家出
乙女ゲーム。
おとめ、ゲーム・・・。
おとめ、の、げぇ、む・・・?
どうやら前世の〈俺〉はそのゲームをしたことがなかったようだ。マリ◯の記憶しか沸き上がらない。。。あと、ドラ◯◯?ゼル○?
それでもなけなしの、前世の記憶のすみに引っかかったのは、大学での食堂のこと。
金欠で280円のうどんをすすっていた背後で、きゃらきゃら笑う女の子達の会話が聞こえてきたことがあった。
その時は、たまたまワイヤレスイヤフォンをアパートに忘れて来ていて、動画を見るわけにもいかず、スマホの画面をぼーっと眺めていただけだった。
「◯◯王子攻略できた?」
「それがぁ〇〇が邪魔してきて、好感度あがらなかったのっ」
「あぁ〜あの悪役令嬢でしょ。多すぎだよねぇ〜!まだまだどこのルートでも出てくるよ、あのキャラ」
「うわぁ〜ホントじゃま令嬢」
ーーの・・・この、悪役令嬢?
残念ながら〈俺〉にも〈僕〉にもこれ以上の情報はない。
ーーでも、乙女ゲームや悪役令嬢って、間違いなく日本の表現だ。ゲーム、アプリ?
ーーあの吹き出し、まるでゲームみたいだったよね。
そういや、異世界転生の話が流行りはじめてるって、同級生の誰かが・・・ーー。
「ぎゃあ、坊っちゃんっっ」
「ーー」
耳から入った叫び声が、心臓に突き刺さる。ドドドっと激しく脈打って、僕は無理やり目が覚めた。
「坊っちゃん、坊っちゃんっ、ハーピーっすぅぅぅ!」
僕の頭を抱え込んで、足をドタバタする音。
「ギ、ギッシュ、放せっ!く、首がしまるっ」
ヘッドロックをかます侍従見習いから、ようよう身体を引き離し、馬車の窓から外を見ると、丁度切り裂かれたハーピーが窓に張り付いて、断末魔の表情をこちらに披露しているところだった。
「ひぃぃぃぃぃぃ!」
「うるさい、ギッシュ!」
耳を抑えて、文句を言っていると、馬車の扉が突然開けられた。
「大丈夫?すごい声が聞こえたから」
魔物の血を数滴顔に散らせて、シャツとズボンの軽装姿の、女性がのぞき込んでくる。
「リンダお祖母様、すみません」
「ギーヴくん、目が覚めたのね?よく眠れたかしら?」
「はい。ギッシュが叫ぶまではぐっすり・・・ハーピー討伐終わったんですか?」
「ええ。これから、羽と爪を取って燃やすのよ」
「僕も手伝いたいです!」
ギッシュの背中を踏み台に、僕は馬車の外にぽんと飛び出た。
「トビー、ギーヴくんに解体見せてやりなっ」
リンダお祖母様が剣をふるって鞘に収めると、ハーピーの死骸を引きずって集めている若い騎士のひとりに、そう命じてくれた。
「御曹司、こっちだ」
「うん」
ついていくと、すでに集めた死骸の解体をしていて、必要部分を切り取った後は、穴の中にまとめて捨てていた。
「ーー気分悪くねぇか?」
「なんで?」
僕はキョトンとして聞く。
「王都の上位貴族のご令息は、ハーピーの名前だけでトラウマになるって聞いてる」
「ないない!僕、魔獣なら何度か倒したことあるよ」
ジェムニールの無茶振りが、こんな形で役に立つとは。
「それに僕、辺境伯領で冒険者するんだ」
「あ・・・本気だったのかよ」
「ギーヴくん、それはこのリンダさんに勝ってから、ってお約束でしょ?暴走しないでね」
「お祖母様、勝ってからじゃなく、手合わせしてから、です。お祖母様に勝っても負けても、冒険者します!僕、お祖母様よりも強くならないといけないんで」
そうーー僕は家出して、剣と魔法の修行をすることにしたのである。
トリッシュお祖母様に、従姉妹を許婚にと聞いた時、僕は本人の前でもはっきり断った。
だが、トリッシュお祖母様はモーグ以外から嫁がれた方で、モーグの〈病み〉への理解が少なかった。
むしろテドさんの〈病み〉を、どうにかできなかったことを悔いているらしく、僕への圧がすごかった。
色々ーーほんとにいろいろありすぎた僕は、プツリと切れてしまって、もうどうでも良くなってしまったーーエルバーラ以外のすべてが。
そこで家出することにした、辺境伯爵領に。
葬式の翌日に、辺境に帰ると挨拶に来ていたリンダお祖母様の馬車に、モーグオリジナル魔法を駆使して忍び込んだ。
自室には、『とうぶん、当主も当主のための勉強もしません!おじい様おばあ様のせいですから、探さないでください』
と、お祖父様とお祖母様の罪悪感をくすぐる手紙を置いてきた。
そして王都を出て、次の休憩場所で、僕はリンダお祖母様に見つかり、泣き落としと説得と逃げの魔法を駆使して、ようやく辺境伯領へ同行することを許してもらえた。
のに。
「坊っちゃん・・・踏み台にするなんて、ひどいっす。置いていかないでくださ〜い〜」
どうしてギッシュがいるんだろう。
以後、〈病〉→〈病み〉に変えます。
闇落ちなんですが、ちょっとニュアンス違うなぁと。
もちろん病気でもないですし。




