エルバーラの献身2〈愛猫〉
いつもありがとうございます。
注意)残酷表現ありです。
読み飛ばしても、本筋に影響ありません。
エルバーラ視点です。
斑模様の猫はとても人なっこかった。
どこからやってきたのか、エルバーラが庭に出ると、声を出して近寄ってくる。
使用人が餌を与えているのかもしれない。
その日も私が庭に出ると、マールと勝手に名付けた猫は、足にまとわりつき、かまってと甘えてきた。
私は壊れたままの噴水の縁に腰掛け、マールを膝にのせていた。
『あ、王子の雛が来たよ』
『最近、どんどん強くな〜るぅ』
『王子の雛、剣術しに来たんだよ』
『意地悪兄のところ』
『魔法も上手いよ』
『エルバーラ教えてもらったら?』
その頃、館にはギーヴィスト=フィン=モーグが兄のところに頻繁に遊びに来るようになっていた。
彼が来ると、私の周りにいる光達はいつもソワソワする。
「気になるんなら、会いに行けばいいのに」
『王子の雛、魔力強い』
『弾かれるのコワイ』
『逆鱗も怖いよ』
『王子の周りのエリートも怖い』
「エリート?」
『妖精の貴族?』
『妖精の親方?』
『妖精の側近?』
『妖精の・・・』
「分かったわよ、あなた達より偉いってことね」
マールをなで撫でしながら、私は独り言をつぶやく。
光達との会話は、重要なことよりくだらないこと、悪意のあることの方が多く、慣れてきた私は館の中では振り回されることが少なくなっていた。
それにちょっとだけ、光達との会話で私の心が慰められていた。
誰にも関心を向けられず、誰にも咎められなかった私は、だから油断してしまった。
このフランチャスカ侯爵家には平穏な場所などなかったのに。
ある日、突然別館にやってきたジェムニールに、私はただ驚いた。膝のぬくもりを奪われて、ようやく慌てた。
「やめてっ兄様っ!」
首の後ろを掴まれ、ぶらりと揺れる猫の姿に、血の気が引く。
「行こうぜ、ギーヴ」
「ーー殺したのか?」
一緒にいたギーヴが心配そうに聞く。
「・・・っ」
ーーお願い、止めてっ!
「まだだぜ。餌として元気に逃げ回らないと面白くないだろ」
「魔毒大鼠に追い掛けさせるわけか」
「逃げ足が速いんだよ。でも魔導具で拘束すると魔毒大鼠を倒す意味がねぇだろ。で、猫を追い回す魔毒大鼠を俺達で倒すんだ」
「猫じゃなく俺達に襲いかかって来るんじゃないか?」
「より小さい物を追いかける性なんだってよ」
「ふ〜んーーで、エヴァも見に来るの?」
ギーヴに聞かれて、私は震えた。
残酷すぎる!
「ヤメて・・・マールをっ・・・」
「うるせぇ」
「魔獣の餌なんてヒドいっ、兄さま返してくださいっ」
私は言葉を振り絞って、なんとかジェムニールを止めようとした。
「返す?勝手に住み着いた野良猫を始末して何が悪い。むしろ俺達の訓練に役立ててやるんだ。感謝しろよ」
「野良猫なんかじゃありませんっ!マールはっ、マールはっわたしのーー・・・っ」
「侯爵家お前の物はなに1つないんだよっ!ーーそうだ、お前も見物しろよ。ギーヴ連れて来い」
ニヤリと笑うジェムニールは、いつも残忍だった。
私がこの屋敷に引き取られて初めての夜、いきなりあの鉄の箱の中に閉じ込められた。
鉄の囲いの中には、檻があり、中には複数の魔獣が閉じ込められていて、唸り声や檻に体当りする音、爪のひっかく音が響いていた。
鉄箱の外で、ジェムニールは声を立てて笑いながら、
「檻を開けたら、お前は何分で食べられるんだろうな?数えてやるよ」
そう言って、高い声で数を数え始めた。
怖くて恐ろしくてーー。
檻の側から離れても魔獣の声や息遣い、放出される重い魔力からは逃げられなかった。
いつ檻が開けられるの。
いつ魔物が襲い掛かってくるの。
隠れる場所のない鉄の囲いの傍らで、身を縮めて恐怖に震えていたあの時間。
恩人達のことを考え、生きなくちゃ、と必死に気持ちを保った夜ーー思い出すだけで、身体が萎縮して震えてきた。
「大事な物を作らない方がいいよ」
「ギーヴ・・・」
彼の言葉に、後悔が広がる。
私が迂闊に、猫を構ったりしたから。
だからジェムニールに目をつけられてしまった。
ーーエルバーラは虐げられる存在。
ーーその事を忘れてのんきな気持ちでいたなんて・・・彼の言うとおり、この家で大事なものなんて作っちゃいけなかったのに。
「行こっか」
ギーヴの促す声と掴む手が、ひどく冷たく感じた。
鉄箱の側に座らされ、残酷なショーを見学しろと言われる。
「ギーヴお願いっ、お願いだからマールを助けてっ」
彼の服の裾を掴み、必死にお願いした。
ギーヴなら、ジェムニールの気持ちを変えてくれるかもしれない。
ーー侯爵から侍女を救ってくれた、あの時のように。
だが。
「ごめんよ」
「うっ・・・なんでよぉ、にがしてくれるだけでいいのっ!魔獣のえ、えさなんてひどすぎるっ」
涙が溢れてきた。
ーー優しくて大人しい猫なのに。私が構ったから・・・。
ーージェムニールが私を嫌ってることはわかってたのに!
胸が苦しくて、ただ助けたくて。
すがったギーヴはーー。
「・・・っ」
突然、目の横を舐められた。
ーーへ・・・?
「エヴァの涙は甘いよねぇ」
両方の目じりを舐められて、頭が真っ白になった。
目じりを舐めるのは、5歳児はセーフ?
でもギーヴくんは中身アウト。。。
幼稚園児って、結構唐突で積極的ですよね〜




