ワッツ辺境
ルクス王国は、北西にリング聖国、南東にシュトラン帝国、西南はポッカ諸島統合王国とグッバス共和国に接し、北東は樹海と少数民族、その集落の向こうトータス山脈を超えるとアカディアント国とシュトラン帝国につながる。
そしてワッツ辺境伯爵は4つある辺境伯のうち、〈東の辺境伯〉と言われ、広大な樹海とトータス山脈、隣国アカディアント国の端につながるトンネル、隣国シュトラン帝国との関所をも管理する、王国で最も重要で難しい場所を治める辺境伯でもあった。
領都イカルガはルクス王国の第3の首都と言われるほど大きな街だが、王都の貴族たちは〈東の野蛮〉と揶揄する。
それはイカルガのすぐ側に樹海とトータス山脈があり、魔物が頻繁に出没する土地だからである。
また、少数民族の出入りが多く、関所であるアルカディアント国のトンネルやシュトラン帝国の端の関所からは、商人よりもならず者や魔獣が訪れることが多いと言われるほど、雑多な流通の坩堝であるからだった。
初めての訪れになる僕は、異国の地に迷い込んだように、様々な文化と空気にはしゃいでしまった。
建物の見た目や色が王都と明らかに違い、行き交う人々も多様な服装や髪型をしていた。その持ち物も、見た事のないものが多い。
ハナさんやクリス母さまから、聞いた話を思い出す。
「お祖母さま、イカルガでは女性の方が強いって本当ですか?」
「さあ、どうかしら?でも大人しそうで可愛らしい見た目の子の方が凶暴だ、気をつけろと若い男性たちは格言みたいに言うわねぇ〜」
そういうリンダお祖母様も顔の作りは、小柄で可愛らしい感じだ。身長もトリッシュお祖母様の方が高い。
ただ赤金の長い髪は王都ではすごく目立っていたし、笑顔も動作も無駄がなく、いつの間にか威圧される。
「少数民族の方々は必ず三つ編みと入れ墨があるって、本当ですか?」
「そうなのよ。小さいのから大きいものまで。だから気をつけてね。装いや三つ編みを侮辱すると乱闘になっちゃうの。捕まれば、どんな身分でも牢獄でひと晩過ごしてもらうことになってるわ」
「乱闘、多いんですか?」
「普通にね。要は捕まらないでね、ってことよ。捕まえちゃうと問答無用でぶっ飛ばして良いことになってるの。おほほほ」
誰がぶっ飛ばすのか、とは自明のことである。
「それとギーヴ君、知らない人の親切には気をつけてね」
「親切に気をつけるんですか?」
「だってギーヴ君、いかにも都会の若様だもの。騙されてお金巻き上げられそう。うっかりシュトランに売り飛ばされないでね〜」
「え〜僕、そこまで間抜けじゃないですよっ。魔法も使えますし」
「うふふふ。そうだといいわ〜何か困った事があれば、小さなことでもすぐに相談よ!約束ねっ」
「わかりました」
「大丈夫。何かあれば、お祖母様が魔剣を使ってでも助けてあげる」
「伝説の魔剣!?・・・いや、破壊するのはちょっと」
「シュトランもアカディアントも煩いけど、ここでは権力武力名前では、お祖母様が最強よ!」
自分で最強宣言するリンダお祖母様に大袈裟だなぁ、と笑っていた僕。
この後の生活で、僕はワッツ辺境の異質さを嫌というほど実感することになった。
ーーさすが、あのハナさんを育んだ土地だ。
「よく来たよく来た!大きくなったなぁ、孫よ!事情は聞いているぞ。ハナスティアの自由奔放なところはリンダさんに似て困ったものだが、してしまったことは仕方ない。寂しいだろうがこのイカルガで存分に心と身体を鍛え、気が向けば永住しても構わんぞ。なんなら、跡継ぎになってくれても構わん。いや、それはあの岩熊ジジイが許さぬであろうが、だがなに、孫が望めばこちらのモノ。歓待するゆえこの魅惑的なイカルガでわしと一緒に魔獣狩りを楽しもうではないか。なぁ、孫よ!あぁ〜孫だ!唯一の初孫がイカルガに来てくれるとは、こんな嬉しいことがあるだろうかっ。大歓迎だぁぁぁ!!」
領都の館に着くなり、暑苦しい抱擁で出迎えてくれたのは、早口で喋りまくる母方のお祖父様だ。
ワッツ辺境伯トントお祖父様は、頭の両脇をそり上げ、天辺だけ淡いピンクの髪を残しているーーいわゆるモヒカンスタイルだ。
以前に会った時は、まだ言葉を話し始めたばかりの幼児で、この機関銃トークと髪型に違和感を感じられなかったのだが、前世の記憶を受け継ぐ今はビミョーだ。
目と耳のインパクトに口を挟むこともできず、あははと笑い誤魔化す。お世話になりますと、心の中だけで呟いておいた。
「あ〜疲れた。トント」
「おかえりおかえり。愛しのリンダ!疲れたねぇ、無事で良かった。ようやく抱きしめられて嬉しいよ、愛しの我が妻よ!この瞬間をどれだけ待ちわびていた事か、君のいない一人寂しい夜を涙を堪えて越えーーー以下略」
息継ぎ最小限のお祖父様と抱擁した後、リンダお祖母様は喋りまくるお祖父様を放置して、クールに執事と家令と侍女頭を紹介してくれる。
「着替えがすんだら闘練場へいらっしゃいな。さっそく手合わせしましょうね、ギーヴ君」
嬉しそうに誘ってくるリンダお祖母様に面食らいながらも、僕は気持ちを入れ替える。
ーー脳筋大歓迎!僕はここで強くなる!
ーー黒騎士に一太刀どころか、必ず勝ってみせる。
ーーそして、僕は僕のエルバーラのところへ最短で戻るんだ。
強くぐっと気持ちを引き締めた。
話が中々進まない、現象発生中。
余分なところの削ぎ落としが難しいですねぇ〜。。。




