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悪役令嬢は執着されてハメられる  作者: ちょしゃなげ
第3章
42/57

偽装葬別

ギーヴ視点に戻ります。

名前の修正などをしております。

 雨が降り出していた。

 喪服を着た僕は、誰もいない『花園』にぽつんと立つ。


ーー捨てられた。


 そんな風に考えるのは、子供すぎる。

 前世の俺なら、親だからっていつも完璧で理性的でいるわけじゃない、と理解できる。ままならない感情に振り回されて、色んな事情を抱えるのが大人というものだ。


 でも、まさか自分の父親と母親が?

 子供の自分だけを置いていってしまったーー。


ーーどうして?

ーー分かってる、クリス母さまを助けるため。

ーー分かってる、僕のせいで結界が壊れたから。

ーーでも、どうして僕だけ置いていくの。

ーーどうしてどうして。


 暗い感情だけが渦巻く。


 クリス母さまの特別製(から)のベットを見た。

 シーツもタオルも片付けられ、鼻に香るのはクリス母さまの甘い体臭と薬の、かすかな匂い。


 1日が終わる前、クリス母さまはベットを少し起こし『ギーヴくん、今日は何があったの?話してくれる?』と言って、僕の話をいつも楽しそうに聞いてくれた。

 そこにハナさんがいて、クリス母さまと手をつなぎながら、僕の話にアドバイスや知らない事情を解説してくれる。


 ほとんどが笑いに包まれ、僕とクリス母さま対母親に意見が分かれ、そこに父親が帰ってくる。

 夜の疲れた匂いをまとって、それでも父親は玄関から直行で、顔を出す。クリス母さまの髪にキスして、ハナさんの肩を優しくたたく。僕をちゃんと見て、ぽんぽんと頭や肩を撫でてくれる。そんな父親を母達と迎えていつも僕はーー。


ーー寂しい・・・。


 浮かんだ涙を手で拭って、僕は『花園』から出ていった。


◆◇


 この世界の葬式は、日本の葬式と西洋の葬式の中間のような感じだ。


 遺体は炎の魔法で灰にされる。

 その灰を平民は、庭先に埋めたり、髪だけ切り取り袋に入れて身近に置いたりする。

 貴族は、前世西洋の棺桶の1/3ぐらいのおおきさの、平べったい陶器の入れ物に、灰や髪の一部、縁のある小さな貴金属を入れて、真封じをして墓所に埋めるのだ。


 モーグ家の代々の墓所は、公爵家ではなく侯爵家にある。

それは本家であった、公爵家が降格されて侯爵家になったからだ。その後、再び昇爵される際、侯爵家から出て公爵家が作られた。そのため、公爵家より侯爵家の方が広く、別館が数棟あり、先祖に縁のあるものが多く残る。

 ご先祖様達の日記のある部屋も、その一つだ。


 モーグ家の墓所に集まった喪服の弔問客と共に、僕は神父の最期の惜別文を聞き入る。




『神は世界に人間族と妖精族を創られた。

 その次に魔人族と獣人族を創られた。


 魔人族と獣人族から魔物と亜種族が生まれた。

 魔物から魔獣が生まれた。

 亜種族から精霊が生まれた。


 しかし魔物と魔獣は人間族と妖精族を喰らい、魔人族は魔物と獣人族を喰らった。

 妖精族は世界を混沌へと導いた。亜種族は地にもぐった。


 悲しんだ神は7人の王に世界の秩序を作らせた。


 人王は人間族に知恵と魔法を授けた。

 魔王は魔人族に魔力と闇に潜む眼を授けた。

 獣王は獣人に強力な身体能力と危機回避能力を授けた。

 妖精王は妖精に識る能力と封印の力を授けた。

 金の王は亜種族含め、生きとし生けるモノ全てに祝福と聖地を与えた。

 白の王は世界のすべてに進歩と失敗と機会を与えた』




 子供の頃から何度も聞かされる神話だ。


『人間族の(ことわり)を外れ、今神の元に帰還する、故テオドール=フィン=モーグ、故ハナスティア=フィン=モーグを、太陽をもって迎え入れらし事をお願いもう申し上げる。夫婦共に生前はーーー』


 両親の功績を、数分にわたって飾り言葉で連ねられ、最後に『二人の移し身を聖地にお返し申し上げる』との神父の言葉で

黙祷が捧げられる。


 前世で言うところの『な〜む〜』って感じだろうか。

 不謹慎なことだが、テドさんもハナさんも、実際には死んでいない。ただ公的な責任を棚上げするのに、社会的に抹消する必要があったから、手っ取り早く死亡ということにしたのだーーいわゆる茶番である。


 だがその事はモーグ一族でもごくごく限られた、一部の人間だけしか知らされていない。


 不用な布の詰まったミニ棺桶が墓所に埋められる間、弔問客の慰めを受ける前に、侍従見習いに降格したギッシュが、早速やらかす。


「・・・ぼ、ぼっちゃんっ・・・ぐずっ」

 ギッシュ、なんで僕より先に泣くんだよっ!僕が泣けなくなるじゃん。


「奥さまも旦那様も良い方だったのにぃ〜ぼ、坊っちゃんかわいそうっすぅぅぅ!」

 なんでギッシュが言うと、コメディになるんだろ。


「・・・泣かないでよ、ギッシュ」

 白けながら、僕はチャンクスに渡されたハンカチをギッシュの顔面に押し付ける。


「ギッシュ涙をふいてあげるよ・・・」

「い、いたいっ!痛いっすっ!」

 騒ぐギッシュの口をチャンクスが抱えて塞ぐ。


「お邪魔になりますので、別の場所で慰めてまいります」

「えっ、えっ?」

「うん、お願い。ギッシュ、父さまと母さまを悼んでくれてーーっうう、ありがとう・・・っ」

 ちょっと涙ぐんでみる。


 弔問客からは、「モーグ侯爵夫妻は使用人にも慕われていたのねぇ」とか「お子さん1人遺してお可哀想に」とか「つい先日、パーティーでお会いしたばかりでしたのに」などなど同情票が集まる。


 こういった意見を聞くと、不意に全部をぶちまけたくなる。


ーー両親は僕を捨てて領地にいまーす。死んだふりだけしているんだよ〜仕事も侯爵の地位も、それに伴うすべてを投げ捨てて、僕だけ置いて行ったんだ!!!


ーー・・・違う。うん、分かってる。ほんとは分かっているんだよ。


ーーテオさんもハナさんも、ちゃんと僕を愛して育ててくれた。クリス母さまだってずっと側にいてくれて、大好きだ。三人をずっと愛してる。


ーーだから、クリス母さまが死ぬのは嫌だ。そんな事になれば、僕は一生後悔する。


ーー僕ができることは、三人との別離を受け入れることだ。そう分かっているんだよ、でも、感情が・・・気持ちが追いつかないんだ・・・。




「ギーヴ・・・」

 特別な声で呼ばれて、ドキリとする。

「エルバーラ・・・?!」

 喪服のエルバーラが心配そうに僕の前に立っていた。



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