7歳のガーデンパーティー2
テドさんが挨拶の口上を述べ、楽団が優雅な調べを奏でて、ガーデンパーティーは始まった。
挨拶に来る家ごとに言葉を交わし、一緒にいたモーグ公爵家のトリッシュお祖母様、ワッツ辺境伯家のリンダお祖母様と自然に別れた頃、フランチャスカ侯爵家一行が挨拶にやって来た。
「『蓮の天輪をお祝い申し上げます』わ」
フランチャスカ侯爵夫人が、定型の挨拶を述べる。
合わせて、ジェムニールとエルバーラもお辞儀をする。
「ありがとうございます。今後も精進に努めたいと思います」
すでに何度も披露した、貴族のお辞儀ーーボウアンドスクレープを披露する。
「まぁまぁ、立派にお成りになって、モーグ卿も安心ですわね」
「・・・」
テドさんは沈黙しつつ、軽く頷く。代わりに、ハナさんが明るく声を出した。
「ご子息にはいつもお世話になっておりますわ。内気な息子が剣を嗜むなんて驚きでしたもの。ほら我が家は魔法一辺倒ですから」
「うちのジェムは、面倒見がすごく良いのですわ。教え上手だし、頭も顔も良くて人気者なんですのよ」
「・・・あやかりたいものですわ」
「ホホホ、それは無いものねだりですね。ギーヴ卿はお人形のような骨格ですもの。剣を持てる才能だけでも、あって良かったのではなくて?あの魔剣士様のお孫様ですもの、ねぇ」
ホホホ、と笑いながら始まった狸の化かし合い。
親たちは放っておいて、僕はジェムに話しかける。
「来てくれてありがとう」
「今日は見たことねぇ顔ばっかだな」
「そうだね~学園で一緒になる子が中心だから」
「ああ、派閥な~」
「一応全部の派閥には声をかけたよ」
「それで子爵やら男爵やらもいんのか」
笑いながら見下す発言に、僕は苦笑を浮かべる。
侯爵子息のくせに、下級貴族まで呼ばないと人が揃わないんだろーーてな感じで、内心バカにしてるんだろうなぁ。
「失礼いたします。お飲み物をお持ちしました」
そこにチャンクスが、飲み物をトレイに載せてすすめてきた。
「ジェム、紹介するよ。新しく侍従になったチャンクス」
「チャンクス=ラシュットでございます」
見本のようなお辞儀を繰り出す。
「おう、ギーヴにもようやく侍従が付いたんだな。コイツ割と自由に動き回って大変だろ」
「着任したばかりですので。お話のような主を、お世話させて頂けるのが楽しみでございます」
お客様の意見を否定することなく、同時に主を貶めない完璧な返答。学ぶべきはこの立ち位置だよ、ギッシュ。
「へーそうかよ」
毒気を抜かれたジェムニールが、ジュースのグラスを素直に受け取る。飲んでいる横で、僕はチェンクスがくれたグラスを手にエルバーラに近づく。
「今日も可愛いね、エヴァ」
無言で俯いていたエルバーラが、顔を上げて僕を見る。
「どうしたの?はい、君のためのジュースだよ」
エルバーラは視線を左右に揺らし、僕の頭の上の方を見た。
「何かおかしな物があったかな?」
「いいえ・・・ありが、とう」
ジュースを渡すふりをして、エルバーラの手に触れる。
ようやく僕をまっすぐ見てくれる、エルバーラに満たされた。
「お祝い来てくれてありがとう。君ももうすぐだよね」
「ええ・・・」
グラスに口をつけて、その頬がすこし緩む。
知ってるよ、君がフラフ(桃)のジュースが好きだって。君のためだけに、準備したものだから、喜んでくれているのを見ると、すごく嬉しくなる。
「お祝いパーティーには僕も呼んでくれるよね?幼馴染なんだし」
「あ、それはーー」
「コレの祝いなんかしねぇよ」
ジェムニールの声が割り込んでくる。
「なんでっ」
僕の声が若干低くなる。
「違うの。シャルモン殿下のお祝いと婚約披露のパーティーがあって、そこで十分だから。何度もするのも大変だし・・・」
「でもっ、エヴァのお祝いは別だろ」
フランチャスカ侯爵家がそういう家だと分かっていても、エルバーラを粗略に扱う侯爵達に腹が立つ。
「まぁまぁ、そんなにムキになるなよ、ギーヴ」
ジェムニールが空のグラスを持ったまま、僕の肩に腕を載せてきた。
「・・・そんなに好きなのかぁ?」
小声で囁かれて気持ち悪い。ニヤリと笑うジェムニールの腕を、手荒く払う。
「ムキになってないよ。ちょっと驚いただけ」
第二王子との婚約話は不愉快でしかない。だが、その気持ちを、そっと胸の奥にしまい込む。
弱みを握って揶揄ってくるジェムニールには、扱いやすい奴と思われていた方がいいからだ。
「あれエヴァ、ゴミが付いてるよ」
「えっ」
さり気なくエヴァの髪に触れると、魔力を込めた指先で髪飾りに触れる。
すると髪飾りが、あっさりと下に落ちた。
「あっ!ごめんっ」
テラスのタイルの上を、飾りが音をたてて転がる。僕は慌てたふりをして拾った。
「ホントにごめんっ。弁償するよ!」
「大丈夫よ、壊れてないわ」
「でも髪形も崩れちゃったし。ーーアンナ、なおしてあげて」
アンナを呼んで頼むと、僕はエルバーラの背を優しく押した。
さあ行って、と手を振る視線の端に、こちらを見るテドさんの顔が見えた。
モーグ侯爵邸は、テドさんの見えない結界に覆われている。
だから許可なしで誰も魔法が使えない。息子の僕をのぞいて、ね。
ただし、モーグ魔法を自由に使えても、魔法の使用は隠し通せない。テドさんは僕の魔法を感じ取ったらしい。
ーー分かってます。モーグの人間が何か仕掛けたなんて、絶対に誰にも気づかせません。
「ジェム、迷路庭園って興味ない?」
僕は気をそらせるように、ジェムニールに言う。誘って、テラスの庇から外へ出た。




