ワッツ辺境11〈リリィの魅了〉
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その後、妖精たちとの距離感がつかめない僕はーーどう接していいのか分からず(逃げ出して)、ついでにその強すぎるおしゃべりも聞こえないことにした(キコエナイキコエナイ)。
実は出会った夜に、領都の落ち着ける場所にたどり着くまで、妖精たちには一切の手出しのお断りを、お願いしていたのである。
「あっ!」
「こっちっ!」
僕はリリィを引っ張る。
その拍子にリリィの髪からリボンが外れ長い髪がばさりと広がった。庇うように前に出て、ブラックウッドを3段切りで倒す。
僕の背中のシャッをぎゅっと握りしめていたリリィは、大きく息をついた。
「ありがとう」
うん、と頷いて、リボさんとマリーンさんを見れば、ブラックウルフ4体を千切りにしたリボさんが、倒れかけたマリーンさんをお姫様抱っこして、魔物の急所を斬り付けつつ、駆け抜けてきた。
樹海の家を出発して、最初の頃はリリィがさらわれる度に、右に左に助けに行き、その結果遠回りをしていたのだが、道程の半分を越えると流石に僕もリボさんも慣れてくる。
それは守られる側のリリィとマリーンさんもそうで、リリィの場合、魔物が来るとさっと僕の後ろに隠れ、背中のシャツを握っているようになった。
マリーンさんの場合は魔物を防いだ後、代わりに倒したリボさんにお姫様抱っこされて、僕たちのところへ走って合流することが多かった。
この頃には、騒ぐ妖精美女たちの声にも慣れてくる。いわゆるBGM化だ。
夕方前、ほぼ一日かけて、僕たちはようやく樹海を抜けた。
街道にたどり着くと、旅路を急ぐ商人や旅人を数人見かける。
「少しだけ休むか」
リボさんがそう言うと、リリィやマリーンさんがほっとしたように頷いた。
ただでさえ歩き慣れていない樹海に加えて、異常に魔物に襲われまくった道程は、女性にはさぞ辛かっただろう。それでも二人は笑顔を見せていた。
「はい、フィナンシェとお水ね」
街道の途中にある草原の上に腰をおろして、僕は収納からお菓子と水袋を出す。3人にそれぞれ渡した。
「えっ、いいの?予備なくなっちゃう」
リリィが瞳を輝かせながらも、心配してくる。
「大丈夫。10日間ぐらいは孤立しても大丈夫なように、多めに準備してあったんだ。今回はリボさんの家にも寄ったし、魔物の肉もあったから、全然残ってるんだ。休憩する余裕もなかったしね」
僕がそう説明すると、女性陣は嬉しそうにフィナンシェを手にする。
「美味しぃ〜生きてる〜ぅ」
マリーンさんが勢い良くフィナンシェにかぶりつき、リリィもはむはむと夢中で食べている。
「こんなに美味しいもの初めて食べたぁ。これどこで買ったの?冒険者ギルド?」
「う、ん?いや違うよ・・・僕の家の・・・」
なんとなく口ごもってしまう。
「モーくん家の料理人さん?すごいね!お貴族さまはこんなに美味しいもの、いつも食べてるんだ〜すごいっ」
リリィがそう言った途端に、リボさんが大笑いする。
「コレは特別だ、なぁ?ギーヴ。あの強烈な側近の愛情たっぷりの手作りだろ」
「リボさん、言わないでよ。気分的に不味くなっちゃうから。ーーこれ、僕の側近のお手製なんだ。王都から一緒に来たんだけど、辺境でお菓子作りに目覚めちゃってさ」
僕の収納に入っている保存食やお菓子は、料理に目覚めたギッシュが、騎士団の厨房を借りて作っている。
チャンクスのように僕と一緒に魔物討伐ができない代わりに、後方支援をすると言って初めたことだった。
それなのにギッシュの作ったお菓子が、なぜか騎士団で大人気となった。調子にのったギッシュは、様々な異国のお菓子を試し、その試作品をウンチクと共に、自慢げに僕に押し付けてくるようになった。
その様子をネタに騎士団やリボさんが「愛されてるね〜」とかなんとか、僕を揶揄するのである。
僕的には、あんまり嬉しくない側近愛の表現方法である。
「そっか側近さん・・・そういう人がお貴族さまにはいるんだね」
「リリィだってマリーンさんがいるだろ」
「マリーンさんにはーーもう申し訳なくってっ。護衛のトループさんもそのままにしてきちゃったし」
リリィはマリーンの顔を見て頭を下げる。
「リリィお嬢さま・・・」
マリーンさんも護衛騎士のことを思い出したのか、辛そうな表情を浮かべた。
「魔物に襲われて亡くなったなら、冒険者ギルドや国境警備兵が埋葬しているはずだ。屋敷に着いたら問い合わせしてやるから、もう気にするな」
そう言って、マリーンさんとリリィを慰めるリボさん。
その時、小さな声でリリィが弱音をこぼす。
「私、本当にお父さんのところに行ってもいいのかな?こんなにさらわれちゃうのに・・・」
「リリィお嬢さま!そんなの気のせいですっ。きっと魔物がたくさんいた国境だから襲われただけですよ。ね?リボルバーンさま、そうですよね?」
マリーンさんが正直者のリボさんに聞く。案の定、リボさんは腕を組んで唸った。
「ーー気のせい、じゃあねぇなぁ・・・」
「やっぱり」
「リリィお嬢さま!」
「マリーン、いいの。だって、お母さんと私がアカディアント国に住むことになったのも、私がさらわれたからだもん」
「さらわれた?」
「そうなの」
リリィの話によると、5歳の時までアルディア子爵領の下街に母親と住んでいたらしい。その時は、子爵も時々会いに来て、普通に仲の良い家族だと思っていたらしい。
ところがある時、慣れた街角でリリィは突然さらわれた。そのままアカディアント国へ連れて行かれ、奴隷商人に売られてしまったらしい。
その奴隷商人がアカディアント国に、たまたま脱税で摘発され、保護されたリリィの事がアルディア子爵に伝わった。
リリィの母親と子爵が迎えに来てくれたが、リリィの存在が子爵の正妻にバレて、危害を加えられる可能性が疑われてしまった。
さらわれたのも正妻の差し金だったのでは、と心配したリリィの母親が、ルクス王国に戻ることを拒み、アカディアント国の田舎に住み着いたのだという。
「リリィのお母さん、すごくしっかりした人だったんだね。他国に行くのも大変なのに迎えに行って、他国で暮らす決断をするって、すごいよ」
「お母さん、腕のいいお針子だったの。仕事はどこででもできるから、私が安全に暮らせる場所の方が良いって言って」
「優しいお母さんだね」
「うんーーうん!」
亡くなった母親を思い出して、涙目でコクコク頷くリリィに、僕は少し共感してしまった。
ーー僕も、ハナさんやクリス母さま大好きだったし。
「でもさらわれたのが、亡くなった子爵夫人のせいじゃなくって、私に原因があるんなら、このままお父さんのところに行くより、アカディアント国に戻った方がいいのかなぁって思っちゃった」
細い声で呟くリリィに、僕はなるほど、と同情してしまった。
ーー流石にあれだけ魔物にさらわれまくると、不安になっちゃうよね〜・・・。
僕はちょっと考えて、収納から土産用の髪留めを取り出す。
アンナや他の侍女、お世話になっていたメイド達の為に、土産を買いだめしていた。髪留めはその一つだ。
「リボさん、ワイバーンの魔石貰っていい ?」
「ああ、いいぞ。どうするんだ?」
髪留めの真ん中に付いていた石を剣の柄で割って外し、リボさんが倒したワイバーンの魔石も割って、合う大きさの欠片を髪留めの真ん中にはめ込む。
ーー融合
錬金の魔法の後に、モーグ魔法で改良した〈魔法無効〉の一方向限定の簡略魔法陣を欠片に刻んだ。
「簡略版だけど、コレ付けてみて。あげる」
「いいの?」
「うん。この髪留めお土産用だけど、ちゃんと銀製品だから普段使いにできると思う」
マリーンさんが受け取って、髪留めでリリィの髪を一つにまとめた。
「気休めだけど、魔物避けの魔法陣を刻んでおいたから、もう魔物にさらわれることはないと思うよ」
「魔法を使ってくれたの?」
リリィがびっくり顔で言う。
「魔術師じゃあないから、冒険者の使う魔物避けの簡略版ね。心配なら子爵に頼んで魔術士にやりなおして貰って」
「ううん!ありがとう・・・嬉しい!」
右手で髪留めに触りながら、リリィは想像以上に喜んでくれた。
「ほんとにほんとにありがとう!モーくんは大恩人だよ。私、この髪留め、一生大事にするねっ」
「そ、そこまで気にしないでよ、簡略版だからね!」
僕はちょっと照れてしまう。
魔術師が触れば解けてしまうモーグチートの魔法陣だが、少しでもリリィの気持ちが楽になればいいと思う。
ーー〈魅了〉のことは伝えられないけど、魔術師のところに行けば、きっとなんとかなるよね?
この時の僕は、リリィの〈魅了〉について、その程度に軽く考えていたのだった。
ギーヴくんの無意識のやらかし(笑)です。




