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悪役令嬢は執着されてハメられる  作者: ちょしゃなげ
第5章
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エルバーラの奮闘〈王宮〉

覗いていただきありがとうございます!

エルバーラ視点少し続きます。今回はちょっと長めです。


今月は更新不定期、回数多くできるように頑張ります。

「シャルモンとは仲良くしてくれているみたいね?」

「っ・・・はい」

 緊張していた私は、返事がひと呼吸、遅れた。

 紅茶のカップをソーサーに戻したタイミングで、〈花捧げ〉の手順の話から、突然シャルモン殿下との話に、話題が変わったのだ。


 その日、私は王妃様に呼ばれて奥宮の一室でお茶を頂いていた。

 王宮教育の進捗状況を褒められ、近づく婚約式の前に行う、神殿への〈花捧げ〉の注意事項を聞いた後だった。


「あの子はすごく素直で優しい子でしょう?」

 目の前に座る王妃様が、シャルモン王子とは血の繋がらない義理の関係だと聞いたのは、婚約式の日程が正式に決まったごく最近のことだった。


「優しすぎて、少しは我儘を言って欲しいくらい。ねぇ、貴方には少しは我儘を言っているかしら、あの子」

 〈あの子〉と呼ぶ王妃様の顔は、子供を心配する母親そのものだ。


ーー義理とは思えないぐらい、王妃さまはシャルモン殿下を大事に思われているのね、って勘違いしそう・・・。


『ふしぎ〜』

『黒魔術つかってる』

『おうじさまの自我しばってるのにね〜』

『お人形、ワガママいわな〜いっ』

『人間、フツーに矛盾いう』


ーー分かってるから、ちょっと黙ってて!


 腹筋に力を入れて、私は笑顔を保つ。


「いいえ、我儘なんてーー殿下には、いつも私の方がお優しいお言葉とご配慮を頂いております」


「そうなのね、残念だわ。我儘も言わず優しいあの子だからこそ、周りに合わせ、影響を受けやすいのではないかと思うの。特にこれからは学園に通うようになるでしょう?側近候補は(わたくし)自身の目で選別したけれど、人はどうしたって変わっていくものだわ。ガルーダが付いて行けない学園で、あの子が変な影響を受けないか、とても心配なの。ずっと優しいままでいてもらわなくてはいけないもの。エルバーラもそう思うわよね?」


「・・・はい。王妃さま」

「なら、貴方もやるべき事が分かるはずよ」

「やるべき事、ですか・・・」

「婚約者として」


「申し訳ございません、王妃さま。御心を推察するなど未熟な私には、まだまだ恐れ多いことでございます」

「分からない?」

「はいーー」

 私は申し訳なさそうに頷く。


「いいのよ。歳に不似合いなその分別(ふんべつ)を見込んで、貴方を婚約者としたのだから」

「王妃さまのシャルモン殿下に対する、深いお心遣いに感銘するばかりでございます」

「なら、シャルモンの学園での行動や考えを私に報告してくれるかしら?」

「ーーわたくしが、ですか?」

「ええ」

 学園に入ればいつもの年配の侍従以外に、王族には同年代の側近や専任の〈影〉も付く。


 彼らの報告もあがる上で、更にエルバーラの報告を求める王妃さまの意図が見えなかった。


「深く考えないで。私にはあの子が特別なのよーー来たるべきその時まで、ひと筋も瑕疵を付けたくはないの」


ーー来たるべきその時?


傍付(そばづ)きがする〈普通〉の見て聞いて観察する事だけでなく、あの子の心の動きにも気をつけておきたいの。婚約者となる貴方なら、常にあの子の心を感じることができるでしょう?簡単なことで良いの。勉強が楽しそうだとか、同級生の対応にとまどったとか、元気がなさそうだ、とか貴方が感じたシャルモンの心の動きや行動をメモに取って、毎日ガルーダに渡してちょうだい。もちろんシャルモンには秘密でね」


 母親の子供に対する、過干渉な依頼だ。

 まるで監視かスパイのような行動を求められ、すぐに了承の言葉が出てこない。

 

「毎日ーーでございますか」

「そう、学園での毎日。ーーできるわ、だって貴方、フランチャスカ侯爵の娘ですもの」

 拒否を許さない微笑みで、王妃さまはまっすぐに私を見た。威圧だ。私の戸惑いはますます大きくなる。


「ですが・・・私の主観がーー御心を推察しても、単なる勘違いである場合もあり得るかと」

「それでいいわ。深く考えないでちょうだい。貴方の意見はシャルモンを守る為のものであり、フランチャスカ侯爵の為でもあるの。シャルモンの様子に気を配り、常に注意して、こっそり私に報告なさい。いいわね?これは正式な命令よ」


「・・・かしこまりました」

 それ以外の言葉が返せなかった。


ーーあれほど品行方正で、大人しく、真面目なシャルモン殿下の何を警戒しているのか。


ーーどうして監視をさせようとするの?


ーーフランチャスカ侯爵の為でもある、ってどういうこと?


 結局、王妃さまに聞く勇気もタイミングも持てず、その場を粛々と辞す。重く感じるドレスごと足をノロノロと動かして、シャルモン殿下との茶話(こうりゅう)に向かった。


 その途中、回廊の途中で第一王子のシャミール殿下一行と行き合う。

 頭を下げ、回廊の端に寄った私の前で、第一王子がわざわざ足を止めた。


「シャルモンの婚約者かーー」

「お初にーー」

「今ここで挨拶を交わすつもりはない」

 ナイフのような切れ味に、私は背中に汗をかく。


「失礼いたしました」

「勘違いしないで欲しい。紹介は婚約式でシャルモンからされるべきものだからな」

「御意」

 頭を下げたまま、なるべく小さくなる。


 早く通り過ぎて、と願う私の気持ちとは裏腹に、第一王子だけが、数歩こちらに近づいてきた。


 低めた声が届く、ぎりぎりの近さだ。

「王位はシャルモンには渡さぬ。いくら母上やその方の父親が画策しようと、王太子は現王の意思を継ぐこのシャミールであると心得よ」

「・・・」

 思わず顔を上げた私は、陰鬱で暗い瞳とまともに視線を合わせてしまった。


ーー王太子って・・・コレ牽制なの?!


ーー王妃様とフランチャスカ侯爵!?なんで・・・?


ーーだって第一王子は王妃様の実子なのに、仲が悪いの!?


「驚くか・・・」

「申し訳ございません」

「よい・・・そうか」

 ふわりと優しい王子さまの雰囲気に戻った美青年は、やや乱暴に金髪をかき上げる。


「その方も、シャルモンと同じか・・・」

「お言葉、意味を推察し難くーー申し訳ございませんが、その意図をお伺いいたしたく存じます」

 率直な表現で、シャミール殿下の瞳を見返す。


 不敬を問われるかもしれないが、まだ7歳で準社交の場にも出ていない。聞いて許されるのは、今この時だけだろう。


ーー自分の立ち位置分からないって怖いのよ!教えて王子様っ!


 私が意を決して言葉を返したことが、よほどびっくりだったのか、シャミール殿下は素の表情を覗かせた。


「ーーその方はシャルモンをどう見ている?」


ーーどう?


「お優しく・・・強い方だと」


 光魔法で黒魔術を解こうとしたあの一瞬、『ガルーダに気をつけて』とわざわざ忠告してくれた意志は、シャルモン王子の確かな強さだと、私は思っている。


「そうか。ではフランチャスカ侯爵は?父親をどう思っているのだ?」

 次に問われて、心の中では罵詈雑言が一瞬で山盛りに溢れだす。


ーーあのクソをどうかですって!?クソはクソ(失礼!でもっ)クソはクソでクソ以外ではありえなくてっ!以下略


「ーーすべての原因クソです」

「は?」

「根絶すべきといいますか、諸悪の根源ーーいえっ、厄介な・・・あのですね、生物上の原因といいますか、不要な所縁(ゆかり)・・・面倒なそんざ・・・ではなくっ、なんといいますか」

 思った以上に悪口しか出てこなくて、無性に焦ってしまう。誤魔化そうとするが、ごまかす表現が見つからず、余計に迷走する。


「あ、あのっ、侯爵は侯爵ですっ!」

 なんとか無難な表現に落ち着いたところで、第一王子殿下が、笑い声を立てた。周りの側近や護衛が驚いている。


「ははは。愉快だ。なるほどなるほどーー訂正しよう、君はシャルモンとは違う」

「シャミール殿下・・・」

 王子の高い笑い声に、すれ違う侍女や官僚がこちらを注視している。


「このまま、君とシャルモンが母上達に巻き込まれないことを願うぞ。王位継承争いなど不毛だ」

 そう小声で言うと、シャミール王子はさっと距離を取る。


「シャルモンとの婚約式、楽しみにしているよ。フランチャスカ侯爵令嬢」

「お言葉、ありがとうございます」

「これから茶話か、シャルモンによろしく」

 周りに聞かせるように、シャミール王子はそう言って去っていった。私は流れに沿って深い礼をとり、王子を見送った。


ーー結局、詳しく聞けなかった。


『あの王子、人王の魔法ある』

『人王の〈律〉が成り立ってる』

『王家は〈律〉の中』


ーー〈律〉ってなに?


『えっと』

『う〜ん』

『神さまの力?』

『構造?枠組み?知の構築?』

『加護?ーー護られる仕組み』


ーー護られる・・・って、もしかして黒魔術から?


『たぶん』

『王子さまも王さまも姫さまも、同じマホー』

 いつも通りの自信満々な調子で、言いつのる妖精たち。


ーー前々から思ってたんだけど、なんで超越的な仕組みについてまで分かるの?


『だって妖精だもの』

『妖精は〈識る〉の』

『妖精は〈見れる〉存在なのよ』


ーーナニを識るの?ナニが見えてるの?


 〈妖精〉について、もっと知りたくてそう聞いたのに、妖精たちはやっぱり基本はチクリ屋で、意地悪だ。饒舌なのは悪口だけ。


『王家は人王に〈律〉(マホー)もらってる』

『トクベツ?たぶん』

『特別じゃないよ』

『うん、必然だ』

『必然じゃないよ』

『どうでもいい?うん』

『王家はどうでもいい、フツー』

 結論は、私には分からない根拠によって、内輪だけではじき出される。


『王家はフツー』

『フツーの加護』

『人王の加護、ウスイ』


ーーじゃあ、王妃様は?上王は?シャルモン殿下は?


 いつも饒舌なチクリ屋たちが、私の質問にいっせいに沈黙する。


ーー・・・もしかして、識らないの?


『違う!〈妖精〉識る存在』

『でも、力ない』

『妖精王子の雛の側近』

『偉い妖精、たぶんワカル』


 (マール)がいなくなった時の事を思い出した。あの時の上品な声が、ギーヴのトンデモ情報を教えてくれたんだったけ。


 どこか気落ちする妖精たちーーチクリ屋達にも、識る事ができる事とできない事があるのだと知れたのは、私には大きな収穫だ。

 何でもかんでも頼るには、〈妖精〉は便利すぎて怖い。

 それに。


「乙女ゲームは、テンプレだけじゃ駄目なのね・・・」


ーー結局、現実はコロコロ変化する。行動1つ、息遣い1つ、気持ち1つで。


ーーこれをゲームに当てはめようとするなら、世にいう無理ゲーってヤツよ。


 果たして、〈エルバーラ〉は無事に婚約破棄され、〈第二王子〉はヒロインと結ばれて王になる、というハッピーエンドルートでクリアできるのか。


 私は、大いに疲れてため息をついた。





黒騎士倒せ編です。

その前にちょびっとエルバーラの現状を。

ここが流れが変わるキモになるので、短く分かりやすく行くつもりです。


次の学園編に行けば、エルバーラ視点もいらなくなるはず。。。?

お付き合いいただけると嬉しいです。


相変わらず誤字脱字増産中。

時々修正してますが、放置も多いので見逃してください。


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