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悪役令嬢は執着されてハメられる  作者: ちょしゃなげ
第3章
40/59

わたしの事情3〈物語に生きる〉回想

※暴行、虐待記述あり。

苦手な方は飛ばしても本筋に影響ありません。


エルバーラ視点です。ちょっと長め。

胸クソは一気に。。。という感じです。


ーーあははは、って。。。黒魔術!?王妃様が!?

 超ど級の、いらない情報提供(バクロばなし)だった。


 よくよく聞けば、王子は黒魔術で自我を封じられているという。エルバーラに優しくするのも、笑うのも、話すことも予め決められたものーープロラミングのようなもの、だという。


ーー全くもって、知りたくなかったその暴露話(じょうほう)


 王家の裏話を聞かされて、わたしにどうできると言うのだろう。


 乙女ゲームの通りでいけば、エルバーラはこの人形王子に一目惚れして、ふさわしい令嬢になれるよう、努力するのだ。

それ以上でもそれ以下でもない話は、乙女ゲームのストーリー上では出てこなかった。


 だからわたしは、聞かなかった事にしてもいいはず。

 黒魔術=禁呪、王妃様=最高権力者、人形王子=そのままでいい?


ーー恩人達(かれら)を助けるだけで精一杯のわたしが、シャルモン殿下に何かできるわけがない。


 わたしは乙女ゲームの通りに断罪されて、約束通り妖魔達(かのじょたち)を探さなければいけないの。


ーー余計な事を考えてはいけないのよ・・・。


 そう割り切ろうとするのに、チクリ屋達(ようせいたち)は私の心に容赦なく、(くさび)を打ち込む。


『でもなぁ、エルなら黒魔術解けるかも、なのにねっ』

『人形王子が王子さまに戻れるかも、なのよねー』


 その時はわたしは光達の言葉を、ただ聞き流していた。


 だって例え黒魔術に縛られた人形みたいな王子さまでも、この時はまだ優しく、婚約者を気づかってくれる王子さまで、波風なく良好な関係を保つ事ができていたから。


 むしろ、フランチャスカ侯爵家の中の方が、わたしには耐えられなくなっていた。


 義母との朝食を終え、自室に戻ろうとしていた時だった。まだ侯爵邸の配置を完全に覚えきれていなかったわたしは、義母の折檻もあって、ふらふらと応接室の近くにある客室に迷い込んだ。


 義母の折檻は長く底意地が悪かった。


 太股や背中の見えない部分を幅の広い鞭で打つこと以外に、食事のスプーンの持ち方が気に入らず何度も何度もスープを飲ませられ、吐いても止めてもらえなかったり(その後からスープの香りを嗅ぐだけで吐き気が込み上げてきた)、カテーシーのお辞儀を倒れても無理やり引き起こされ、繰り返させる(全身筋肉痛になり、熱を持ったせいで夜に眠れなくなった)、朗読を発音が悪い、聞こえないと何時間も繰り返させる(声が枯れ、少し血を吐いた)など、執拗だったのだ。


 前世で見た乙女ゲームのイジメのように、使用人の仕事をさせられて、水をかけられたり、足で蹴られたり、粗末な屋根裏部屋に閉じ込められたりした方が、余程、心理的に楽だったと思う。


 とにかく、義母の虐めは粘着質で執拗で、精神的な攻撃が長い。


 乙女ゲームの設定として、義母に虐待されるのを受け入れる必要があったが、なまじ前世の常識が残っている私には、心身ともに堪えていた。


 そんな疲労した精神状態の時に、客室で出くわした女性に、わたしはさらに衝撃を受けた。


 応接間で兄達の衣装合わせをしていたことは、なんとなく耳にしていた。義母に「あなたの様な無様で礼儀のなってないメス猫に、ドレスはまだ早いわね」と言われたからだ。


 御用達の商人が来ていて騒がしいだけ、なるべく会わないように気をつけないとお義母さまに怒られてしまうわ、と思っていたくらいだ。


 しかし、うっかり迷い込んだ客室から、髪を振り乱し、飛び出してきた女性に出くわしてしまった。服は破られ、顔には殴られた跡があった。


 その女性の後から追いかけて出て来たのは、父親であるクソ侯爵だった。

「助けて・・・っ」

「大人しくしておけ、可愛がってやるんだっ」

 侯爵の怒鳴るような声と女性を見る目が気持ち悪くて、吐きそうになった。


「うぇ・・・っ!」

 無意識に声が漏れて、咄嗟に自分の口を自分で覆ってしまう。

 

「なんだ、お前がどうしてここにおる?」

 ギロリと睨まれて、身体がすくんだ。侯爵の太い腕が女性の首にまわり、もう片手が口を塞ぐのを目にしながら、本能的に恐怖がこみ上げた。

 

 何をしようとしているのか明らかだった。

 女性は逃げようとして必死にドタバタと、もがいていた。


「い、いやがってますっ、お父さま!」

 涙目の女性の顔を見ていられなかったーー同じ女性として。


 だがーー。


「ヨハンっ!ヨハン、こいつをどっかに連れて行け!」

 大声で執事を呼ぶと、侯爵は手慣れた感じで、女性を客室に連れ込んで行った。


「ぁ・・・っ!」

「お嬢様、、、」

 追いかけようとした背後から、執事の声が響いた。けっして大きな声ではないのに、背筋が冷たくなるような感情のこもらない声だ。

 振り返ると執事が、気弱そうな笑顔を浮かべている。


「お部屋にご案内いたしましょう」

「まって、ヨハン。あの女の人を助けてあげてっ」

 私は執事に訴えかける。なんとかしてほしいと。だが執事は強く私の肩を掴んだ。


「お嬢様、いけません」

「でもっ、いやがっていたわっ、ないていたのっ!」

「喜んでいたのでしょう」

「なっ!」


「アレは平民です。商人の手伝いとして屋敷に上がることを、特別に許された幸運なお針子なのです」

「でもっ、へいみんだからって、ひどいことをしちゃあいけないわっ」


「?何をおっしゃっているのですか?平民が嫌がろうと泣こうと侯爵家には何の問題もございませんよ」

「もんだい・・・って」


「侯爵さまは逃して捕まえるのがお好きなので、嫌がったり泣いたりしてもらわなければいけませんが、侯爵さまが満足すればそれなりの金貨を与えられるでしょう。もっとも侯爵さまを傷つけるような事があれば、事後に処分いたしますが」

 当然の事のように言われて、私は言葉を飲む。


「良いですか、お嬢様。侯爵さまの一時のお手付きは、平民にとっては、とても有り難く光栄なことなのです。商人だって承知の上で人選をして、侯爵家につれて来ているのです。それだけの恩恵を侯爵家は、商人にもあの平民にも与えるのです」


「おんけいってそんなーーぼうりょくはぼうりょくよっ。女のひとはよわいのに」

「それがなんだというのでしょう?侯爵家が平民に暴力を振るおうと殺そうと、侯爵家には許されることですよ。それが貴族であり、権力なのです。平民は黙って従えばいいのです」


「おかしいわっ。きぞくは、よわいたちばのものを、たすけるべき、そんざいでしょ。けんりょくだって、そのためのものよね?」

「助ける?平民をですか?なぜでしょう?平民とは生まれながらに、貴族に使われるべき者達のことですよ?暴力ごときの何が問題なのでしょう」


 考え方がどこまでも平行線だった。


 目の前で暴力的な行為が行われても、それを当たり前と考えろ、助けようとする事はおかしなことだ、と執事は言い切る。


「そんなの、おかしい・・・」

 日本の常識が私の考えを次々に補完する。基本的な人権とか、女性の保護とか、暴行罪傷害罪、DVーーなどなど、だ。

 

「・・・ほうりつで、きんじられていないの?」

 思わず口から出た〈法律〉という言葉に、執事の目つきが変わる。


「おやおや、男爵はいったいどのような育て方をされたのか・・・奥様にご報告しなければなりませんね」

「ヨハン・・・っ」

「良いですか。お嬢様も、侯爵さまのお手つきを頂いた、幸運な男爵令嬢から生まれてきたということを、決して忘れてはなりません。余計な考えは持たず、侯爵さまと奥様に従順に従う事が、このお屋敷で暮らす上で肝要(かんよう)かと思いますよ」

 滑らかな口調の中で向けられたトゲ。

 私はそれ以上の言葉を失った。執事に強引に促されるまま、すごすごと自室に戻った。


『クソ侯爵にクソ執事だね』

「ーーそうおもう?」


『だって、それがエルの常識でしょ?』

「わたしのじょうしき!?ーーじゃあ、あなたたちはどうおもうのっ?」


『人間なんてどうでもいいーっ』

『人間怒るの笑える』

『人間泣くの楽しい』

『人間暴力ふるうの面白い』

『人間あがく、バカみたい〜』


「・・・」


 日本の常識、異世界の常識、妖精達の常識ーー。


 考えれば考えるほどわからなくなる。

 わからなくなることは、とてつもなく不安なことだ。

 不安だと、どう行動していいのか、何を話していいのか、どうすれば正解になるのかーーわたしは一歩も動けなくなった。


 寝台の上でうずくまって、ぐるぐる考え込んでしまう。


『助けてっ』

 あの時の女性の涙目の顔が思い浮かんだ。同じ女性だからこそ分かる恐怖。


 またーー恩人3人の倒れた姿も思い浮かんだ。助けられなくてどうすれば助けられるのか、あのとき感じた焦燥と絶望がよみがえる。


ーーわたしは、誰も助けられない。ただ、見ているだけ・・・。


 そう気づけば、自分が人でなしのような気がしてくる。

 さんざん、侯爵をクソ侯爵と呼び、虐げる義母を軽蔑しながら、ただ虐げられる悪役令嬢という悲劇に酔っているだけの、最低の人間に思えた。


『でもなぁ、エルなら黒魔術解けるかも、なのにねっ』

『人形王子が王子さまに戻れるかも、なのよねー』


ーーシャルモン殿下のことさえ、見てみぬふりをしようとしている。助けられるかもしれないのに、わたしはその方法を妖精達に聞こうともしなかった。


「最低だーー最低な人間がエルバーラ?」


ーーこの自己嫌悪も乙女ゲームの設定なのだろうか?


 分からなかった。ゲームの場面ではエルバーラの葛藤も悩みも描かれなかったから、見ているしかできなかった自分が正解なのかどうかも、もう分からない。


 それでも、恩人3人が傷ついているのを見ていただけの自分も、お針子の女性が侯爵に暴力を振るわれていたのを止められなかった自分も、黒魔術を使われている婚約者に無関心でいた自分も、すごくすごく嫌だった。


 自己嫌悪で煮詰まるわたしに、チクリ屋達がまた囁く。


『エルバーラ、この間入ったばかりの侍女、クソ侯爵がまた客室に引きずり込んでいるよ。いいの?』


 顔を洗うお湯を持ってきてくれた16歳の女の子だった。

 お屋敷に来たばかりなんです、仕事頑張ります、とはにかみながら声を掛けられたのは初めてで、それだけでわたしは親しみを覚えていた。


 だから、考えるより先に駆け出した。

 光達(ようせいたち)の案内でたどり着いた先では、侍女を客室に連れ込もうとする侯爵と、力の限り暴れて逃げ出そうとする若い侍女がいた。

 髪を掴んで引きずり込もうとする侯爵の腕にすがりながら、わたしはもう行動していた。



「お父さまっ!ニーナをおゆるしくださいっ、どうかっお父さまっーーきゃっ!」

「黙れっ!」

 小さな身体が簡単に吹っ飛ぶ。それでも、今度は途中で諦めたりなんかしない。

  侍女の腕を掴んで、客室に引き込まれないように、腰を落として必死に動いた。


「お父さまっ、やめてっ!」

 大きな声を上げて周りに聞こえるように、私はできることを繰り返す。侍女は貴族の娘だ。今度は執事も助けてくれるかもしれないーーそんな薄い希望しか思い浮かばない。


 すると唐突に、お腹を蹴られた。侯爵が本気でわたしを排除しようとしたのだ。

 

 痛くて、息が詰まって床に転がる。悔し涙がこみ上げる。


ーーあぁ・・・また、わたしは助けられないの?


 絶望で侍女を見つめたわたしの前に、いつかの妖精王子チートかくれこうりゃくキャラが立っていた。


「大丈夫かい?」

 目の前に差し出された手。わたしとそう大きさの変わらない手が、どれほど心強くて、暖かくて、泣きそうになったことか。


「久しぶりだね」

「あなた、どうしてここにっーー」

 立ち上がらせてもらい、体中を駆け回る優しい魔法の風ーー回復魔法だ。


 お腹の痛みも折檻の痛みも、一瞬でなくなってしまう。


ーーすごい・・・。


 侯爵家の使用人は基本的に、侯爵を怖がって見てみぬふりをする。それなのに、妖精王子チートはーーギーヴは恐れることなく、侯爵と堂々言葉を交わし、この場を収めてしまったのだ。


 彼が乙女ゲームの登場人物ではなく、実在する人間だと初めて感じた瞬間だった。


 その後、妖精王子チートはギーヴと呼んでくれとか、エヴァと勝手に呼び名を付けられたりとか、セクハラ未満の接触をされたが、救われたのは確かだった。


 そして、私はこの時を境に、言いなりになることをやめた。


 乙女ゲームの悪役令嬢の役をやるのはいい。そうしないと恩人たちを助けられないから。


 でもだからって、全てが『神の戯れ』の通りに生きるのは違うと思った。


 わたしは確かにこの物語の中で生きている。

 自分でできることをやらない自分は大嫌い。

 

 だから。


 恩人を絶対助ける。

 虐げられるのも、ただではやられない。

 これから何度だって、暴力を行う侯爵を止めようと動いてみせる。

 この先イジメだってしないわ。


 それから、シャルモン殿下のことだって、わたしに黒魔術を解くことができるならーー助けることができるなら、わたしはやってみる覚悟を決めた。




 

2月3月の更新は、休みの日が中心になるかも、です。

アプできる時はなるべく上げようと思うのですが、色々忙しくなるものでどうなるか。。。


4月までに完結させて、もう一個の話の更新を進めたいと思ってます。(予定)

よろしければ、覗いてみてください。




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