亡霊の反省会
「いやぁ、今回は楽勝だったね! 毎度、こんな感じなら苦労もないんだけど!」
キュートな眼帯を身に付けた大魔法使いアミラが、ピンク色のツインテールを靡かせて、ご機嫌な様子で声を張り上げる。
「まぁ、見たところ彼は【成り上がり型】だったからね。転生して1ヶ月じゃ、大した力は持って無いさ。それに加護の強度も、せいぜい【モブモデル】の上位クラス程度しか無かったみたいだし」
スタイリッシュな眼鏡を掛けた賢者クロウが、紙に筆を走らせつつ、同意する。
「でっ、でも油断は禁物ですっ。相手が転生者である以上、常に警戒は必要かとっ」
タヌキのような耳をピクピク、太い尻尾をゆらゆらとさせながら、治癒師のソフィーが注意を促す。
「まっ、ソフィーの言う通りだな。それに、噂が真実なら、次の相手は恐らく【俺TUEEE型】。それも【主人公モデル】の大物だ。足元を掬われないように気を付けないとな」
最後に、色素の抜けた白髪と深紅の瞳が特徴的な、戦士イブキが話を纏めた。
ここは冒険者ギルド。
モンスターの討伐を始めとして、危険地帯の調査、開拓、用心棒にペットの世話まで、住民から寄せられた依頼を何でもこなす、荒くれ者が集う場所。
かつて、我が物顔で、この場所に君臨していた少年は、もういない。
イブキ達が昨晩、この世から消滅させたからだ。
現在、イブキ達は今回の一件の反省会のため、テーブルを囲んでいる。
……ついでに、あることの確認も兼ねて。
「にしても、時が経つのは早いね~。アタシ達が一緒に活動を始めて、もう3年だっけ?」
「僕はイブキと会って5年だけどね。そして、ソフィーが4年。つまり、君がメンバーで最も日が浅い新入りという訳だ。もっと、先輩を敬いたまえ」
「アンタは、いちいちアタシにケンカ売らないと気が済まないの!?」
「お、お二人とも、どうか、その辺で。今は隠蔽してないので周りの迷惑になっちゃいますよぉ……」
公共の場でも、構わず口論し出すクロウとアミラを、なんとか宥めようとするソフィー。
一方、イブキは、そんなソフィーに手を貸すでもなく、3人との出会いを思い返していた。
『諦めるのか? 【どうしようもないから】と』
『そして、全てが終わってから嘆くのか? 【どうして、こんなことに】と』
『最期には後悔か? 【あの時、ああしていれば】と』
『現実は残酷だ。泣こうが喚こうが、思い通りになんて、なってくれない』
『それでも叶えたい望みがあるなら、血反吐を撒き散らしてでも足掻くしかない』
かつて、イブキがクロウに向けて放った言葉だ。
ソフィーとアミラにも、似たような事を言った。
そして、何の因果か、今では、その3人と行動を共にしている。
クソッタレな転生者を絶滅させるという目的のために。
「……誰ともチームを組むつもりは無かったのにな」
「ん、なにか、言ったかい? イブキ」
「あー、ほら。今日も、クロウの偽装魔法は完璧だなって」
「当然だろ? 僕の魔法に失敗の2文字はない」
そう、クロウは今、己とイブキに魔法を掛けて、姿を偽っている。
具体的に何を偽っているかというと、体の一部だ。
クロウの額から生えた2本の角を。
そして、イブキの背中から生えた漆黒の翼を。
なぜ、こんなものが付いているのか。
それは、2人が魔族だからである。
魔族には、生まれつき魔力の増幅器官が備わっており、それは、様々な形で体の一部に現れるのだ。
ちなみに、ソフィーとアミラも魔族だが、ソフィーの外見は獣人に見えるため問題ない。
アミラの増幅器官は、右眼に宿ってオッドアイとなっているが、眼帯をしているので傍目からは分からない。
そこで、クロウとイブキのみ、偽装が必要となる訳だ。
人間と魔族は不倶戴天の敵対関係にあるが故に。
そして、その事が切っ掛けで、転生者という世界の異物は生まれたのだ。