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悪役令嬢は執着されてハメられる  作者: ちょしゃなげ
第4章
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ワッツ辺境9〈妖精王の伝言〉

お読みいただきありがとうございます。


次の更新は土曜日になります。

 そこは、樹海中の花が咲き乱れる場所だった・・・。


ーー秘密の花園?ってぐらい花の香りが芳しい。


 水の流れる音がする。

 僕はちょっと考えて、ゆっくりと音に向かって歩き出す。


ーー手足は問題なく動くし、今度は意識もぼんやりしていないや。


 みずみずしい緑の木々。蔦がまとわりつき、花が咲いて華やかに空間を彩る。

 時々、小鳥の高いさえずりが耳をかすめていく。


 穏やかで癒やされる、美しい桃源郷(ユートピア)のような場所だ。


 小さなリスが先導するように、僕の足元を駆け抜け、先へと促す。


 そうしてたどり着いた先は、鏡のような湖面を持つ、清廉な湖のほとりだった。


 湖の中央には、なぜかソファーセットが浮いており、銀髪の青年が白いソファーで寛いでいた。


『おかえり、6番目の僕』


ーー6番目?


『僕は2番目だよ。休んでいかない?』


 にこりと笑った顔に、見覚えがあったーー鏡で見る自分の顔が、もっと成長した時のよう。


「あなたが〈妖精王〉ですか?」

『お茶を飲むよね?』

 質問を質問で返す僕の癖ーーなんだかドッペルゲンガーみたいで気持ちが悪い。


 それでも湖面を歩き、僕は青年の向かい側のソファーに座った。

 毒を食らわば皿まで、ってヤツだよね。


『さすがだ、僕。逃げる選択肢はないもんね』

「そのわかったように言うの、止めてもらえませんか?2番目さん」

『どうぞ、6番目の僕』

 いつの間にか、湯気の上がるコーヒーカップが僕の前にあった。

「お茶じゃなくコーヒー?」

『紅茶より好きでしょ、僕たち』

「・・・」

 無言で僕はコーヒーの匂いをかいだ。


 とても懐かしい、普通のブレンドコーヒーの薫りだ。

 僕は、前世ぶりのコーヒーを味わう。


「それで?僕を転移させて何をさせたいの?」

『まだ若いからかなぁ、6番目の僕は余裕がないんんだね』

「・・・」


『挑発にはのらない?』

 楽しそうな様子に、少し苛つく。


「あなたは()ですか?」

『ふふふ・・・僕は〈妖精王の欠片〉。2番目の生まれ変わりの記憶』


「生まれ変わり?まさか6番目と呼ぶ僕も?」

『正解。君は生まれ変わりの6番目の僕みたいだね』


ーー6番目って6回目の生まれ変わりって事?じゃあ、日本人の前世は?


「・・・そんな記憶ないです。僕は僕ですから」

『そう?多分、4番目の僕と5番目の僕が何かしたんだよ』


「3番目の僕が抜けてますが?」

『3番目の僕は悲しんで砕けたんだ』


「砕けた?」

『うん。愛する人に出会う前に失ったからね。3番目の僕は4番目の僕にすぐに譲ったんだと思う』


「と思う?って推測ですか」

『4番目の僕と5番目の僕は、ここに来てないから分からないんだよ』


「分からないのに僕が6番目だというのは分かるんですね?」

 ついつい刺々した言い方になってしまう。


 これが同族嫌悪と言うやつかなぁ、と感情分析して自分を落ち着ける。


『分かるんだから仕方ないよね?それに、6番目の僕のすぐ近くに彼女がいる事も分かる』

「彼女?」


『愛する人ーー永遠の伴侶だよ』

「伴侶ってーーエルバーラ!?」


『分からない。それは君が見極めること』

 含みがあるような言い方に、僕はどうしても平静ではいられない。


ーーいちいちカチンとくるんだよね〜。


「なんだか問答をしているようで疲れるんですが、結局ご用件は何でしょう」


『ーーそうだねぇ、〈判定〉?になるのかは分からないけれど、6番目の僕には必要なことだと思うよ?』


「〈判定〉ってーー選ばれた〈妖精王〉の血筋かどうかを調べるんですか」


『地上でどう伝わっているのかは正確には知らないよ。

2番目の僕は、愛する人とここで幸せに暮らした〈記憶〉と、愛する人と巡り合うための〈伝言(ミニーマ)〉を伝えるだけ。

だから6番目の僕は〈妖精王〉であってまだ〈妖精王〉ではないね。

1番目の僕は〈妖精王〉だったけれど〈妖精王〉としては完全ではなかった。

2番目の僕は〈妖精王〉ではあったけれど、もう〈妖精王〉ではなかった。

3番目の僕は〈妖精王〉でなりかけたけど〈妖精王〉になることを選ばなかった。

4番目の僕と5番目の僕は〈妖精王〉になれなかったはずで、選ばなかった』


「・・・は?」


ーー途中から〈妖精王〉かどうか、の話になっていない?トータス山脈や樹海とかの話は?


 2番目の僕が僕を見ている。

『さぁ、6番目の僕はどうする?』

「どうするって、さっきあなたが言ったことはーー。6番目の僕は〈妖精王〉であってまだ〈妖精王〉ではない」


『君が終わりにするのか、永遠を続けるのか選べばいい』

「なにを?」


ーートータス山脈と樹海を消すかどうか?


『〈妖精族〉は〈妖精王〉の帰還を待っている。だけど、〈妖精王〉は愛する人との永遠を願っているーーさぁ、〈人王〉よ。お前の〈鎖〉はいつまで絡みつく事ができる?』

 畳み掛ける言葉の中に、聞き覚えのある言葉だけが耳に留まる。


「〈人王〉ーー」


『〈妖精王〉に戻ることを選べば〈人王〉の鎖は消える。消えれば〈妖精族〉は喜び、永遠と記憶は失われる。〈妖精王〉に戻らなければ、欠片である僕たちは〈永遠〉に〈人王〉の鎖の中であがくことになる。愛する人を求めて繰り返す出会い。〈人王〉の鎖は強く重くなっていくだろうーー』

 重ねられる言葉。


『選ぶのは、6番目の僕だよ』

 微笑んだ2番目の僕の笑顔を最後に、色とりどりの花吹雪が舞う。視界を埋め尽くし、2番目の僕を飲み込んだ。だが見えなくなっても、懐かしい匂いと暖かな感情が、記憶として僕に贈られてくる。


ーーああ・・・幸せだ。ただ幸せ。


ーー永遠ではない住処での記憶は、ただただ幸せと喜びに満ち溢れ、幸せの期限が来ても、取り戻すことを願って決意を胸に立ち尽くす。


ーーそうだ、僕は。


 目の前に広がる花園と湖。そこはかつての幸せの場所。


「かつてここで幸せに暮らしていたーー〈妖精王〉だった・・・」

 確認するように呟いた瞬間、僕は二度目の覚醒をしていた。



1度目の覚醒は7歳の〈人王の祝福〉です。今回が2度目です。


メンタル的な問答が続きましたが、この辺でようやく終ります。

次はイカルガへ。辺境編はあと少しです。

辺境エピソードは少し省略したのですが(恋愛メインの話を勧めたいので)、何とか4月に完結できるようにがんばります。

お付き合い頂けると嬉しいです。

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