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唯一の救い

「イブキ? イブキってば!」


過去の回想に向けられていたイブキの意識が、アミラの呼び掛けにより引き戻される。


どうやらアミラは、上の空になっていたイブキに腹を立てているようで、その頬をぷっくりと膨らませていた。


感情が高ぶり、魔力が荒ぶっているせいか、自慢のツインテールも揺らめいており、非常に迫力がある。


……まぁ、イブキにとっては既に見慣れた光景なので、今更ビビったりはしないのだが。


「あー、悪い悪い。ちょっと昔のこと思い出してた」


「なにそれ。自分のことを【亡霊】とか呼んでる痛々しい黒歴史とか?」


「それは現在進行形だし、必要だからやってるだけだ。痛々しいとか言うな。つーか、お前も普通に使ってんだろうが」


「だって、隠れ蓑は確かに必要だし~。それに私が考えた名前でもないから別に恥ずかしくないし?」


「ふてぶてしいな、このやろう」


「まぁまぁ、イブキ。僕は気に入っているよ? 死者の名を騙り、生者(てんせいしゃ)に仇を為す。まさに亡霊と呼ぶに相応しいじゃないか」


「父さん達には、少し申し訳ないけどな」


そう、【イブキ】というのは亡くなった父の名前だ。


今、ここにいるイブキの本名は別にある。


同様に、クロウ、アミラ、ソフィーの名前も偽名である。


なぜ、こんな方法を取っているのか。


それは、名前を利用する転生者の能力に対抗するためだ。


種類や効果は様々だが、転生者に名前を知られることは一定のリスクを伴う。


そこで 普段から偽名で呼び合っている訳だ。


あとは、憎しみを風化させないため、という戒めの意味もある。


そして、【亡霊】とは、転生者に復讐を誓う同志を表す名前だ。


組織やチームではなく、あくまでも同志。


転生者を相手にするなら、決して徒党を組んではいけないからだ。


人を集めれば、確かに、それだけ力は増し、有利に戦えるようになる。


しかし、同時に、その存在を気取られやすくもなるのだ。


そして、構成員を一人捕らえられただけで、芋づる式にメンバーの所在を炙り出され、壊滅することもある。


実際に、転生者の打倒を掲げた魔族の組織が、いくつも潰されている。


転生者との戦いは、こちらの存在を隠蔽し、迅速に、秘密裏に行わなくてはならない。


イブキに、仲間を作るつもりがなかったのは、それが理由だ。


では、何故リスクを犯してまで、こうして4人で行動しているのかというと——、


「しょうがないって。それも、これも、全部あのクソ野郎をぶっ殺すためなんだから」


「あ、アミラちゃんっ。殺すのは私の用が済んだ後にしてね?」


そう、あの日、イブキの両親を殺した男が、4人の共通の仇だからだ。


クロウは兄と妹を、アミラは母親を、ソフィーは幼馴染みを、それぞれ奪われている。


つまり、抜け駆けを防ぐために、4人は一緒に行動しているのだ。


奴だけは、必ず、自分の手で殺すと。


ただ、ソフィーだけは少し事情が異なるのだが。


「さてと。それじゃあ、そろそろ次の街に行くか。確認も終わったしな」


イブキの視線の先には、一人の少女の姿があった。


「おとーさん! また、おえかきしたの!」


「おーおー! こりゃあ上手だ! 将来は画家さんになっちゃうかもな! 前の絵は、()()()()()()()()()()()()()()()、今度はちゃんと厳重に飾るからな!」


そして、別のテーブルでは。


「ガランさん! 今日から復帰されたんですね!」


「おうよ! 俺としたことが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、みっともない所を見せちまったな!」


ギルドマスターと、その娘。


そして、豪腕のガラン。


かつて、転生者に与えられた加護(チート)の影響で被害に遭った者たち。


彼らの記憶は、元凶の少年が消えたことで、改竄されている。


どういう原理なのかは分からないが、転生者が居なくなると、加護(チート)の影響は消える。


そして、転生者の存在は忘れ去られ、辻褄を合わせるように記憶が書き変わるのだ。


「まっ、後の人間関係に禍根が残らないのは、唯一の救い……なのかね」


そう呟いて、イブキは仲間と共に冒険ギルドを後にした。

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