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悪役令嬢は執着されてハメられる  作者: ちょしゃなげ
第2章
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迷路庭園3〈テオドール〉

「〈我が君〉の命約を遮ることは許されぬ」

 低いーー闇の底から響き渡る声が、そう僕に告げた。


 発動した魔法陣が、切り裂かれ、不発に終わる。残像のような魔術式から、僕は転がるように逃れた。


「・・・誰だっ」

「ほう、切っ先から逃れたかーーいや白魔法の使い手か」

 無表情のまま、黒騎士は呟く。

 僕は黒騎士を見据えたまま、回復魔法で自分の傷を急いで塞いでいった。

 

「見事だ、人間」

「お前っーー魔族!?」

 わずかに細められた瞳は深い闇色だ。縦に走る虹彩が爬虫類のように、感情を排除する。

 存在自体の禍々しさに、僕は拳を握りこむ。


「なぜっ、魔族がーー」

「知る必要はない。私は〈我が君〉を遮るものを片付けるのみ」

 瞬間、黒騎士の姿が消えた。咄嗟に防御魔法を張る。だが、その防御魔法ごと、エルバーラの方へふっ飛ばされてしまう。


「ギーヴ!?」

「エルバーラっ、逃げろっ」

 令嬢二人が悲鳴を上げる。エルバーラが血まみれの僕の方に近づいて来た。叫んだ僕は、エルバーラを背に隠すように立ち上がった。


 剣を下げて、ゆっくりと黒騎士が近づいてくる。

 僕はモーグ家独自魔法の術式を起動する。

 魔力が減って、発動に時間がかかる。だが、それでも、魔法に頼るしかない。


 武器がほしいと、心底思った。

 この禍々しい魔族に太刀打ちできる武器がーー。


「ダメッ。殺さないでっ」

 その時、僕の前にエルバーラが飛び出てきた。


「エルバーラっ危ないっ」

 僕の静止(こえ)に答えることなく、彼女は早口で魔法を唱える。すると周りを囲むいくつもの緑の枝が、棘を持つ鞭のように長く伸び、黒騎士へ襲いかかった。


 その緑の枝を、黒騎士はたやすく斬り伏せ、反対に湧き出た黒の靄がエルバーラに絡みついた。


「エルバーラっ」

「だめっ・・・もう、イヤな、のっ・・・!」

 もがきながらも力尽き、地面に倒れ伏すエルバーラ。

 同時に、背後で令嬢たちが倒れた音がする。


 僕は術式を保持し、そのまま攻撃に転じた。


 だがーー。


「無駄だ」

 渾身の雷魔法を軽く斬って捨てられる。


 くそっーー力が違いすぎる。


 たったひと振りで僕の魔法を斬り裂き、黒騎士から放たれる黒い靄が、辺りを侵食する。その次には僕の全身は簡単に貫かれていた。

「ぐうっ!」


 絶体絶命、その言葉を初めて思い浮かべた。近づく黒騎士に(はら)を決める。諦めたくないーーっ!


 その時、周囲の天地に何十何百という魔法陣が出現する。


「ここはモーグ侯爵家、人間の領域ですーー人外はお引き取りを」

 穏やかな口調でありながら、威圧的な声。


 現れたのは、モーグ侯爵家当主、テオドール=フィン=モーグーーテドさんだった。


 初めて見る、テドさんの憤怒の表情だ。

 テドさんの膨大な魔力がうねり、黒騎士に向かう。黒騎士の黒い靄を端から一気に消滅させていった。


「中々なものだ、人間」

「もう一度言います。すぐにーー立ち去れっ」

「ーー人間には見合わぬ魔力だが、それで脅せると思うのは笑止」

「では、力ずくで行きます!」


 言葉よりも早くテドさんの、天地空の魔法陣から、火炎砲が噴出される。発動が切り替わると今度は風神斬、次に僕よりも強い、雷神槍が黒騎士を襲う。


 繰り広げられる、テドさんの本気の乱れ打ち魔法と、それを斬りすてる黒騎士の戦い。

 

 その凄まじい衝撃に絶え、僕は倒れたエルバーラを腕にかき抱いた。

「エルバーラっ」

 呼吸があることを確認して、ホッとする。

 気を失っているだけのようだ。


 それならーー。

 僕はエルバーラの首に触れる。すると見えず触れずのはずだった呪いのネックレスは、僕が触れた途端、はっきりと実体化した。


「ダメだヨォ〜」

 いきなり目の前に、虹色の羽が見えた。手の平ほどに小さな女性だ。


「お前ハ権利がナイ〜ヨ」

「・・・ようせい?」

「アハハハ正解ダ〜。ソノペンダントハ〈我が君〉とソノ女トノ命ヲかけた契約だヨぉ〜妖精族の王子デモ介入できないネ〜介入スレバ、女ハ即死ダヨ〜ネガウ?ネガウ?」

「願わない・・・」

 物騒な内容を明るく話される。僕はすぐに否定した。


「ソレがイイねぇ。アト十年ダヨ〜」

「・・・10年って!?命を掛けた契約って!?魔族とエルバーラが?」

 僕は知りたくて、矢継ぎ早に質問を続ける。

 妖精が気まぐれだというのは有名な話だ。答えてくれる内にと焦りが出る。


「ダカラ、お前ハ権利がナイ〜ヨ!」

「権利ってーー」

 だが、小さな妖精はそう繰り返すのみだ。

 しかも僕を無視して、今だ繰り広げられるテドさんと黒騎士の戦いに、いともあっさりと割り込んだ。


 テドさんが膝をつき、黒騎士が剣を引く。


「オ呼び〜ィ、オ呼び〜ィ!〈我が君〉のオ呼びダ〜ヨ〜」

「サシュ」

「放置〜放置〜この件、放置ダヨぉ〜オ前もオ前もラッキー!」

 くるくる回って妖精がそう告げると、黒騎士は剣を鞘に収めた。

 その音で初めて、いままでの空間(たたかい)が別空間だったことを知る。


「勇者よりは楽しめたぞ」

 黒騎士がニヤリと笑う。


 その直後、黒い魔法の波動と共に、モーグ家全体を覆っていた結界が破裂した。


 余波が僕達を襲う。

 黒い靄に包まれ、消えていく黒騎士と小さな妖精の女性。


「忠告はしたぞ、妖精王の血を引く者よ」

 耳元に残された言葉を呆然と聞きながら、僕はエルバーラをただ抱きしめていた。


 血だまりに倒れていたテドさんが、起き上がろうと足掻いている。


「・・・テドさんっ」

 僕の声はかすれていた。


「クリスっクリスっーークリスティーヌをっ」

 テドさんの顔は色を失っている。


ーークリス母さまっ!

 

 結界は完全に、消えていたーー。



更新は火木日になります。

更新できなかったらすみません。


次で第二章は終わり(のはず)ですので。

修正多くてすみません。。。

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