エルバーラの献身5〈光魔法〉
エルバーラ視点です。
次からギーヴ視点に戻ります。
7歳の祝福を前にして、私はシャルモン殿下と交流するために、登城することが多くなった。
前は月に1度、最近は毎週になっていて、学園に通うようになれば毎日になる。
シャルモン殿下は第二王子になるので、順当に行けば第一王子のシャミール殿下が王太子に決まり、世継ぎが生まれるまで補佐をすることになっている。
その後シャルモン殿下が爵位をもらって王族籍を抜けるかどうかは、まだ先のことで未定だ。
だから、婚約者であるエルバーラも、王子妃の教育を受けることになっていた。
「エルバーラ嬢」
毎朝、王城に到着するとシャルモン殿下と侍従のガルーダが、出迎えてくれる。
「殿下、おはようございます」
「おはよう。今日は典礼の授業か?」
「はい。周辺国の挨拶の仕方や祭典での式次第の暗記です」
エスコートされながら王城に入り、一般エリアを通る。
「ああ、アカディアント国では両手を組んで額に当てて頭を下げる立礼とかか?」
「そうです!あとシュトラン帝国では右手を左肩で左手を背中に回しての立礼ですから、扇を持ち替えるのを忘れて落としていまいました」
「女性はそうか・・・男性は右手は空けておくから不便ではないのだが」
「あとリング聖国の挨拶の掛け合いが難しいです」
「ああ、1口上の2待ち3挨拶の口上であろう?」
「はい。口上が長いですし、挨拶の掛け合いの後の口上が中々タイミングが合わなくて」
お互い習ったことを話し合いながら、僅かな道のりを楽しむ。以前と比べれば、ずいぶん気楽にお互いの話をできる間柄になっていた。
官僚や侍女達が行き来するエリアを抜け、王族エリアに行く手前で、いつも別れる。
シャルモン殿下は視察などの簡単な公務も既に担っているので、王子教育も公務エリアで行われる。
対してエルバーラの教育は王妃様のおられる内務エリアで行われるのだ。
「そうだ、今日は終わった後の茶話は〈青の塔〉の庭でどうであろう」
「〈青の塔〉でございますか?」
「行ったことはないであろう?」
「はい」
王城の周りには8つの高い塔が建っている。3つは監視塔だと聞いていた。
「青い星型のミンティという花が見頃なのだ。よい気分転換になるであろう」
「楽しみです」
了承して約束を交わし、エルバーラは内務エリアへ向かった。
『エルバーラ、チャンス』
『チャンス到来!』
突然、いつもの光達がささやき出した。
ーー待って!王城ではささやき禁止の約束のはずよ。
『せっかく教えてあげてるのにぃ〜』
『ソダソダっ!』
メイドにお辞儀をされ、表情を崩さずにすれ違いながら心の中で確かめる。
ーーチャンスって何が?
『さっきのメイド、お腹にラブレター持ってるね』
『あいびき〜』
『ランプを磨く係!』
『お相手、マザコン』
ーーはいはい。で?
『青の塔、人王の魔力豊富』
『エルバーラ、魔法使いやすい』
ーーお茶する場所が、人王の魔力が豊富な場所?・・・人王って7歳まで、私の光魔法を制限している神様でしょう?逆に魔法が使いにくくなるんじゃないの?
『今のエルバーラ、祝福受ける』
『人王、エルバーラの神様』
『人族の魔法、人王授けた』
ーー7歳になってないのに祝福受けられるの?
『王城のイチブ、トクベツ』
『エルバーラトクベツ?』
『トクベツとトクベツ』
『トクベツは祝福』
ーー途中から説明がうにゃうにゃになったわね。理解不能だけど、要は光魔法が使えるかも、ってことかしら。
王子妃教育の後、迎えに来てくれたシャルモン殿下に案内されて、〈青の塔〉の周りに作られた庭園へ足を踏み入れた。すると、どこからともなく、私だけに音楽が聞こえてくる。
ーーHappy Birthdayソングだ!
耳に届く魔力が、懐かしの曲を軽やかに奏でている。そして思い出した。
ーー今日は前世の〈私〉の誕生日?嘘っ、こんな偶然ってあるの!?
驚きつつも、身体の奥底から湧き上がるモノがある。
ーーもしかして、光魔法が使えるの?
不思議な感覚と確信を抱きつつ、私はシャルモン殿下にエスコートされて、お茶の席についた。
「ミンティの匂いも強いな」
「・・・とても爽やかな香りです。青い色も可憐で、美しいですね」
敷き詰められるように咲くミンティの花は、日本の桔梗に似ている。ただ葉はギザギザで、匂いは初めてかぐ森林の香りだ。
だがその深い香りが、光魔法が使えるかもしれない予感にソワソワする私を落ち着ける。
紅茶を注がれ、いつものように私の後ろに侍女が、シャルモン殿下の後ろに年配の侍従が控える。
見られている状況で、どう光魔法を試そうかと、お茶を味わいながら悩んでいた時だった。
「上王さまのお越しです」
金髪を肩まで伸ばした、金色の瞳の美中年がこちらにやってきた。
ーー無表情だけど、驚くほどシャルモン殿下とそっくり。
「お祖父様、お会い出来て光栄です」
シャルモン殿下の祖父とは思えないほど、若い見た目だ。簡素な白いシャツとズボン、マント姿は、魔術師のような装いでもある。
見惚れてしまった私は、シャルモン殿下が立ち上がり胸に手を当てて礼を尽くしてから、慌てて立ち上がった。遅れてカテーシーをして頭を下げた。
「よい、楽に」
現王同様に気難しいと言われる前王は、声も低く切れがあって、その威厳に身が引き締まる。
「良く学んでいるようだな、シャルモン」
「はい。母上がお導き下さいます」
「そうか。シェリーナの言うとおりにするがいい。そうすれば王位は落ちてくる」
ーーえ・・・王位?
「ガルーダを少し借りるぞ」
「はい」
上王はシャルモン殿下の侍従を従え、青い塔の中に入って行く。
「・・・ご挨拶ができませんでした」
小声でシャルモン殿下に伝えると、殿下はこちらを急に見たあと、ふいにエルバーラの手を取った。
「何も。何も必要ない」
「殿下・・・?」
触れたシャルモン殿下の手が、細かく震えていた。
驚いてシャルモン殿下の顔を見れば、瞳は遠くどこかを見据え、顔色は白く色をなくしていた。
ーー人形・・・みたい。なんで!?
ーーでも震えてる。上王さまに怯えている?
『エルバーラ、今』
『チャンスだ』
『今、光魔法が必要』
『必要』
光達に促され、エルバーラは側にいた侍女を見る。少し離れた場所で、次の茶葉の準備をしており、こちらに注視していなかった。
「殿下」
シャルモン殿下の震える右手をそっと持ち上げ、額をつける。
目を閉じ、ゆっくりと自分の魔力を押し出した。スムーズにお腹の中で熱い塊が動く。
すぐにほどけて1本の糸になり、額から抜け出して魔法陣を形作る。展開する魔法陣は浄化と解呪のものだ。
繊細に、順番に、均等に魔力を流した。
だが、シャルモン殿下の奥にある大きく厚い壁に阻まれ、一部しか入り込めない。
しかもその後、城の魔法無効により、魔法陣がキャンセルされていく。
ーーここでは難しい。それに、とてもひと息では無理・・・。
勝手に自分で自分に落胆する。
「エルバーラ嬢・・・」
それでも顔をあげた先にある金の瞳は、感情の色をわずかに取り戻し、エルバーラを気遣わしげに見つめていた。
「ガルーダに気をつけて」
「・・・っ」
そうぽつんと告げた後、シャルモン殿下はいつものように優しい笑顔を浮かべた。
「お茶が冷めた。入れ直しさせよう」
「・・・はい」
私はじっとシャルモン殿下を見つめ、もどかしく感じながらも、ただ小さく頷く。
王城は、やっぱり様々な思惑と陰謀の交差する場所だった。
読んでいただきありがとうございます。
エルバーラ視点ですが、思ったよりも長くなって、まとめて別仕立てにすれば良かったと後悔です。
途中でギーヴ視点と一致するので、エルバーラ視点は読まなくても大丈夫です。
恋愛パートのつもりのエルバーラ視点と。
成長物語的なギーヴィスト視点。
ごちゃごちゃしてすみませんが、よろしければまた覗いてみてくださいませ。




