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僕の落とした左手を  作者: 宇野 伊澄
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 季節は冬。街はイベントに向けて緑や赤に仕上げ始めた。

 

 店内も普段に比べてずいぶんとにぎやかになり、サンタの赤服に身を包んだ僕はもちろん不満だらけの顔でレジ打ちに勤しんでいた。

 

 バイト組の中でも恋人がいないのは僕ともう一人後輩の男の子の二人だけで、他の奴らがいちゃいちゃするのに忙しいという理由で押し付けられてしまったのだ。店長の今日バイト入ってくれたら時給上げるよ、という甘い誘いに先輩の西岡だけが乗り、クリスマスはイブも含めて三人で切り盛りする羽目になった。

 

 恋人がいないのは認める。が、彼にだってクリスマスの日に共に過ごしたい人はいるのだ。恋人がいないからといって予定がないと決めつけられるのは腑に落ちない。だが店長の寂しそうな顔を見て彼が断れるはずもなく、そういうことも計算された上で僕を入れたのだというのならそれはコンビニ側からすれば正しい判断だったと言える。

 

 とにかく、ただサンタの格好でレジ打ちするだけなら百歩譲っていいとしても、カップルが見せびらかすようにいちゃいちゃしながら、または可哀想な目をこちらに向けながら商品をよこしてくるのが一番苦痛だった。


 僕だってバイトがなければ今頃要と一緒にいれたはずだった。


「水無瀬さん、二十四日って空いてますか?あ、そうです!クリスマスの日です!」

 

 要から予定を聞いてくることなんて初めてだったものだから、あの時は面食らった。同時にクリスマスに二人で何かできると思うと楽しみで溜まらなかった。

 

 それもこれも、バイトで全て崩れてしまったわけだが。

 

 冬休み真っ只中の要はいま僕の家に一人でいて、何をしているだろう。クリスマスソングが流れる外を眺めながら寂しい思いをさせているのではないかと不安になる。実は今日のために僕もプレゼントを用意しているのだが、渡すタイミングがバイト終わりの夜のわずかな時間しかなく、このままサンタの格好に合わせて枕元にそっと置くのがいいのか、夜ご飯の後にスッと手渡しするか…。


「すみませーん、お願いしまーす」

 

 客が途切れた一瞬のうちに考えてみるが、再び目の前には三、四と列を成していた。心の中でため息が止まらない。

 

 そんなこんなで約五時間の仕事を終え、店を出るころには夜の十時を回っていた。公園までの並木道の木々は、季節ごとに色を変えている。今日は特別なのか全ての木の枝に隅々まで張り巡らされた小さなLEDライトが無数にきらめいており、僕が通るのを見越していたかのように一本道を華やかに照らしていた。

 

 いつもの褪せた並木道が一変して、別世界に来ている気分だった。

 童心に返り、光り続ける樹木をあちらこちらと感嘆の言葉を並べながら見上げる。彼女にも見せてあげたい。あの幸せそうな笑顔を振りまいてはしゃぐ姿を思い浮かべる。

 

 あの家に帰れば要がいる。

 

 家に帰ろう。

 

 もう一度この景色を脳裏に据え付け、彼は家路についた。

最後までご覧いただきありがとうございます。

ご感想・アドバイス等いただけると嬉しいです。


季節が全く違いますが、直に追いつきますので気にせずご覧ください……!

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