エルバーラの献身3〈ギーヴのやらかしと王子の優しさ〉
いつもありがとうございます。
注意)残酷表現ありです。
読み飛ばしても、本筋に影響ありません。
エルバーラ視点です。
「エヴァの涙は甘いよねぇ」
両方の目じりを舐められて、頭が真っ白になる。
ーーセクハラ・・・?5歳児にはふつう?
「ひど・・わっ」
ーー本気でお願いしたのに!貴方なら助けてくれるって信じたのに!
怒りを現す前に、ギーヴはジェムニールに呼ばれて、鉄箱の中に歩いていく。
鉄箱の中に放り投げられ、食べられる恐怖におびえるマール。
あの夜、ここに閉じ込められた私と同じだ。
我慢できずに助けに行こうとしたら、側にいたジェムニールの護衛に肩を押さえつけられ、椅子から立ち上がることもできない。
「マールっ!」
そうする間にも檻が開けられ、逃げ回るマールに魔獣が襲いかかった。
ーー嫌だ!ヒドイっ!ヤメて!
「マールっ、マールっ」
声の限りに叫んだ。
『大丈夫』
ーー・・・っ!
その時、誰かがささやいた。
聞いたことのない声。
ーー妖精?
気をそらした一瞬で、マールの姿が消える。
「マールっ!」
ギーヴとジェムニールが追い詰めた魔獣に剣を突き立て、魔獣の毒の毛がぶわりと広がる。
鋭い音と血の匂いが立ち込めた。
飛び散る血と、魔獣の首を切り落としたジェムニールの笑い顔に怖気が走った。
生き物が死ぬのを見るのは、2度目だ。
1度目は、この異世界で覚醒してすぐだ。エルバーラの記憶と危機感でいっぱいいっぱいだった。助けてくれたバフコさんが倒したのも一瞬だったし、すぐにビーツくんが〈収納〉したので死骸を見ないですんだ。
だけど今はーー。
ショックだった。必死に猫の姿を探してしまう。
「マールっ、マールっ」
ふらりと立ち上がり、走って鉄箱に入ろうとしたら、ギーヴに抱きとめられた。
「もう食べられちゃったんだよ、エヴァ。すぐに浄化するからお腹を割いて確かめさせてもあげられない。ごめんね」
ーー食べられちゃった・・・?
言葉が理解できなかった。涙がぶわりと湧き上がって、怒りに身体が熱くなった時。
『大丈夫』
『主が逃した』
『猫は無事』
『主はエルバーラの泣き顔が見たいだけ』
『主はエルバーラを泣かせたいだけ』
『主はエルバーラの涙を舐めたいだけ』
視界を横切る見慣れた光達。
そして、いつものチクリ屋とは違う、上品なチクリ声だ。
ーーなにそれっ!?
ーー泣き顔を見たい!?
信じられなくて、ギーヴの顔を見れば、ドヤ顔が隠しきれないような、楽しむような顔!
「っ・・・それがあなたの狙いなの?」
ーー信じらんない!信じらんない、ほんとにっ!
ーーなにっ、ドSなのっ!?腹黒設定は知ってたけど、まだ子供でしょっ!悪趣味すぎる!
ーー本気で、ほんと〜〜〜〜〜にっ、腹が立つっっっっ!!!
愛猫が無事で安心したのと、抑えきれない怒りで踵を返す。
「ーーもういいわっ」
「エヴァ?」
腕を掴まれても振り払おうとした。その時、侍女が慌てて駆け込んできた。
「第二王子様がーーお出ででございますっ!」
ーーシャルモン殿下!?
寸前まで、泣き顔の上に怒り心頭だった私は、気持ちを切り替える間もなく、突然の王子の訪問を受け入れざるを得なくなった。
「やあ、婚約者殿。ごきげんいかがか?」
侍従と護衛騎士を複数従えて、第二王子がやってくる。
ーー応接室じゃなく、ここに!?
ーー顔洗いたい、服も髪も整えたいのに、どうしよう!
「よ、ようこそお越しくださいました、シャルモン殿下」
内心で焦りながらも、ゆっくりとカテーラシーで頭を下げる。
「この様な姿で・・・この様な場所までお越しいただき申し訳ございませんっ。すぐにお茶の用意をーー」
「いや、急に来たのだ。気にしなくて良い、楽にしてくれ。それよりここはずいぶん血生ぐさいところだな。何をしていたのだ?」
鉄箱の事を聞かれて、ジェムニールが緊張したのがわかる。
ーー酷いことをしているって、自覚があるのかしら。
護衛騎士が建前みたいな理由でごまかして、ジェムニールは第二王子から「よい心掛けだ」とか言われてる。
いつか破滅しちゃえ!と私は悪口を思い浮かべる。
第二王子は、放っといてもいいドSのギーヴにも声を掛けた。
ーー優しい王子様。なのに、操られているだけって・・・ホントなのかな。
訪問した神殿で手に入れたネックレスをプレゼントするために、わざわざ視察の途中で寄ってくれたという。
「聖花の花弁をじゅえきで固めたものらしい。きれいであろう?」
そう言って、首にかけてくれたネックレスが可愛い。
契約のペンダントしか身につけていないので、単純にプレゼントが嬉しかった。
しかも第二王子は首を傾げて、突然エルバーラの頬に触れた。
「ん?泣いたのか?」
「こ、これはーー」
うろたえる私を気遣うように、涙の跡を指で拭ってくれる。
ーー気づいてくれた、優しい子・・・。
「だ、大丈夫です」
少し恥ずかしくなって誤魔化そうとすると、第二王子はすぐに冷やしたほうがいいとアドバイスまでくれる。
「なにかツライことがあったのか?」
「ーーいいえ。お優しいお心遣いありがとうございます・・・このネックレス、とても嬉しいです」
私は自然に微笑むことができた。
ーー黒魔術に洗脳されているという第二王子。でも、このなにげない優しさは本物だって信じたい。
将来、婚約破棄することになっても、私は第二王子の優しさを信じたい。
そしてその優しさに、少しでも報いたい。
ーー私の〈光魔法〉でシャルモン殿下の黒魔術を解けるなら、私は必ず使えるようになってみせる。
私は、改めてそう強く思った。
好感度
ギーヴ↓
シャルモン↑
な出来事でした。
知らないところでチクられていたギーヴくん(笑)
もうちょっとだけエルバーラ視点続きます。




