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悪役令嬢は執着されてハメられる  作者: ちょしゃなげ
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7歳のガーデンパーティー6

「じゃあ、ここからは先に行くわね」

「んっ」

 いつかの会話のように、今度はエルバーラが言う。僕はなんでもない素振りで頷いた。


 そして振り返らないエルバーラの後ろ姿を、僕はうっとりと見つめ続けた。


 細い腰、華奢な肩。


 黒髪に白いリボンを編み込んだエルバーラが、テラスに通じる出入り口へ吸い込まれて見えなくなるまで、目の奥に焼き付ける。


「ーー乱れる黒髪も好きだけど、うなじが見えそうで見えない編み込みもいいよねぇ〜」

「坊ちゃま、はしたないですよ」

 あ、アンナとチャンクスが側に居たんだった。ゴホッゴホッと誤魔化しの咳をする。


「ところで坊ちゃま、ご報告があります。2つーー」

 指で示すアンナに、僕は首を傾げる。


「1つはお願いしていたネックレスの件だよね?」

「はい、やはり見ることも触ることもできませんでした。ただ風魔導具(ドライヤー)で、肩の抜け毛を払う際、首に届く前に風が跳ね返っておりましたから、坊ちゃまがおっしゃるとおり、そこに何かがあることだけは確認できました。が、それだけです」


「エルバーラの抜け毛・・・」

「もう処分いたしましたよ、坊ちゃま」

「なっ!か、確認できてアンナありがとうっ!」

 僕は慌てて感謝を述べる。うーん残念〜。


 エルバーラの首にかかる『呪いのネックレス〈勝手に命名〉』の存在は、ジェムニールや使用人など、侯爵家の誰もが見えず触れずで、気づいていないようだ。


 僕も、黒蜥蜴(ブラック)にならなければ、見えなかったかもしれない。


 下手をすると、エルバーラ本人も知らない可能性がある。

 呪いの内容がなんなのか、現在健康そうなエルバーラからは伺えない。


 だが、モーグ家初代の魔法で見た幻は、確率の高い未来だと言う。たった1回の初見のみの魔法だったが、黒蜥蜴(ブラック)も自分も、その幻ーーエルバーラが死ぬ未来が現実になるものだと確信していた。


 なぜなら、エルバーラが死ぬということは、僕の〈欲〉ーーエルバーラを独占したいという欲望が、永遠に叶うことがなくなるということだからだ。

 僕の〈病み〉に反応した初代の魔法ーーエルバーラが欠ける未来。


 そんな未来を僕は拒絶する。だからその可能性を潰してみせると決めたのだ。

 そして確実に分かっている原因の1つが、あのネックレスだ。


 視覚触覚的には不在のものだが、魔導具の風が跳ね返るということは、物理的な何かがそこにあるのだろう。


 できれば、ネックレスを外させて処分したい。


 僕はエルバーラのネックレスのことを知ってから、1年近くかけて、ご先祖様のオリジナル魔法ーー隠蔽解除と有在転換魔法、そして解呪魔法の改良を行ってきた。


 その魔法を今日、庭園に仕掛けている。


「それでアンナ、もう1つは?」

 僕は思い出して促す。するとアンナが心配そうな表情を浮かべた。


「ドレスは来たまま手直しさせて頂いたので、確認はできませんでしたが・・・お嬢様は怪我をされているのではないかと思います」

「怪我!?エルバーラが?どこに!?」

「おそらく・・・背中と太もも辺りではないかと。私の学院時代の同級生の話ですが、家庭教師に鞭を振るわれていた令嬢がおりまして、怪我を隠そうとしていたのです。その時の様子を思い出しまして、確認させていただこうとしたのですが、お嬢様には笑顔で断られてしまいました。申し訳ありません」

「鞭・・・」

 自分でも分かるほど、顔が険しくなった。


 思い出すのは、初めて会った時のフランチャスカ侯爵夫人のエルバーラへの暴力、そして侯爵の暴力だ。

 フランチャスカ侯爵家は、いつも暴力に満ちている。


 その事を知らなかったわけではない。だが、王家の婚約者となったエルバーラに、まだ暴力をふるっているとは思わなかったのだ。


「侯爵家に影を入れるか?・・・守らなきゃ」

「それは得策ではないかと」

 僕の呟きにチャンクスが情報を口にする。


「鉱山が見つかって以降、フランチャスカ侯爵家の体制がかなり厳しくなっております。侯爵は用心深く、やり手の執事兼家令が使用人の出入りを限定しているようですよ」

「ああ、あの執事か」

 何度もジェムニールのところに通っているので、執事の顔は知っていた。


 フランチャスカ侯爵家は執事が家令を兼任しているのだ。つまり領地政務の侯爵補佐だけでなく、煩雑な家政の一切を取り仕切っているのだという。


 モーグ家では執事と家令は別であり、家令も領地と別荘、飛び地の館にそれぞれいる。

 王都だけとはいえ、家政と執事を兼務できるとなれば、とんでもなく有能だ。


「あまり有能には見えないんだけどねぇーーでも、モーグ家の介入は絶対バレたくない」

 フランチャスカ侯爵家の、気弱な家令の顔を思い浮かべる。

 情報を盗むだけならともかく、エルバーラへの暴力を直接的に阻もうとすれば、見聞きするだけではすまない。


「であれば多少時間はかかりますが、それぞれの愛人を動かしてそちらに注視させた方が良いかと。お嬢様も間もなく学園に入学されますし、王家の保護も付きます。侯爵邸に居る時間が減れば、安全な時間が増えるのではないでしょうか」

「ーーわかった。アンナ、チャンクスの案でお願い」

「かしこまりました」


 僕はエルバーラに会うたびに、回復魔法を使うことに決めた。時々は、頑張って遠見の魔法を起動して、無事かどうかを監視しよう。それからジェムニールのところにももう少し頻繁に通おう。


「はぁ~貴族ってめんどくさいよねぇ」

 今すぐに侯爵家全員ボッコボコにして、エルバーラに土下座させて、エルバーラを保護監禁したい。


 できないけど。しないけど。


「坊ちゃま、法の番人である『完璧なるモーグ家』を忘れてはなりませんよ」

「わかってますぅーー」


 この世界は、前世の世界とは違いすぎる。

 倫理観も道徳観も薄っぺらく、人権なんか簡単に無視されてしまう。その上、貴族という枠、嫡男という枠、モーグ家という枠、そして権力という枠が、幾重にも重なって僕を動けなくする。


 それでも、チートな手段ーー側近とモーグ家オリジナル魔法を手にできるだけ、僕は幸運だ。


『主、ヨハン子爵家次女イリーナ嬢とトリット伯爵家長女ブリジット嬢が、エルバーラ嬢と無事接触したようです』

 ささやき声が響く。

「ありがとう、スクナ」

 計画は順調に動き出していた。


まだ、迷路庭園いけませんでした。

どうしてもドアマット悪役令嬢に触れておきたかったので。

次はホントに。

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