エルバーラの奮闘〈王宮〉
覗いていただきありがとうございます!
エルバーラ視点少し続きます。今回はちょっと長めです。
今月は更新不定期、回数多くできるように頑張ります。
「シャルモンとは仲良くしてくれているみたいね?」
「っ・・・はい」
緊張していた私は、返事がひと呼吸、遅れた。
紅茶のカップをソーサーに戻したタイミングで、〈花捧げ〉の手順の話から、突然シャルモン殿下との話に、話題が変わったのだ。
その日、私は王妃様に呼ばれて奥宮の一室でお茶を頂いていた。
王宮教育の進捗状況を褒められ、近づく婚約式の前に行う、神殿への〈花捧げ〉の注意事項を聞いた後だった。
「あの子はすごく素直で優しい子でしょう?」
目の前に座る王妃様が、シャルモン王子とは血の繋がらない義理の関係だと聞いたのは、婚約式の日程が正式に決まったごく最近のことだった。
「優しすぎて、少しは我儘を言って欲しいくらい。ねぇ、貴方には少しは我儘を言っているかしら、あの子」
〈あの子〉と呼ぶ王妃様の顔は、子供を心配する母親そのものだ。
ーー義理とは思えないぐらい、王妃さまはシャルモン殿下を大事に思われているのね、って勘違いしそう・・・。
『ふしぎ〜』
『黒魔術つかってる』
『おうじさまの自我しばってるのにね〜』
『お人形、ワガママいわな〜いっ』
『人間、フツーに矛盾いう』
ーー分かってるから、ちょっと黙ってて!
腹筋に力を入れて、私は笑顔を保つ。
「いいえ、我儘なんてーー殿下には、いつも私の方がお優しいお言葉とご配慮を頂いております」
「そうなのね、残念だわ。我儘も言わず優しいあの子だからこそ、周りに合わせ、影響を受けやすいのではないかと思うの。特にこれからは学園に通うようになるでしょう?側近候補は私自身の目で選別したけれど、人はどうしたって変わっていくものだわ。ガルーダが付いて行けない学園で、あの子が変な影響を受けないか、とても心配なの。ずっと優しいままでいてもらわなくてはいけないもの。エルバーラもそう思うわよね?」
「・・・はい。王妃さま」
「なら、貴方もやるべき事が分かるはずよ」
「やるべき事、ですか・・・」
「婚約者として」
「申し訳ございません、王妃さま。御心を推察するなど未熟な私には、まだまだ恐れ多いことでございます」
「分からない?」
「はいーー」
私は申し訳なさそうに頷く。
「いいのよ。歳に不似合いなその分別を見込んで、貴方を婚約者としたのだから」
「王妃さまのシャルモン殿下に対する、深いお心遣いに感銘するばかりでございます」
「なら、シャルモンの学園での行動や考えを私に報告してくれるかしら?」
「ーーわたくしが、ですか?」
「ええ」
学園に入ればいつもの年配の侍従以外に、王族には同年代の側近や専任の〈影〉も付く。
彼らの報告もあがる上で、更にエルバーラの報告を求める王妃さまの意図が見えなかった。
「深く考えないで。私にはあの子が特別なのよーー来たるべきその時まで、ひと筋も瑕疵を付けたくはないの」
ーー来たるべきその時?
「傍付きがする〈普通〉の見て聞いて観察する事だけでなく、あの子の心の動きにも気をつけておきたいの。婚約者となる貴方なら、常にあの子の心を感じることができるでしょう?簡単なことで良いの。勉強が楽しそうだとか、同級生の対応にとまどったとか、元気がなさそうだ、とか貴方が感じたシャルモンの心の動きや行動をメモに取って、毎日ガルーダに渡してちょうだい。もちろんシャルモンには秘密でね」
母親の子供に対する、過干渉な依頼だ。
まるで監視かスパイのような行動を求められ、すぐに了承の言葉が出てこない。
「毎日ーーでございますか」
「そう、学園での毎日。ーーできるわ、だって貴方、フランチャスカ侯爵の娘ですもの」
拒否を許さない微笑みで、王妃さまはまっすぐに私を見た。威圧だ。私の戸惑いはますます大きくなる。
「ですが・・・私の主観がーー御心を推察しても、単なる勘違いである場合もあり得るかと」
「それでいいわ。深く考えないでちょうだい。貴方の意見はシャルモンを守る為のものであり、フランチャスカ侯爵の為でもあるの。シャルモンの様子に気を配り、常に注意して、こっそり私に報告なさい。いいわね?これは正式な命令よ」
「・・・かしこまりました」
それ以外の言葉が返せなかった。
ーーあれほど品行方正で、大人しく、真面目なシャルモン殿下の何を警戒しているのか。
ーーどうして監視をさせようとするの?
ーーフランチャスカ侯爵の為でもある、ってどういうこと?
結局、王妃さまに聞く勇気もタイミングも持てず、その場を粛々と辞す。重く感じるドレスごと足をノロノロと動かして、シャルモン殿下との茶話に向かった。
その途中、回廊の途中で第一王子のシャミール殿下一行と行き合う。
頭を下げ、回廊の端に寄った私の前で、第一王子がわざわざ足を止めた。
「シャルモンの婚約者かーー」
「お初にーー」
「今ここで挨拶を交わすつもりはない」
ナイフのような切れ味に、私は背中に汗をかく。
「失礼いたしました」
「勘違いしないで欲しい。紹介は婚約式でシャルモンからされるべきものだからな」
「御意」
頭を下げたまま、なるべく小さくなる。
早く通り過ぎて、と願う私の気持ちとは裏腹に、第一王子だけが、数歩こちらに近づいてきた。
低めた声が届く、ぎりぎりの近さだ。
「王位はシャルモンには渡さぬ。いくら母上やその方の父親が画策しようと、王太子は現王の意思を継ぐこのシャミールであると心得よ」
「・・・」
思わず顔を上げた私は、陰鬱で暗い瞳とまともに視線を合わせてしまった。
ーー王太子って・・・コレ牽制なの?!
ーー王妃様とフランチャスカ侯爵!?なんで・・・?
ーーだって第一王子は王妃様の実子なのに、仲が悪いの!?
「驚くか・・・」
「申し訳ございません」
「よい・・・そうか」
ふわりと優しい王子さまの雰囲気に戻った美青年は、やや乱暴に金髪をかき上げる。
「その方も、シャルモンと同じか・・・」
「お言葉、意味を推察し難くーー申し訳ございませんが、その意図をお伺いいたしたく存じます」
率直な表現で、シャミール殿下の瞳を見返す。
不敬を問われるかもしれないが、まだ7歳で準社交の場にも出ていない。聞いて許されるのは、今この時だけだろう。
ーー自分の立ち位置分からないって怖いのよ!教えて王子様っ!
私が意を決して言葉を返したことが、よほどびっくりだったのか、シャミール殿下は素の表情を覗かせた。
「ーーその方はシャルモンをどう見ている?」
ーーどう?
「お優しく・・・強い方だと」
光魔法で黒魔術を解こうとしたあの一瞬、『ガルーダに気をつけて』とわざわざ忠告してくれた意志は、シャルモン王子の確かな強さだと、私は思っている。
「そうか。ではフランチャスカ侯爵は?父親をどう思っているのだ?」
次に問われて、心の中では罵詈雑言が一瞬で山盛りに溢れだす。
ーーあのクソをどうかですって!?クソはクソ(失礼!でもっ)クソはクソでクソ以外ではありえなくてっ!以下略
「ーーすべての原因です」
「は?」
「根絶すべきといいますか、諸悪の根源ーーいえっ、厄介な・・・あのですね、生物上の原因といいますか、不要な所縁・・・面倒なそんざ・・・ではなくっ、なんといいますか」
思った以上に悪口しか出てこなくて、無性に焦ってしまう。誤魔化そうとするが、ごまかす表現が見つからず、余計に迷走する。
「あ、あのっ、侯爵は侯爵ですっ!」
なんとか無難な表現に落ち着いたところで、第一王子殿下が、笑い声を立てた。周りの側近や護衛が驚いている。
「ははは。愉快だ。なるほどなるほどーー訂正しよう、君はシャルモンとは違う」
「シャミール殿下・・・」
王子の高い笑い声に、すれ違う侍女や官僚がこちらを注視している。
「このまま、君とシャルモンが母上達に巻き込まれないことを願うぞ。王位継承争いなど不毛だ」
そう小声で言うと、シャミール王子はさっと距離を取る。
「シャルモンとの婚約式、楽しみにしているよ。フランチャスカ侯爵令嬢」
「お言葉、ありがとうございます」
「これから茶話か、シャルモンによろしく」
周りに聞かせるように、シャミール王子はそう言って去っていった。私は流れに沿って深い礼をとり、王子を見送った。
ーー結局、詳しく聞けなかった。
『あの王子、人王の魔法ある』
『人王の〈律〉が成り立ってる』
『王家は〈律〉の中』
ーー〈律〉ってなに?
『えっと』
『う〜ん』
『神さまの力?』
『構造?枠組み?知の構築?』
『加護?ーー護られる仕組み』
ーー護られる・・・って、もしかして黒魔術から?
『たぶん』
『王子さまも王さまも姫さまも、同じマホー』
いつも通りの自信満々な調子で、言いつのる妖精たち。
ーー前々から思ってたんだけど、なんで超越的な仕組みについてまで分かるの?
『だって妖精だもの』
『妖精は〈識る〉の』
『妖精は〈見れる〉存在なのよ』
ーーナニを識るの?ナニが見えてるの?
〈妖精〉について、もっと知りたくてそう聞いたのに、妖精たちはやっぱり基本はチクリ屋で、意地悪だ。饒舌なのは悪口だけ。
『王家は人王に〈律〉もらってる』
『トクベツ?たぶん』
『特別じゃないよ』
『うん、必然だ』
『必然じゃないよ』
『どうでもいい?うん』
『王家はどうでもいい、フツー』
結論は、私には分からない根拠によって、内輪だけではじき出される。
『王家はフツー』
『フツーの加護』
『人王の加護、ウスイ』
ーーじゃあ、王妃様は?上王は?シャルモン殿下は?
いつも饒舌なチクリ屋たちが、私の質問にいっせいに沈黙する。
ーー・・・もしかして、識らないの?
『違う!〈妖精〉識る存在』
『でも、力ない』
『妖精王子の雛の側近』
『偉い妖精、たぶんワカル』
猫がいなくなった時の事を思い出した。あの時の上品な声が、ギーヴのトンデモ情報を教えてくれたんだったけ。
どこか気落ちする妖精たちーーチクリ屋達にも、識る事ができる事とできない事があるのだと知れたのは、私には大きな収穫だ。
何でもかんでも頼るには、〈妖精〉は便利すぎて怖い。
それに。
「乙女ゲームは、テンプレだけじゃ駄目なのね・・・」
ーー結局、現実はコロコロ変化する。行動1つ、息遣い1つ、気持ち1つで。
ーーこれをゲームに当てはめようとするなら、世にいう無理ゲーってヤツよ。
果たして、〈エルバーラ〉は無事に婚約破棄され、〈第二王子〉はヒロインと結ばれて王になる、というハッピーエンドルートでクリアできるのか。
私は、大いに疲れてため息をついた。
黒騎士倒せ編です。
その前にちょびっとエルバーラの現状を。
ここが流れが変わるキモになるので、短く分かりやすく行くつもりです。
次の学園編に行けば、エルバーラ視点もいらなくなるはず。。。?
お付き合いいただけると嬉しいです。
相変わらず誤字脱字増産中。
時々修正してますが、放置も多いので見逃してください。




