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僕の落とした左手を  作者: 宇野 伊澄
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 未知の生物を見るような目で、手に持った小さな容器の中身を見つめていた。色とりどりの丸いものが敷き詰められている。


「これは、何ですか?」

「食べてみて」


 そう促すと、要は慎重な手つきでそれらをスプーンですくった。

 口に入れると、プチプチと一つ一つが溶けていく食感がする。


「あ。アイスだ!」嬉しそうに顔を上げる。

「正解!」

「こんなのもあるんだ。すごい」

「最近はやってるみたいだよ」


 これは春さんから教わった時に僕が一番興味を持ったものだ。想像以上の反応を示してくれたので安心した。僕も同じものを買って一緒に食べる。

 

 一粒一粒丁寧に食べるのを見ていたら、今更ながらこんな疑問が浮かんだ。


「そういえば、今日で何歳になったの?」

「十八歳です」

「てことは、高三?」

 

 今まで気にしなかったことが不思議だ。高校三年生ならもう立派な大人じゃないか。


「はい。言ってませんでしたっけ?」

「うん、初めて聞いた」

 

 こんなに一緒にいてまさか知らなかったとは自分でも驚きだ。


「水無瀬さんは、誕生日いつですか?」最後のアイスをすくいあげながら聞いた。

「三月二十八日だよ」

「じゃ、まだまだ先ですね」

「そうだね、要ちゃんが卒業した後かな」

 

 うん、と言ってアイスを飲み込む。


「じゃぁその日は私が、お祝いします!」

「本当?なら期待してるね」

「いいですよ、期待を超えるものを用意してますから」

「なにそれ、嬉しい」

「でしょ?」

 

 覗き込み不敵に微笑む要に胸を打たれ、僕もいつの間にか笑っていた。


「誕生日が待ち遠しいよ」


 最近、笑うことが増えた気がする。


*****************************************************************************

 

 満足して帰るころにはすっかり暗くなっていた。

 

 僕はぽっこりしたお腹をさする。「いっぱい食べたね」


「全部美味しかったです!ありがとうございました」

「本当?よかった。でも要ちゃんが甘いものあんなに好きだなんて思わなかったな」

 

 言いながら、帰り際に橋の下で流れる川を眺めた。

 もともと僕のお気に入りのスポットなのだが、今は夕日が水面に反射していつもよりも幻想的な景色を見せていた。

 

 ふと、要は橋の中央で立ち止まり、ブレスレットを掲げて眺めながら言った。


「大好きだよ」

 

 僕は、声を上げることができず、ただ振り返って彼女を見た。

 彼女もゆっくりと顔を上げ、僕に目線を合わせる。


「甘いもの、大好き」

 

 この時僕がどんな表情で、どんなことを思っていたのか、自分自身もわからなかった。

 でも要はそれもすべて見通しているかのように、温容にこちらを見ていた。


「水無瀬さんも、甘いもの好き?」

 

 体温が上がっているからなのか、それとも茜色の夕焼けに照らされているからなのか、妙に頬が熱かった。スポットライトを当てられているようで、緊張して、不安で、それでも悟られないよう彼女の目を見て答えた。


「大好きだよ」

最後までご覧いただきありがとうございます。

ご感想・アドバイス等いただけると嬉しいです。


ブクマ数がまた増えました!

いつもありがとうございます。

明日からお仕事の皆様、少しでも活力になればと思います。

次回作もお楽しみください。

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