深夜の密談
「さて、今回の標的は【俺TUEEE型】。それも【主人公モデル】だ。前回のような小物とは訳が違う。足元を掬われないように細心の注意を払いつつ、情報収集に当たらないとな」
最寄りの街から1キロ程の距離にある鬱蒼と茂った森の中。
既に日も落ちているため、光源は小さな焚き火のみだ。
その光が届くのは、ほんの数メートル先までで、周囲には木々や茂みなどの遮蔽物も多いため、近くを通りかかる者が居ても存在に気付かれることはないだろう。
まさに、【亡霊】が密談するのに相応しいロケーションと言える。
そんななか、焚き火を囲むのは、いつものメンバー。
イブキ、クロウ、アミラ、ソフィーの四人である。
そして、イブキの発言を受けて、残りの三人は深く頷いた。
「まっ、用心が必要なのは今回に限った話じゃないけどね。基本的に転生者って奴らはチート持ちだしぃ。いくら大魔法使いのアミラちゃんでも正面からじゃ歯が立たないや」
アミラがわざとらしい仕草で、ヤレヤレと肩をすくめると、すかさず隣のクロウが口を開く。
「おやおや、君が弱音を吐くなんて珍しいね。自分の力を過信しがちな君が身の程を弁えるのは結構だけど、君の殊勝な態度は見ていて不吉なものを感じてしまうね。明日は雪でも降るのかな?」
「OK、ケンカ売ってんのね? 高く買ってあげるから構えなさいよ」
クロウのセリフに青筋を浮かべたアミラが立ち上がり、拳を握ってファイティングポーズを取る。
とはいえ、アミラの戦闘スタイルは本人も言っているように魔法が主体だ。
愛用の杖を握ることもなく、シュッ、シュッとシャドーボクシングしているため、本気でやり合うつもりがないのは明らかだった。
「止めておくよ。魔法使いの癖にゴリラみたいな怪力も持ち合わせてる君と肉弾戦なんて、考えただけで寒気が走る」
「アンタがモヤシ過ぎるだけでしょ? 賢者だからって本ばっか読んでないで体も鍛えなさいよ。最後にモノを言うのは体力なんだから!」
「ま、まぁまぁ、二人とも落ち着いて下さい。近くに人はいませんけど、モンスターが寄って来ちゃいますから」
アミラとクロウの間に割って入り、なんとか宥めようとするソフィー。
この二人のじゃれ合いを止めるのは、いつでも彼女の担当だった。
ちなみに、二人が言っていることは、どちらも正しい。
アミラは大男を腕相撲で負かすくらいの怪力の持ち主だし(とはいえ、格闘センスは皆無)、クロウは100メートルを全力疾走しただけで倒れるほど貧弱だ(ただし、魔法で空を飛ぶので問題なし)。
「さーて、久しぶりの【主人公モデル】。一体どんな能力を持ってんのかね?」
三人のやり取りを眺めつつ、不敵な笑みを浮かべたイブキは、まだ見ぬ標的に思いを馳せたのだった。