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悪役令嬢は執着されてハメられる  作者: ちょしゃなげ
6/19

変化

誤字脱字駄文のみ修正してます。スミマセン!

 

 僕は熟睡していたようだ。

 壊れた自鳴琴オルゴールのように眠れば夢の中で、何度も彼女を思い出していたのに、今は頭の中がスッキリしていた。


 スッキリ目覚めた視線の先に、針山の黒蜥蜴もどきがいる。

 昨夜の出来事の証明のように、変わらずソコにいた。


 ーー僕の〈独占欲〉。


「テオさん、本当にここに来たんだ・・・」

 今思えば、父親との会話は分からないことだらけだ。


「あれって、結界が薄くなっててーーテオさん、修復に来たんだよな・・・気づかなかったけど、家全体?それとも敷地全体に、テオさんは結界魔法張っていてーーそれはクリス母さまのため・・・その結界を壊しそうになったのが僕の魔力暴走?」

 暴走?と聞いてあまり心当たりが浮かばない。


 想像する魔力暴走は、建物の破壊や周りにいた人間を巻き込んで危害を与えていまうものだ。自分では魔力が止められない状況だから暴走という。

 でも、あの時僕は熱が引いたばかりの、いわゆる病み上がり状態で、魔力や体力が確実に落ちていた。


「でも、それでも何かしてしまったんだ。それでクリス母さまを死なせるところだった・・・」

 想像するだけでゾッとする。そして同時に父親の本気の怒りに威圧されたことも思い出して、身震いした。


「ハナさんがテドさんを岩熊だって言ってたの、納得だよ。弱い魔獣なら、岩熊の鋭い爪の一撃で致命傷を受けることもあるって読んだことあるし、あんなに魔力があるって、普通じゃないよ。どうして魔法騎士にも魔術師にもなってないんだろ」


 疑問だけが増える気がしたので独りごとを止め、僕は起き出す。そして父親に言われた針山の黒蜥蜴を枕の横から両手で持ち上げた。


「お前のこともよく分かんないな。でもやっぱり、つながってる気がする」

 鋭い切っ先の針の部分を摘んで、左右に小さく動かしてみる。すると置物のようだった黒蜥蜴の手足が、僅かに動いた。針に触られるのは嫌らしい。


「独占欲か。彼女をーー独占したいのかな・・・僕は」

 黒蜥蜴もどきの埋没した黒目が、濡れたように光る。

 僕を見上げた気がした。


 黒蜥蜴もどきと僕。

 シリアスに未知との遭遇に浸っていた空気を、脳天気な声が吹き飛ばす。


「ギーヴぼっちゃーん、生きてますかぁ、熱どぉですかぁ?ガキのくせに腹黒ぶって鬱々するから寝込むんですよ!がっつり食ってバッサリ気持ちを切り替えてっーーーうぁお!それなんですか!?」

 家令見習いの青年がいつもの軽口を叩きながら、僕に前に来ようとして飛び上がる。


「魔物!?」

「じゃないっ」

「嘘っす!無気味っす~」

「ホント。テドさんも知ってるから、ペットみたいなモンだと思って」

「えぇ~どう見ても、気持ちが悪い魔物に見えます。侍女たちやクリス様には見せない方がいいですよ~うぇぇっ」

 無気味、気持ちが悪いと盛大にわめかれて、僕はだんだん機嫌が悪くなる。針山の黒蜥蜴に、愛着がわき始めていたからだ。


「もういいよーーそれより、なんでアンナじゃなくて、お前が起こしに来るんだよ」

「あ、忘れるとこでした。旦那様が朝飯食べたら、執務室に来るようにと」

「テドさん、出勤は?」

「午後から出られるそうです。坊っちゃんと話をするために時間を作られたようですよ、家令おやじが言ってました。んで、俺に弱ってる坊っちゃんを、手伝って来いと」

 僕は大きくため息を付いた。


「その口をなんとかしない限り、ギッシュは見習いのままだよ」

「えぇぇぇ!」

「熱も下がったし、汗を拭きたいからアンナ呼んで」

「俺に甘えましょうよ~坊っちゃんっ」

「お前だけには甘えない」

「ひょぇぇぇ」

 すごくめんどくさいので、軽い朝食を頼んで来るように命じて、僕はうるさい見習いをやっと追い出した。




 ◆



 朝食を終えて、朝挨拶の為にクリス母さまの部屋『花園』に顔を出すと、父親が眠るクリス母さまの額にキスをしていた。

 ひっそりと静かに、母さまの側に控える父親の姿は見慣れた風景モノだ。


 なのにその時ばかりは、衝撃を受けてしまう。


 何故なのかと、初めて理由を考えた。

 そしてその答えが、父親のが、僕と母親には決して向けない表情を浮かべていたからだ、と気づく。


 物心ついた頃から、侯爵家の至上はクリス母さまだ。

 それはつまり、当主である父様がそういうふうに扱っているからだ。


 父親は、クリス母さまの為に大規模な結界を張り、クリス母さまの為に、ガラスの外の庭に季節ごとの花を植えかえさせる。クリス母さまの為に外泊を厭い、クリス母さまの笑顔の為に、貴族では珍しい家族団らんを欠かさない。


 そのいびつさに、僕は初めて気づいた。


『結界が破られればクリスの命は終わる。たとえ息子の君でも、クリスを害するならば許しません』


 そう息子を脅した父親を。

 なぜか嫌だとは思えず。

 僕は朝の挨拶を諦めて、そっと花園を後にした。




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