ワッツ辺境2
辺境伯の騎士の闘練場は、領館の裏山ーーなんと岩場に囲まれた平地に作られていた。場外になれば、大怪我しそうなワイルドな環境である。
着替えてすぐに闘練場に向かった僕の後ろを、護衛のチャンクスと侍従見習いのギッシュが続く。
「チャンクスはともかく、ギッシュはお部屋で休んでいたほうがいいんじゃない?」
「ありえないっす!俺っち、坊っちゃんの侍従っすから」
キメ顔で言うが、腕に巻く白い包帯が間抜けぶりをさらけ出している。
「その腕不便でしょ?無理すると、もっとひどくなるよ」
お調子者のギッシュは、館についてすぐ、異国の高価な壺に触り、お約束の罠を発動させた。
泥棒避けの魔導具で、麻酔の状態異常を引き起こす魔法が、針のように飛び出すものだが、間一髪、チャンクスに防いでもらったものの、勝手にひっくり返って手首を捻挫した。
ーー・・・ほんとに何やっても〈間〉が悪い奴だよねぇ。
「大丈夫っす。せっかく辺境に来たのに、坊っちゃんをひとりにしておけるわけないっす」
「ひとりじゃないし、チャンクスは頼りになるよ?」
そう言った途端、ぎんっとチャンクスを睨むギッシュ。
チャンクスはふわっと視線を反らした。
ーーあれれ?喧嘩した?しかもチャンクス劣勢?
怪我がひどいのであれば、ギッシュにこっそり回復魔法を使おうと思っていたが、結局止めた。
リンダお祖母様に、辺境は怪我をする者が多いので、回復魔法が使えるとなると、攫われてこき使われてしまう。
だからギーヴ君は隠しておきなさい。
もちろんそれを生業にする者も多くいるので、変に罪悪感を持たなくていいのよ、と言われていた。
ギッシュも僕が回復魔法が使えることを知っているが、僕にそれを求めたことは一度もないし、辺境伯の医務室でも回復魔法の使用を断ったみたいだ。
「ま、ギッシュは大人しく見学しててよ」
変な雰囲気を変えるように、僕はそう言った。
「姉御がもう待ってる・・・御曹司、大丈夫か?」
トビーに案内してもらい、練習用の剣を貸して貰う。闘練場に出ると、辺境の騎士達が場外に出ていく。
「ーーお祖母様、強いんだよねぇ」
「魔剣士、の呼び名は伊達じゃねぇ。まっ、手加減してくれるだろうさ」
「むむ、それはなんだか嬉しくないなぁ」
トビーと別れ、待ち構えるお祖母様に近付く。
剣術の基礎は、ジェムニールの護衛騎士に習った。
鉄箱の中で、ジェムニールに無茶振りされながら、魔獣も倒してきた。
そして僕には魔法もある。
「相手をしてあげるわ、準備はいい?」
赤金の髪をなびかせ、お祖母様が軽く剣を振った。
「簡単には負けませんからっ」
僕もお祖母様の真似をして、剣を振る。
ーーこれぐらいの、格好はつけたいよ。
そして軽量の魔法を剣に刻む。同時に得意の雷の魔法陣も付与した。
「行くわよっ!」
お祖母様のかけ声と同時に、僕は火魔法の魔法陣を展開する。
無詠唱での先制攻撃だ。ファイヤーボールの乱れ打ちを煙幕に、お祖母様に斬りかかった。
だが、簡単に攻撃を避けて剣を受け止められる。途端に黄色と黄色の火花が散った。腕に強烈なしびれが走り抜ける。
ーーえええっ、雷剣!お祖母様も!?
僕よりも均等に雷属性をまとわせ、威力を増した剣を容赦なく振り下ろしてくる。
「甘いっ!」
上に下に、左右何度も打ち込んでくる重くしびれる剣を、息を詰めてこらえていると、踏ん張る足にずんと響く。
もつれそうになるところを耐え抜いて、トルネード風魔法でお祖母様との距離をようやく取る。
だが魔法をあっさりと斬り捨てられたところは、負けた黒歴史を想起させる。
「くっ・・・!」
「魔法頼みはいただけないわねっ、〈フィン=モーグ〉」
「えっ!」
剣で受け止めたと思った瞬間、それごとふっ飛ばされた。ギリギリ受け身が間に合うが、ころころ転がされて地味にあちこち痛い。それでも必死に立ち上がる。
お祖母様は余裕綽々のしぐさで、剣先で靴の裏を叩いていた。
ーー歯が立たないっていうのは分かってたけど、こんなに相手にならないってのは、悔しい!
せめて一矢を報いたいと、足に瞬足の魔法陣を刻む。飛び上がるふりをして身体を低くし、お祖母様の懐に踏み込んでその足を剣で薙ぎ払うーーだが反対に、顎を軽く蹴られて、仰向けのまま、地面に大の字で転がった。
一瞬、目の前が白くなる。
「基礎体力不足、剣を振るには腕の筋肉が全然足りないわね。目はいいみたいだから、反応は良かったわ。でも上半身だけで攻めるクセは直したほうがいいしーーそうねぇ、とりあえず魔法禁止で走り込みと岩の持ち運び訓練からかしら」
「おばあっ、さ・・・まっ」
「冒険者はまだまだ先ね、ギーヴ君」
ばっさりと、僕は自信をへし折られた。
ーー魔法チートなのに、なぁ。。。
それでも僕は魔法を使わず、基礎の訓練からやり直すことに決めた。
そしてお祖母様にお願いして、辺境伯の騎士団と一緒に寝起きをさせてもらい、基礎訓練と筋肉作り、剣の型から足運びまで徹底して訓練し、ようやくお祖母様にまともに相手をしてもらえるようになる頃には、辺境に来て3年が経とうとしていた。
その間に、少数民族の騒乱に巻き込まれたり(結局痴話喧嘩が原因だった)、アカディアント国のトンネル関所爆破事件の解明やシュトラン帝国の陰謀?を防いだりーーと、平々凡々な日々とはいかなかったが、僕なりに成長できる日々を送っていた。
◆◇◆◇
集団で襲ってくるでっかい魔猿の群れがーー上から散り積もる木の葉のように、樹上から飛びかかってくる。
僕はその魔物たちを楽々と斬り捨てていった。
「うん。良い切れ味」
全く刃が鈍ってない。重さも持ち手の違和感もなく馴染む。
僕は打ってもらったばかりの剣をマジマジと眺めた。
新しいできたての剣は、綺麗に僕の魔法をまとっている。
「それなら良さそうだな」
モノグランデを殲滅し終わった頃、茶髪の冒険者が声をかけてきた。
辺境生活は一部タイパでいかせてもらいました(笑)




