転生者と亡霊
投稿中のシリーズから、毎日ランダムで一つ投稿します。
「あれ? 僕、また何かやっちゃいました?」
照れ臭そうに、ヘラヘラと笑みを浮かべながら、そう呟いたのは、この世界では珍しい黒髪黒目の少年だ。
ここは冒険者ギルド。
モンスターの討伐を始めとして、危険地帯の調査、開拓、用心棒にペットの世話まで、住民から寄せられた依頼を何でもこなす、荒くれ者が集う場所。
この建物は二階建てで、元から吹き抜けの構造だが、今は一階の壁に大穴が空いて更に風通しが良くなっている。
穴の外を見れば、敷地を囲うレンガの壁に放射状のヒビが入っており、その中心に一人の大男が壁に半分めり込む形で倒れているのが分かる。
「あの豪腕のガランをたった一撃で!? こいつが噂の転生者か!」
「すごい! とうとう、この町にも転生者がやって来たのね!」
「皆、今日は宴だ! 俺が奢るからじゃんじゃん飲んで食ってくれよな!」
このギルドを取り仕切るマスターが乾杯の音頭を取ると、その場にいた人々は出された食事や酒を手に、わいわいと騒ぎ始める。
ちなみに、少年の放った魔法が原因で壁が砕けたのだが、その壁にはあるものが飾られていた。
先月、五歳の誕生日を迎えた‘‘マスターの愛娘’’。
その少女が描いた家族の似顔絵である。
この一ヶ月、額に入れて壁に掛けていた、その絵をマスターはたいそう気に入っており、人が来るたびに絵の話から娘自慢に持ち込んで、周囲を穏やかに呆れさせていた。
そんな大切な絵が額ごとボロボロになり、焼け焦げているにも拘わらず、マスターを含めて気に留める者は一人もいない。
絵を書いた当の娘さえ、英雄に出会ったようなキラキラとした眼差しを少年に向けている。
異常だと思うだろうか?
その感覚は正しい。
しかし、この空間では、その感覚こそ異常とされる。
また、壁の外で今も気を失っている豪腕のガラン。
元々、彼が酒を飲んでいる所に少年が不注意で、ぶつかったのだ。
その際に酒がこぼれた上、料理に掛かって台無しになった事から口論に発展した。
といっても、ガランの苦情に対し、少年はヘラヘラと笑うばかりだったが。
結果、ヒートアップしたガランが少年に表へ出ろと促した所で、少年の魔法が炸裂という流れである。
カッとなって喧嘩腰になったガランにも非がないとは言えないものの、客観的に見て、どう考えても少年の過剰防衛だ。
加えて言うと、ガランは血の気の多い男ではあるが、義理と人情を大切にする人望の厚い男。
彼に命を救われた者、道を示してもらった者は、この場にも大勢いる。
にも拘わらず、魔法と壁に打ち付けられた衝撃で瀕死の重症を負った彼の安否を気にする者は一人もいない。
それどころか、子供相手に大人げない、自業自得、壁の修理費もアイツ持ち、などといった声まで上がる始末。
異常だと思うだろうか?
その感覚は正しい。
しかし、この空間では、その感覚こそ異常とされる。
「ほんっと、転生者ってのはクソ野郎ばっかだな。反吐が出るわ」
「本当にね。この清く正しい天才魔法使いのアミラちゃんとは大違い」
「いや、君も大概だと思うけれど。馬鹿力とか喧嘩腰になりやすい所とか、まるでゴリラみたいじゃないか」
「誰がゴリラよ!?」
「あ、あの皆さん。あまり騒ぐと隠蔽が切れるので、その辺で……」
ギルド全体が、お祭りムードに染まるなか、片隅のテーブル席で、これまでの一部始終を見ていた四人の少年少女が人知れず声を発した。
それなりに大きな声で騒いでいるにも拘わらず、何故か彼らのやり取りを気にする者はいない。
「まぁ、ターゲットの確認は済んだ。こっからは接触を避けて情報収集。次の標的の被害情報もあることだし、一週間以内には片付けるぞ。そうだ、あのおっさん手当てしてやってくれるか?」
「は、はい……。行ってきます」
名指しされた訳でもなく、自分が行くのが当然とばかりに、おどおどした少女がガランのもとへ向かう。
他の二人も当たり前の流れを見送るように関心は少ない。
周囲から明らかに浮いた存在である彼らは——【亡霊】。
後に、【語られない神話】の中核となる存在である。