ワッツ辺境4〈律の違反〉
覗いていただきありがとうございます。
僕は単独でダークウッドを倒し、岩狼を倒し、ゴールドエントを倒しまくった。
「うくふふふっ」
「気持ち悪いなぁ。調子にのってると痛い目に合うどころか、命を失うぞ」
「は〜い。でもこの剣が良すぎるんだよねぇ〜リボさんも見たでしょ?スパっとダバっと、一刀両断だもん」
僕は、僕のためだけの剣を振るって、見つけた樹海蜘蛛の糸を本体ごと切り裂く。
簡単に魔物が真っ二つになる感触は、とんでもない万能感を与えてくれた。
ーー僕ってすごくない?超危険地域と聞いていた樹海で、魔法も剣もチート級!魔物なんかバッサバッサのウヒヒ。
と、超絶調子にのっていた時だった。
リボさんの後を付いて樹木の間をくぐり抜けた瞬間、足元の感触がなくなったのだ。
「えええええっ〜〜〜〜っ!!」
気がつけば、柔らかく湿り気のある地面に肩から落下していた。
「うへっ」
手を付いて柔らかい土の中から出ようともがくも、変に粘って脱出できない。
ーーぬ、抜けないし、わっ落ちる!?
身体が斜めになり、湿った土に埋もれたまま滑り落ちてしまう。
周りはすり鉢状になっていて、転がる先の底の砂から、角のような黒っぽい魔物が待ち構えているのがかろうじて見えた。
「っ!〈魔物の滑り穴〉!?」
日本で言うところの〈蟻地獄〉の魔物版だ。もちろん巣の主である魔物は熊より大きいし、凶暴だ。
しかも鋭いノコギリのような角をふたつ、ギリギリとこすり合わせる重い音も聞こえてくる。
「おーい、無事か?」
「リ、リボさんっ」
リボさんが高い樹木の枝の上から見下ろしている。
「ヌシを剣で切るか、魔法でぶっ飛ばせるか?」
「やって・・・みるっ」
話している間にも口に砂が入りすごく不味い。
剣を抜こうとしても砂ごと身体は滑り落ち、自由に動けない。
ならば、と魔法を使おうと思った矢先、視界の隅に赤い物体が目に入る。
『〈律〉に違反する者
違反者:ブラックミルメコレオ=ニューロプテライズ434
違反項目:人族と交じうる改造魔蟲の違反 』
ーー久しぶりに見た!
〈律〉の違反警告の吹き出しだった。
この警告が出ているモノは、おそらく禁忌に触れたモノだ。
そして人族を護る〈律〉という、〈人王〉の法律に抵触するモノでもある。
〈律〉に違反するモノを排除することは〈律〉を与えられたモーグ一族の宿命だーーそう知ったのは、辺境に来てしばらく経った頃、少数民族の中で息を潜め、人間のフリをして暮らしていた木の精霊に出会ってからだった。
彼女のお腹には人間との子供がいた。その子供が〈律〉の違反者だった。
だが子供は生まれることなく、ドライアドは精霊の意識を失い、凶暴な魔物に変化して、人間を襲うようになってしまった。
たまたま遭遇した僕は、排除しなければならなかった苦い気持ちと、当主となった逃げられない宿命を実感させられた。
そして、今目の前の魔物も、モーグ一族の当主としては、絶対に排除しなければならない〈律〉に違反する生き物である。
ーー人族と交じうる、ってゴブリンみたいに人間の女性を捕まえて子を成せるって事?
ーー改造魔蟲は、人工的に創られた魔物虫って事で。
ーー同じようなゴブリンなんか、めちゃくちゃ人族にとっては危険で、さらわれたら子も孕ませられるのに、あっちは違反警告が出ないから、やっぱり違反なのは『改造』って人為的なところが抵触したのかなぁ?
なんて、違反分析をしている間にも、ズルズル滑って蟻地獄の本体のすぐ側にたどり着いた。
「〈氷の柱〉」
食べられたくない危機感で、僕は魔法をぶっ放す。
ファイヤーボールやウンドブレーカーなど、すり鉢状の場所では僕自身も巻き込まれてしまうので、範囲指定の巨大な氷柱で貫くことにした。
しかし、アイシクルは簡単に霧散してしまう。
「うわっ、嘘っ!」
焦って、砂の中でもがいているうちに、二つの角と獅子の顔まで表出した蟻地獄の本体が、角を合わせてギシギシ大きな音をたてた。
塞げない耳にその音はキンキン響き、失神しそうな痛みを感じる。それでも蟻地獄の本体を囲むよう、雷魔法の魔法陣を四方に無詠唱起動する。
ーーサンダースピア!
「ガガガガガ!」
やたらとガガギギと騒音を撒き散らして、蟻地獄の本体は真っ黒焦げになって動かなくなった。
「はぁぁぁぁ・・・耳痛い、うるさかった」
間一髪で討伐できてーー騒音が止まって、僕はほっとする。
すると目の前に、1本の蔦が降りてきた。
「掴め、引っ張り上げてやる」
「はーい」
リボさんに樹木の太い枝を梃子にして引っ張り上げてもらい、僕は平らな地面にようやく降り立つ。
「なんか疲れた・・・」
「だから調子に乗るなって言っただろ」
「反省してまーす」
ーーしかも〈律〉の違反者だったせいで、僕の中の鎖が四方に伸びた。
一族に顛末の知らせが走ったんだろうなぁ、と思うと余計に疲れる。大きくため息をついた。
「少し休むか」
リボさんが近くの大岩群の上に案内してくれた。
と言っても、岩場の上でファイヤースチームを使い、潜んでいた蛇や小さな魔物を追い出して、上に座っただけなので安全には疑問の場所だが、周囲の見晴らしはいい。
「粘っこい土、気持ちワルいよぉ〜」
僕は身体にへばりついた粘った土を丁寧に落としていく。
「さすが〈フィン=モーグ〉の完璧なる魔法一族だなぁ。あの雷の槍の4枚連続はすごいもんだ」
「〈氷の柱〉は壊されちゃったけどね」
「ただのミルメコレオじゃなくブラックだったからなぁ」
「硬い?」
「硬いというより粘土質の柔らかさで、突き刺さりにくい。だから雷魔法を連続で撃つのは正解だ。さすがだよ、俺達、辺境の剣士は単独魔法は苦手だからなぁ」
辺境の戦いは、剣に魔法をまとわせての直接攻撃が主体だ。魔法を使っても〈風の足〉や〈水の撥ね〉といった補助的牽制魔法が主流である。
しかも煙幕や麻痺をはじめ、火や風、土魔法などの大きい魔法は魔導具を使う。
魔力切れを起こして、剣で倒せなくなるのを防ぐためだ。
ーー脳筋の戦い方だよねぇ。モーグは反対にここぞの時は魔法に頼る魔法バカだけど。
「魔力だけは人より多いんだぁ。お祖母様にしごかれたおかげで剣も魔法も万能でぇ、ギーヴくん無敵ですぅ〜」
「自画自賛するなよ・・・まっ確かにすげぇよ、お前」
茶化したのに真面目に褒められて、少し照れる。
ぽんぽんと無造作に頭を撫でられるのは、テドさんを思い出してちょっとだけ胸が痛くなった。
「・・・伯父さん、いい男なのになんで引きこもりなの?僕、イトコが欲しいなー」
「な、何言ってんだっ」
「お祖母様もお祖父様も孫が僕一人で寂しいって言ってました」
「お、俺のことはーー」
その時、悲鳴が響いてリボさんの言葉を遮る。
「誰かっ、誰か助けてぇーー」
遠くはない場所から、女性の助けを求める声が、はっきりと聞こえてきた。
伯父さんは30代設定。熟成期のはず(笑)




