7歳のガーデンパーティー4
「太陽の天子たる殿下にご挨拶申し上げます」
貴賓室に入って、僕達は第二王子のシャルモン殿下に略式のお辞儀をする。
1拍おいてから、随分と幼い声が聞こえた。
「普通にしてください。今日は王妃様からの内々の使いなのだ。その使いも先程、執事に渡してある」
テドさんが執事のランダさんから、王家の印璽が押された手紙を受取る。目を通している間に、第二王子の背後で、見覚えのある侍従が身をかがめて何かを囁く。
第二王子の右側に、トリッシュお祖母様とリンダお祖母様が既に座っていて、第二王子の正面に、僕を真ん中にしてハナさんとテドさんが座った。
ちなみに第二王子の背後には二人の護衛と侍従が立っている。
「パーティー中に時間を取らせた。王妃様からの要件以外に、祝いの花を持って来ているから受け取って欲しい」
「それは、とても光栄なことでございます」
「王妃様が急ぎの重要な件だとおっしゃって。パーティの最中の訪れになるだろうからと、手ぶらは良くないと許可してくださったんだ。持ってきた花束は、王家の庭からこの侍従のガルーダが摘んで、僕が束ねたものなのだ」
無邪気に語る第二王子と、まともに会うのはこれで4度目だ。
1度目はエルバーラと出会った王妃主催の茶会。
2度目はフランチャスカ侯爵家でエルバーラに王子が会いに来た時。
3度目は王女殿下との婚約が内定して、僕が王城に参内した時。
そして今回。
そのどの機会にも、同じく影のように付き従う侍従がいて、その侍従が元1級魔術師の男だとーー王妃の手先だと、僕はもう知っている。
義母を『ははうえ』と親しく呼ぶ第二王子に、僕は少し同情した。
ーー傀儡。
だから、5歳の時のお茶会で、ハナさんは側近にも友達にもならなくていいって言ったんだ。捨て駒にする側近候補や友人候補に手間をかける王妃の思惑に気がついていたから。
そして、エルバーラも・・・。
あの時には見えなかったモノが、ようやく見えるようになった。
前世を思い出して、大人な気分になっていたあの頃の自分が、恥ずかしい。
確かにーー決定的に僕とは話が合わないだろう、この彼とは。
そして貴族の嫡子として冷静に判断する。モーグ家は中立であると。
「祝をありがとうございます。王妃様にも感謝をお伝えください」
僕がお礼を言うと、嬉しそうに頷いて背後の侍従を伺う第二王子を、僕は初めてエルバーラの婚約者以外として認識した。
「・・・あの、願いがあるのだ」
唐突にモジモジしだす幼い仕草に、僕は面食らう。
「ギーヴと呼んでよいか?ーーエルバーラ嬢がそう呼んでいるし、学園に入れば同学年であろう」
「・・・申し訳ございません。できればギーヴィストとお呼びください。側近やご友人を差し置いて、顔見知り程度の僕を愛称で呼び捨てというのはおかしいです。それに7歳の祝いも終えたので、少し大人扱いされたくも思いますので」
「・・・そう」
首を傾げる王子は、やんわり断られたことに気づいても、その理由には気づけないだろう。
「王妃様が褒めるそなたと、ジェムニール卿やエルバーラ嬢のように、仲良くして欲しかったのだが」
そうですか、と僕は笑顔だけで、曖昧なまま返事は返さなかった。
「殿下、お時間のようです」
侍従が小さく第二王子を制する。僕はすっと、第二王子の背後に立つ、年配の侍従を見た。目が合った途端、微かに顔が歪んで笑ったように思う。
モーグ家を第二王子の陣営に巻き込むつもりはなさそうだ。
だが、聞き分けよく躾けられている幼獣は、まだ名残惜しそうに立ち上がらない。
「・・・もう城に戻らねばならぬのか?」
初めて見た子供らしい我儘に、僕は一瞬、人間味があるな、と好感を抱いた。さっき同情した延長だったのかもーーだが。
「そうだ、今日ここにはエルバーラ嬢が来ているのであろう?婚約者に会ってから・・・」
前言撤回、さっさと帰れ。
「殿下、本日祝を賜ったことは、とても光栄なことでございます。ですが、王家が1ケ門だけに祝を述べられたことは、いらぬ誤解を生むでしょう」
使者の役目が終わったんなら、早よ帰れ(何度でも言う)
僕は侍従に笑顔で頷いた。
第二王子はもう一度促されて、ようやく立ち上がった。
家族全員でお見送りに向かうと人目につくので、代表でモーグ公爵家トリッシュお祖母様と侯爵家当主のテドさんが、第二王子一行を見送るために同行した。
「なんの用事だったのかしら。テドさんが不思議そうな表情をしていたけれど」
第二王子が出て行って、途端に緊張を緩めたハナさんが、ソファの背に寄りかかる。
「まさかシェリー!うちを第二王子の陣営に巻き込むつもりじゃないでしょうねっ」
「ハナスティアの、怒りっぽいのは相変わらずねぇ」
「お母様、だってギーヴくんが巻き込まれてもメリットが無いわ」
「メリットねぇ・・・今のままなら無害なのではなくて?」
「そんなの、これからは分からないわ」
「ギーヴくんなら大丈夫でしょ。フランチャスカ侯爵家と関わるより、よっぽど冷静に対処できそうよ。ねぇ?」
ねぇ?と言われて僕は苦笑するしかない。
エルバーラ関連しか目に入ってなかった。
そんな自分を改めて実感したよ。もっと貴族っぽく、この世界での視点で、エルバーラ以外のことも情報収集しないと駄目だね。
と、こうした時でさえ、考えるのはエルバーラのことばっかりなんだから、僕は終わってるねー。
「坊ちゃま」
その心を読んだかのように、アンナが貴賓室に入って来た。
エルバーラの髪型とドレスについて、頼みごとをしていたのだ。
「アンナ、終わった?すぐに迎えに行くよ」
僕はピョンと立ち上がる。エルバーラに会いたい。
「いえ実は・・・おひとりでテラスに戻られると出られた先でーー第二王子殿下と」
チッ、舌打ちが漏れた。すぐにアンナやハナさん、リンダお祖母様にまで咎められてしまった。
やっぱり第二王子は、不愉快でジャマだ。




