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056.下山

 手応えあった。


 ルウラの鉄壁を破って腕を斬り落とした。少なくとも人間であれば致命傷のはずだ。


「フフフ、フハハハハ!」


 するとルウラが大声で笑い出した。


「腕がなくなって気でも触れたか?」


「ふふ、失礼。ここまでの相手に出会えたことが嬉しくて」


 正直、思っていた反応と違って戸惑う。痛覚がないのだろうか?それともドMの方なのだろうか。多少なりとも堪えてはいると思うのだがやはり人間基準で考えるのは間違いだった。


「今日はここまでにしておきましょう」


「……!そう簡単に逃すと思うか?」


 正直、ルウラの能力はかなり厄介だ。片腕がなくって手負いの今は絶好の機会のはず。できればここでカタをつけておきたい。


 逃すまいと追撃態勢をとるがルウラの余裕は変わらない。


「二つ、良いことを教えてあげましょう」


「……?」


「ひとつ、私はまだ一回の変身を残しています。変身すると飛躍的に能力が向上し、この片腕のハンデなどないもの同然となるでしょう」


「!?」


 おいおいおいおい。どこの宇宙の帝王だよ。


「ふたつ、私のけしかけたSランクの配下は五体です」


「……なんだと?」


「内二体はあなた方に討伐されましたが、残り三体はどこに行ったでしょう?ヒントは、そうですね。このあたりで最も被害が出そうな大都市です」


 …ちっ、ガリオンか!


 着いたばかりで愛着のある街ではないが、あそこにはハルの両親がいる。


「今すぐに戻ればまだ間に合うかもしれませんよ?」


 ルウラが嫌らしい笑いを浮かべる。


 二つの話の真偽は定かではない。まったくのハッタリの可能性もある。だが、仮に後者が真実だった場合、ガリオンの三強であるガライ、エンコ、クレア不在の今、防衛できるか不安が大きい。どうすればいい。戦況は優勢なのに状況はなぜか劣勢だ。


「もちろんこのまま続けても構いませんが、今日のところは私はもう満足しました。そちらが退くのであれば、私も追わないことにしましょう」


 そう言って踵を返すとこちらの反応を待つことなくルウラはゆっくりと山頂に向かって歩き出した。まるで攻撃してくるはずがないとでも言わんばかりの無防備に見える背中だった。


 しかし葛藤の末、攻撃を仕掛けることは出来なかった。仮にここでルウラを仕留めることができたとしても、時間がかかって本来守るべきものがいなくなってしまっては意味がないからだ。


 次第に遠ざかっていくルウラの背中が見えなくなると、緊張を解いて胸に溜まっていた息を吐いた。試合に勝って勝負に負けた、とはまさにこんな状況をいうのだろう。素直に負けを認めるしかない。


 ガライが裏切った瞬間からどっちに転んでもルウラの負けは無くなっていたのだ。漁夫の利にもほどがある。タイミングが悪かったとしか言いようがない。もっともガライがガリオンを裏切ることもルウラが計算にいれてたとしてたら、その驚異的な読みはさすがは四天王と言わざるをえないかもしれない。


 そんなことを考えながらカスミの近くに戻ってきた。


「すまん。仕留められなかった」


「……まあ、いいんじゃない?少なくとも、裏切りものは減ったことだし」


 そういって横たわるガライの方を見る。


「そうだな。それよりも奴の言うことが正しければ、ガリオンにSランクの魔物が三体向かっている」


「それは……急いで戻るしかないわね」


「ああ」


 カスミに肩を貸しながら一旦ハルのところへと戻った。



「ふぇっ!?」



 治癒魔法をかけ続けていたハルから間抜けな声が出た。


「カカカカ、カスミッ!?」


「やっほー。…そろそろかな」

 

 カスミが返事したところで、ちょうどハルが治癒し続けていた分身(ドッペル)ちゃんとやらが光りに包まれ、そのまま光の粒子となってカスミ本体の方に混ざって消えた。どこか幻想的な光景だった。


「……ふぅ」


「便利なスキルだな」


「まっ、便利と言えば便利なんだけどね」


 どこか含みのある言い方だが、スキルに関してはあまり問い詰めるのも憚られる。


「とにかく、今はガリオンに戻るのが先決だな」


 この中でまだ余裕がありそうなのは、直接戦闘することが少なかったリリアとハルか。三人を順に見比べて最後にカスミを見た。


「はいはい。じゃあ私はエンコ隊長とクレア隊長を介抱してから駆けつけるわ」


話が早くて助かる。


「……ああ。頼んだ」


「何?どういうこと?」


 自体が飲み込めないハルが首を傾げ、少し離れたところで小隊を率いていたリリアも危険が無くなったと判断したのかこちらに駆け寄ってきた。


「単刀直入に言うと、ガリオンにSランクの魔物が三体向かっている可能性がある」


「…そんな!」


「……確かなのですか?」


「どうかな。敵からの情報だから確証はないが…」


 少なくともルウラからは逃げるためにハッタリをかましているような様子はなく、余裕があった。


「嘘だったらそれはそれで構わない。本当だったときに取り返しがつかなくなることは避けたい」


「…ええ。その通りですね」


 リリアも頷く。単に確認しただけで異論があったわけではなさそうだ。


「迅速に駆けつけるためにも少数精鋭でいきたい。ハル、リリア、三人で先行するぞ。動けるか?」


「もちろん!お母さんたちを守らないと!」


「ええ。私も大丈夫です」


 そうして三人は急いでモンアヴェールを下山するのだった。


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