンチでも打ってみるか?


軽く手を出してみると、パコン、という間抜けな感触があり、相手が少し距離を取った。それから、一気に距離を詰めてきて俺の頬に強烈なパンチを入れた。


「痛い。普通に痛い。」


単調だったそれまでの敵と違い、様々なパターンを持っていた。掴まれ、倒され、殴られ、絞められた。まるで歯が立たなかった。このまま殺されるのか、そう思った瞬間、そいつは起き上がり、どこかへ去っていった。ぱん、ぱん、と、一仕事したみたいに手を二度叩いて。




悔しかった。

それまで順調に勝っていただけに、無茶苦茶悔しかった。

弱いものいじめで悦に入っていたようなものだった。



俺は座り直し、目を閉じた。どうすれば勝てる?

向こうがなにをしてくるのか、もっと感じなければならない。もの凄く強大な敵というわけじゃない、俺と同じくらいの人型なのだ。素早く動く?どっしりと構える?殴る?蹴る?投げる?掴む?


どうするにしても、相手の位置をまずはっきりと把握しなけりゃ話にならない。闇雲に打撃なんか出しても有効打になるわけがない。



手を出して相手がどこに居るか探りながら、見つけたら身体ごと飛び込んで倒し、さっきやられたみたいにタコ殴りにしてやっつける。よし、これで行こう。




かくして敵は再びやってきた。俺は左手を前に出し、相手のとの距離を計った。指先がどこかに触れた。軽くパンチを出してから突っ込むと、上手く倒すことが出来た。すぐに馬乗りになって、両脚でがっちりと敵の胴体を掴む。隙間を作ったら逃げられる。それはさっき学んだ。相手は抜け出そうとしてバタバタともがいている。


こいつには俺が見えるのかな?


ふと、そんな疑問が浮かんだ。

見えているのなら打ちにいっても、かわされるか掴まれるかする。どうする?

いや、そんなのはフェアじゃない。フェアなんて概念がここでどれだけ有効なのかはわからないけれど。




イチかバチか、俺は渾身のパンチを相手の顔のあたりに振り下ろした。

拳にもの凄い衝撃があり、車のタイヤがパンクするときみたいな凄い音を立てて、相手ははじけ飛んだ。俺は暗闇の中で膝立ちになって、少しの間茫然とした。



勝った。


けれど、あまり嬉しくなかった。どうしてこんなことをしなければならないんだ?これは闘い方の実習だ。この先それは、もっと激しくなるだろう。武器を持たされ、命がけの展開にだってなるかもしれない。俺は身震いした。わけもわからないままこんなことをしなければならないなんて。俺は座り込み、ウンザリとした気分で次の「コーチ」を待った。




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