女体曼荼羅
森の中
1971年4月12日
静かだ・・・・
音のない世界・・・
昼間だというのに、全く音がない
風もない・・・
深い木々のその先に海が見える
森の緑とその先の海の青
木の葉の揺れる音もない・・・
ただ、私の足元で、素足と地面の草が触れるかすかな音が聞こえるような、聞こえないような・・・
私は今、自然と一体となっている・・・・
自然にすべての身を委ねている・・・・
まとうものは何もない
私を覆うものは何もない
ただ、ただ委ねている
この自然に、この森に、この大地に、この森の匂いに・・・
なんて気持ちがいい・・・
なんて居心地がいい・・・
この場所、この気持ち・・・この開放感・・・
誰も私を束縛しない・・誰も私を束縛出来ない
この心境をだれに伝えようか・・・
その心境に至るまでの私の過去を・・・
今、最高に心地良い、この境地に至るまでの物語を・・・
それではゆっくりと解きほぐしていきましょう
あの時代、その季節・・・・・・・・・・・・そしてこの場所の物語を・・・あなたに
廃墟・1
海が見渡せる・・・
その崖から真っ青な海が見渡せる・・・
そこにたたずむ廃墟。
海に向かってせり出すように、かつてはシネマビューのような、横長の大きな一枚ガラス窓が、陽の光を一身に浴びていたのだろう
そこに残る朽ち果てたソファーに座ると、眼前はオーシャンビューが広がっている
その景色は、今も昔もさほど変わってはいないのだろう・・
ただ、その海はその建物の朽ち果てていく姿を・・、そこにあった営みの変遷を・・何も語らずに、ずっと観つめていた。
時折、波の音というささやかなつぶやきを、その崖にぶつけて、聞こえない何かを伝えようとしているくらいではあった。
海からしてみれば、そこに白い館が建ち、人が住み、そしていなくなり、建物が朽ちるまでの時間は、そんなに長い時間ではなかった。
海は退屈するまでもなく、そのあっという間の変化を、表情を変えることもなく眺めていたが、
そこにいた人間にとっては、短くも長く、安らかであり、耐え難くもあったその時間をただ享受するしかすべがなかった。