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悪役令嬢は執着されてハメられる  作者: ちょしゃなげ
第2章
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迷路庭園

 この世界の魔法は、汎用されているが威力が小さい。

 平民の半数が魔法を使うことができ、貴族のほとんどが使える。

 また、平民は魔法を使えても、1陣のそよ風と手のひら1杯の水、指先で弾ける火種、草1本抜ければいい程度の撹拌(かくはん)土魔法がせいぜいである。


 貴族について言えば、平民よりは魔力量が多いが、魔獣を攻撃できるほどの威力を持つ者は多くはない。


 そのため、魔力を込めて使う魔導具が主流であり、魔獣討伐をする騎士も武器に魔力をまとわせて強化するのが普通だ。そのため、魔法を使えない騎士と区別して、魔法騎士と呼ばれる。


 また魔法を研究する王立機関があり、魔法を使った魔導具の開発や魔法術式などの適正管理をしている。彼らを魔法師ではなく魔術師という。


 魔法師と呼ばれるのは、魔法で魔獣を討伐でき魔法量が多い稀なる者を指す。


 なので、テドさんなんかは魔力量が桁違いで、魔術師の職務ができ、魔法師と呼ばれるだろう(魔獣討伐できるかは知らないので予想だ)稀な貴族であると言える。


 何が言いたいかと言えば、魔法は汎用性があるがしょぼいことが多いので、代替として魔道具が発達しているということだ。




 テラスに流れる音が止む。不審に思って会話を止めるお客様の前に、家令のマッシュが足音もなく出てきた。ギッシュの父親である。


「皆さま、ご歓談のところ失礼いたします。モーグ家家令のマッシュ=ブルガンでございます。本日の祝の趣向として、迷宮庭園を準備させていただきました」

 マニッシュは人目をひきつけながら、テラスの下、階段の先を手のひらで指し示す。


「ご覧ください。眼下に見えます迷宮庭園を、ぜひ堪能いただきたく思います。季節の花を楽しみながら30分程の迷路脱出を楽しんでいただくことも、迷路の出口であります東屋で先にお寛ぎ頂きつつ、迷路の様子や景色を愛でて頂くことも可能でございます」


 通る声がテラスに響き渡り、一同の視線が、マニッシュの指先の巨大な迷路に向かった瞬間、階段の両脇に控えていた使用人が、魔導具を起動させた。


「おぉぉぉ!」

 中央の階段左右、横の空間に下に向かう透明な動く板ーー前世で言うところの〈動く歩道(ムービングウォーク)〉に似た道が姿を現した。

 行き着く先は迷路の入口と、迷路の出口の東屋だ。


「移動をご希望の場合は、ご案内させていただきますので、メイドへお声がけをお願いいたします」

 魔導具の前の使用人達が、同時に頭を下げた。


「さすがモーグ家。大掛かりな魔導具を持っているものだ」

「素敵。下までおりてみたいわ」


 ざわつく中、ジェムニールが走ってきて、僕の腕を掴む。

「行くぞっ」

「えっ、ジェムっ・・・階段!?」

 やる気に満ちたジェムニールは、そのまま中央の階段を駆け下り始める。


「当たり前だろっ、待っていられるかってんだ!」

「うわぁ~でもこの階段150はあるよ」

「こんなのなんともねぇっ、急げ」

 魔導具で東屋に向かう大人達と、迷路を見に来るお嬢様達が優雅に空の景色を楽しんでいるのを横目に、ジェムニールや僕、それに続く男子たち数人が、元気に中央の階段を駆け下りている。


 どうやら僕が不在の間に、ジェムニールが他の男子に勝負を持ちかけたらしい。

 どんだけ脳筋だよっ!

 こ、転ける!落ちるぅ~。


◆◇◆◇


 無理やり連行されたものの、ジェムニールは迷路の入り口で、僕を置いてけぼりにして、さっさと迷路に飛び込んで行った。


「はぁぁぁ・・・なんだかね~放置は放置でいいんだけど。全部勝負にしないといけない病は、危険だよ~ギャンブルで借金とか作っちゃうよ、ジェム」

 ぶつぶつ文句を言いながら、僕は迷路には入らず、エルバーラを待つ。


 まるで前世のスキー場のリフトような眺めの到着地点は、迷路の入り口から少しだけ離れた場所だ。


 こちらにやってくるお嬢様軍団やおちびちゃん軍団から隠れつつ、エルバーラの姿を目視してホッとした。

 ちゃんと迷路に来てくれたらしい。

(アンナあたりが誘導してくれたんだろうけど)

 エルバーラは二人の女の子と一緒に歩いて来ていた。


「エヴァ」

 植木の影から声をかける。

「ギーヴ?お兄様は?」

「先に行っちゃった。絶対に一番に攻略したいんだって」

「攻略!?」

 何故かエルバーラが大きく驚く。


「うん。迷路の攻略なんて、めったにできないからってさ」

「そうーー」

 そう言って、エルバーラはよくする仕草で僕の頭の上の方を見ている。そのドレスを、側にいた女の子が引っ張る。


「あ・・・こちら、トリット伯爵家のブリジット嬢とヨハン子爵家のイリーナ嬢よ。さっきお友達になったの。お二人とも同じ年で、同じ学園に通うんですって」

 二人がドレスをつまんで、軽く腰を落とす。僕も軽く挨拶を返した。


「じゃあ、僕とも同学年だね。ーーそうだ、迷路を入ってすぐ左に4つ曲がると、珍しい薔薇を植えているエリアに着くと思うから、ぜひ見ていって」


「まぁ、珍しい薔薇ですの!」

 そう言ったのは、トリット伯爵家のブリジット嬢だ。先程エルバーラのドレスを引っ張った子だ。積極的で何を考えているのかわかりやすい子だ。


「どんな薔薇ですか?」

 控えめな調子で、様子を伺うイリーナ嬢は報告書の通り、疑り深い(たち)らしい。


「それは見てからのお楽しみかな。お客様にもめったに公開しない種類だから」

「それは楽しみですわ」

「エヴァ、道が分からなくなったら、近くの使用人にちゃんと声をかけて」

「ええ」

 それじゃあ、と手を振って、僕は先に迷路に入り込んだ。


ーー早く、先回りしなくっちゃ!

 僕は隠蔽魔法を自分にかけ、迷路の奥へと向かった。




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