ワッツ辺境17〈辺境の餞〉
読んでいただきありがとうございます。
辺境での残りの日々、僕はお世話になった冒険者ギルドや顔見知りの冒険者たちに挨拶したり、商店通りのおばちゃんたちやおやっさんたち、異国の癖ツヨ商人たちに会いに行きがてら、土産を買ったり保存食を買ったり。騎士仲間と宴会したりした。
そして何よりどうしても、もう一度行きたい樹海の遺跡に、1週間を割いた。
戻る準備はギッシュに押し付け、騎士団で寝起きしていた時から、色々面倒を見てくれていたトビーと、更なる習熟を求めて腕を磨くチャンクスを伴って、僕は遺跡に向かう。
遺跡内の魔物はとても強かった。
だが、辺境で騎士をするトビーの勘の良さと柔軟さ、どこまで強くなるの?っていうくらい魔法騎士全開のチャンクス、そして魔法チートとドワーフ特別製の剣を最大限に活かす剣技で爆進進化中の僕ーーどんどん突き進むには、とても都合の良いチームだった。
ーーリボさんと二人の時は、リボさんが強すぎたんだよね。庇われちゃうし、マリーンさんとリリィを保護してからは、守りに神経を使ってたから。
個々人が、個性の強い戦い方だからこそ、対等に補い合った時の、カチリと噛み合った具合が心地よい。
遺跡にある安全地帯にたどり着いたときは、それぞれ貴重で高価な大物をかなり倒していた。
「臨時給金エグいーー何度か死にかけたけどな」
「ほんとS級魔物しんどい」
「ギーヴは随分、魔法剣が熟れたな」
トビーが水袋から口を離し、袖で拭いながら言う。
「ええ。主の進歩は目を見張るものがあります」
「なに言ってんの。チャンクス、辺境で一番化けたのはチャンクスでしょ」
僕はジト目でチャンクスに言う。
辺境に来てから、チャンクスは騎士団長や副団長、騎士団トップ5と対等に渡り合い、僕より先にB級冒険者になっている。
ーー主より弱い騎士は、護衛騎士とは呼びません、って淡々と言われた時は、本気でちょっと怖かったなぁ。
ーーでもまぁ、僕もモーグ魔法と魔法剣の二刀流ではチャンクスに負けるつもりはないけどね。目標はあの黒騎士打倒だから。
「そう、化けた化けた」
トビーも同意してくれる。チャンクスは苦笑して珍しく、表情を崩した。
「必死ですからね。モーグの騎士としては学ばさせいただけることは、すべて学んでモーグに持ち帰るつもりです」
言葉はギラギラしていないのに、チャンクスはずっと全力で狩猟者だった。
ーー僕が、モーグの剣技ではなく、辺境を選んで剣技を学びたいと思ったことが悔しかったんだよねぇ、きっと。
「そういう前向きな貪欲さが、王都の貴族っぽくねぇよな。チャンクスは王都より辺境の方が合うんじゃないか?強くなれるんだから、辺境にいろよ」
「とびぃぃ、勧誘しないで。チャンクスは僕の側近」
「ギーヴも辺境にずっと住めばいい。姉御も喜ぶぞ」
笑顔で勧めてくるトビーに、僕は肩をすくめる。
「無理。辺境は楽しくって、いっぱい成長させてもらったけど、王都には欲しい人も責任も義務もあるからさ」
そう言い切ると、トビーは残念そうに息をつく。
「義務なぁ・・・上級貴族も大変だ」
「でも、きっとまた来るーーこの遺跡を完全攻略しに来るよ」
「ああ、絶対来いよ!」
そんな会話をしながら、僕たちは5日程で途中の遺跡を後にし、前もって許可をもらったリボさんの家で一泊してから、イカルガに戻った。
そして2週間過ぎても戻って来ないリボさんを心配しつつ、僕は騎士団に来ていた。
ーー今日こそ、お祖母様に一太刀入れる。全力で。
◆◇◆◇
「ギーヴィスト、よく来たわ」
約束の時間に出向くと、赤金髪の戦神がすでに闘練場で待ち構えていた。
いつから、〈ギーヴ君〉ではなく〈ギーヴィスト〉と呼び捨てで呼んでもらえるようになったのかは、覚えていない。
でも、柔らかくも厳しいーーひとりの大人として認められたようなこの〈呼び捨て〉が、僕には殊のほか嬉しくて、同時に身が引き締まる。
「今日は初めて魔剣で相手をしてもらえるんですね」
闘練場で初めて手合わせしてもらった時と違い、リンダお祖母様は簡易胸当てを付け、愛用の魔剣を腰に下げていた。
「結界の魔導具を準備したわ。遠慮しないで全力でいらっしゃい」
「白魔法を使っても?」
「回復しながら戦う余裕があるのならね」
「ーーどんな魔法を使っても、黙っていてもらえます?」
「認識阻害の魔導具も用意してあるわ。トントと騎士団のみんなには、合図するまで近づかないように、って言ってあるの」
どこまでも準備万端なリンダお祖母様に、隠し事はできないんじゃないかと思ってしまう。
ーー駄目だ!剣を交える前から準備で負けてそう・・・。でも、気持ちは負けない!
「ーーありがとうございます」
「ふふ。男の子はすぐに大きくなっちゃうわね〜」
ふうっと息を抜いて、僕は僕の剣を構える。
剣に雷の魔力をまとわせる。そしてーー。
最初は剣と剣との力比べだ。
3年前は魔力を剣に纏わせるだけでもムラがあった。
全力で押しても、簡単に押し返された。雷同士が弾け合い、軽く払われて、僕だけが痺れて身体が重くなった。足がもつれて動きについていけなくなった。
ーーでも今は違う!
力比べなら、もう負けない。雷魔法の沿わせ方も、剣を振るうタイミングや受け流すタイミングも、お祖母様に鍛えてもらった。
上に下に、右に左に、対等に剣を合わせるリズムが、足運びがようやくお祖母様に追いつく。
ーーいっぱい鍛えてもらった。
ーー何度も教えてもらった。
電気が走るたび、剣圧に屈しないたび、僕は自身の成長を実感する。
でもこのままじゃ、まだ勝てない。
百戦錬磨のお祖母様に勝つためには、魔法剣だけじゃ足りない。だから、考えて組み立てた作戦。
「モーグ混合魔法ーー〈万華鏡〉起動!」
闘練場1面に、火、水、風、土と雷の魔法陣が万華鏡のように展開する。
僕の動きに合わせ、魔法陣の組み合わせがくるくると変わっていく。
ひとつひとつが大きい魔法陣なので、テドさんのような機動力と死角などを塞ぐ繊細さはない。
それでも、魔法剣がある。剣撃に合わせ、〈万華鏡〉の魔法陣がお祖母様を攻撃する。
「5属性か、起動が早いし、それぞれの属性が打ち消し合っていないーー考えたもんだっ」
リンダお祖母様の口調が乱暴になってくる。
その間に、僕はランダム攻撃を展開してお祖母様の足を止める。
だが、リンダお祖母様は動じることなく、飛び上がって魔法陣を切り捨てていく。
ーー早いっ!分かってたけどっ!
切り捨てられた魔法陣の代わりに魔法剣で切り掛かる。
まともにぶつかる剣に、ブォンという音が鳴り、遅れてしびれがやってくる。
身体を走り抜ける前に、水魔法で電気を地面に逃し、切られた魔法陣とは別の魔法陣が自動で起動して、お祖母様を攻撃する。
その攻撃魔法に合わせて、僕はリンダお祖母様に襲いかかる。
蹴られるところを交わして、懐に踏み込んで突き刺す。
「いいねぇ〜やるじゃないかっ!」
お祖母様が笑った途端、僕の腕も足も脇腹も、魔剣に切り裂かれた。
「治癒」
瞬時に治して、同じようにお祖母様の首と背中を、上から切り裂く。寸前でかわされ、魔剣が唸る。衝撃音が響いた。
ふっとばされたところを、〈万華鏡〉の魔法陣が位置を変えて別の模様を完成させる。
すると複合魔法が発動して、お祖母様に襲いかかりーーお祖母様が魔法陣を斬る、その隙を、僕は魔法剣で切り掛かった。
その刹那。
「ーーっ」
「・・・!?」
ようやく初めて、リンダお祖母様にひと太刀を浴びせた瞬間だったーー。
◆◇◆◇
その後の長い時間、お祖母様との手合わせを存分に行い、闘練場でひっくり返った頃、トントお祖父様と騎士団のみんなが現れた。
お祖母様にひと太刀浴びせた事を祝われ、闘練場の荒れ具合を見て、手合せを申し込まれる。騎士団全員と順次相手をしている内に、僕は体力の限界も魔力の限界も味わい、動けなくなる。
「ギーヴィスト、覚えておきなさい。動けないという限界にある先の感覚を」
リンダお祖母様の言葉が心に残る。
最後の最後までぶっ飛ばされ、僕は抜き身の剣を片手にボロボロになりながら、意識を失って辺境での生活を締めくくった。
次章に行けそうです。ようやく暗躍が始まります。
タイトル回収うまくイケるといいのですが。。。




