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悪役令嬢は執着されてハメられる  作者: ちょしゃなげ
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始動

本日二回目の投稿です。

 

 瞬きをした瞬間、僕は見知らぬ館にいた。

 目の前にいるのは、エルバーラだ。


 彼女が動く。

 彼女が話す。

 彼女が悲しむ。


 時々彼女を叩く男が現れ、彼女を罵倒する女が現れる。

 僕より少し大きな男の子が彼女をいじめ、

 少女になった彼女を湖に落とす。

 粗末な部屋で、彼女は病気になっている。食事に毒を盛られる。

 何度も苦しむ顔が通り過ぎてーーでも、どんどん美しく成長する彼女は、強く光る瞳を曇らせない。

 成長した王子と一緒にいる姿も。学院のような場所で罵倒される彼女も、全部が僕を魅了する。


 僕は通り過ぎる彼女を見るだけ。

 彼女は僕を見ない、手を取らない、笑わない、気づかないーーだから。


 だけど、なぜ。

 ーー彼女が死ななければならないのか。



 ◆



「ギーヴ君」

 何かを断ち切られたように息を吐き出す。


 僕がいたのは、書斎から続く小部屋ーー魔導具の部品や薬草が積み重ねられた作業場のような埃くさい部屋だった。

 壁には多くの魔法陣が書かれ、床は放物線状の魔力導線が点滅していた。


「テ、ドさん」

 見ていた幻は消えたのに、僕は大人になった彼女の姿を脳裏にとどめていた。

「正気に戻りましたか?ーーこの部屋に入ったことで、見えたのでしょう?」

「・・・成長していたーー今のは未来?」

「自分のたった〈一つ〉が分かりましたか?」

 父親に問われて呆然と頷く。

「エルバーラ・・・嬢、でした」

「そうですか」

「僕ーー変えますっ。いいですよね!?」

「僕には何も言えません。僕もーークリスの運命を捻じ曲げ続けていますからね」

 そう言って父親は小さく笑う。後悔を含まない歪んだ微笑みだ。


「気に入らない運命なら自分のために曲げればいいーーこの部屋に出入りする人間は病んでいるんですから」

「いいんですか?」

「できるものなら」

 父親が自信に裏打ちされた様子を見せるのは、とても珍しい。

「テドさんってーー」

 複雑すぎると思った。もう触れないでおこう!と咄嗟に思う。

 その考えを読んだように、父親は口調を変えた。


「フランチャスカ侯爵ですが、エルバーラ嬢の2つ上に嫡男がいるのを知っていますか?」

 先程見た幻の中の、性格の悪そうな顔を思い出す。

「縁を作るだけなら簡単です。ハナさんに頼んでみるといいでしょう」


 父親のありがたいアドバイスに僕は頷く。

 すると、存在を忘れていた黒蜥蜴と目が合う。

 あとで名前を付けてやろうと思った。



 ◆



『わたしはこれから、全力をもって、あいつに復讐しようと思う。不幸にして後悔させて、絶望させてやる。絶対に。


 コレット=ᖴ=モーグ』


 一番古い日記には、まずそう書かれていた。父親から考えると15代ぐらい前の女侯爵らしい。

 彼女がこの部屋のルールを創り、魔法でこの部屋の情報を守っているようだ。

 死んでも有効な魔法って、ほんとにモーグ家って底知れないと思う。


 父親と話をしてから別の日、僕は今あの(・・)部屋に来て日記を書こうとしていた。その参考にご先祖様の日記をこうして開いている。


 続けて、他のご先祖様の日記の最初部分を開く。


『俺はヴァン、俺に屈辱を味あわせた王太子を必ず破滅させることをここに誓う


 ヴァンガ=モーグ』


『マリエの傷を治したいの。だってマリエは私のせいで顔に火傷をしたの。治したい、絶対に治すわ。薬でも魔法でも構わない。絶対創り出して、マリエの顔を治してみせる。


 ベニシア』


『義母がうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい!

 黙らせるわ!!!!


 ギレーヌ=モーグ(ゴルザンタール)』


『あいつが邪魔だ。目障りなんだ。クズで無能なやつは抹殺するべきだ。いや、いなくなったら面白くない。だが、でも、やっぱり。あいつあいつあいつ。

 なんであんなやつが俺より人気があるんだ!クソめっ!思い知らせてやる!クソッ!あいつが


 ジルベスター』


『しょせん、法律は時代によって適当に変えられる空しい紛い物だ。そんなものに興味を持てない。

 道を外れたい。法律家以外になりたい。だが僕には許されない。父も許さないだろう。それでも自由に憧れる。

 僕は鍛冶屋になりたいんだ。伝説の剣をこの手で鍛えたい。


 リットン=F=モーグ』



 どうやら、一番最初には何をするか宣言を書くものらしい。病んでいるのにみんな几帳面だ。

 父親の日記も気になりながら、まだ読めないでいる。

「やっぱり生々しいよな・・・」

 内容は想像できそうなので、当分読まないことに決めた。


「とりあえず、僕はーー『エルバーラじょうをしなせないよう、ボクのものにします』・・・文字にすると恥ずかしいな。書き直す・・・?」

 僕の日記もいずれ誰かに読まれると思うと、ぐるぐると迷う。

 でも、あまり難しい文章は無理だ。

 とりあえず書き直しは諦めた。他に思いつかない。でも目的は書けているのでいいだろう。エルバーラを死なせないことと、僕のものにすること、この2つでシンプルだ。そのために必要な行動を僕は開始した。


 ハナさんに頼んで、茶会を開いてもらうことになった。そこにフランチャスカ侯爵の嫡男を呼んでもらうことにした。

 まずは幼馴染になる。そしてエルバーラに近づく。


 どうやったら幻で見た未来にせずに、彼女を僕のものにできるのかーー。

 僕は開いた日記の余白を眺めながら本気で考え始めた。

 すると、針山黒蜥蜴のブラック(ざっくり命名した)が日記の上に乗ってきた。

「ちょ、邪魔するなよ」

 払うようにのけると、日記にネックレスの絵が描かれていた。

「これーー」

 見覚えがあった。幻の中でエルバーラがつけていたものだ。大事そうにしていたがーーその後の事故の場面を思い出す。


 僕は最初に、それを防ぐことに決めた。



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