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僕の落とした左手を  作者: 宇野 伊澄
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「予定、ですか?」

 

 要は卵焼きの前で箸を止めた。


「うん。学校が終わった後でいいんだけど。できたらお祝いしたいじゃん」

 

 要が取ろうとしていた卵焼きをよけて、横の漬物を頬張る。

 枕がなかったからか、床で寝たからか、お互い寝癖がついていた。


「お祝い……」もう一度唱えた後、照れくさそうに顔を上げた。

「空いてます、放課後」


「よかった。じゃぁやりたいこととかある?せっかくの誕生日だから、遠慮しなくていいよ」

 

 あくびをしていた口をすぐに閉じ、要は顎に手を当ててうーんと唸った。

 同じ姿勢のまましばらく唸っていたかと思うと、ぱっと顔をあげる。


「じゃぁ、神良駅前で集合でもいいですか?」

 

 神良駅は佑の家の最寄駅から二駅越したところにある駅だ。ビルが立ち並び、人通りも多いから、僕は滅多に行かない。ただ、若者向けのファッション店が豊富だから、高校生には人気なのだろう。


「わかった。でも私服で来てね」もちろん、変に疑われないためだ。

 

 要は快くうなずき、残しておいた卵焼きをすべて平らげてしまった。

 食器を片づけ、鼻歌を唄いながら制服のリボンを整えている。やけに楽しそうだ。

 

 提案した当人は言うまでもなく楽しみにしていた。

 午前中、うずうず待ってるわけにもいかないので、今日は大学に行くことにした。

 

 宏斗にメールを送ると、すでに講堂で待機しているらしかった。最初からそこに向かう。宏斗を見つけて駆け寄ると、背後からぴょこっと頭が覗いた。


「こんにちは!水無瀬くん!」

 

 宏斗のカノ……幼なじみの春さんだ。


「こんにちは。今日は一緒なんだね」

 

 言うや否や、春はプレゼントをもらったかのように声を弾ませる。


「そうなの!だって水無瀬くん、今日要ちゃんって子とデートなんでしょ?気になっちゃって」

 

 来ちゃった、と言ってくるくると巻かれた長い髪を耳にかける。


「え、なんで知ってるんですか。ていうか、一緒に出掛けるとはメールに書いたけど、デートとは一言も書いてない」

「俺が教えたに決まってんだろ」当然のような顔をして宏斗は語りだす。「お前なぁ、女子高生とはいえ女の子と外出するってことは、イコールデートなんだよ!」

 

 そのイコールは違うと思う。


「違わねぇ!神良まで行くんだろ?女の子が好きそうなものとか知っといたほうがいいと思ってな。そのために春呼んできたんだよ。俺ってすごくいい友達だと思わないか」

 

 短時間でこんなセッティングまでしてると思わなかった。最後の一言は余計だったが、確かに何も知らないまま不慣れなところに行くのは不安かもしれない。素直に二人に従った。


 春は神良のファッションショップやら雑貨屋やら合わせると三十ほどの店をリストアップし、僕に紹介してくれた。僕はそれらをすべてメモに起こし、講義後の空いた時間でできる限り店の位置を把握した。


 少し張り切りすぎなのではないかと恥ずかしくなるが、要の年に一度の誕生日のためだと思えばそんな考えもすぐに消えた。

最後までご覧いただきありがとうございます。

ご感想・アドバイス等いただけると嬉しいです。



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