7歳のガーデンパーティー
僕の7歳のお祝いパーティーは、ガーデンパーティーになる。
舞踏会のような夜のパーティーじゃないのかって?ーー7歳でナイナイ。
場所は中央庭園。我が家で一番大きな庭だね。
庭を見下ろすテラスが主会場で、そこから階段下に池のような噴水と、きれいに植えられた樹木道、遊びがいのある迷路庭園へと続く。
前世のフランス庭園って感じ?よく知らないけどさ。お子様的にはワクワクするだろう?
雨が降らなくて本当に良かったよーーって魔導具で見えない天井を中庭全体に広げているんだって。
結界とは違って、めちゃくちゃお金がかかっているらしい。
招かれるお客様は、同年代(とその兄弟姉妹)の、学園で会うことになる子供がいる家だ。それとテドさんハナさんと付き合いのある上級貴族の一部になる。
開始は昼過ぎから、4時間くらいかけてダラダラ挨拶したり、飲食したりするらしいので、主に奥様とお子様がメインになる。合間に当主が来ると一緒にまた挨拶したりする感じらしい。
馬車移動で魔獣や盗賊のいる世界だものね、遅刻前提なんだとか。
貴族時間って言うらしいよ。
きっちり時間どおりに動くのなんか、使用人や平民だけなんだって。そう考えると日本人は確かに平民(庶民)なんだよねぇ。まぁ、その几帳面さが誇りでもあったんだけどさ。
だからお祝いパーティーに、貴族当主の参加は少ない。
昼からダラダラパーティーより、みんなお仕事しないとね。でも今日は、テドさんだけは主催者なので、パーティーにずっといる。代わりに、許可書か招待状を持った部下の官僚、何か思惑がある貴族や大商人が、入れ替わりに顔を出すことになる。
そして貴族時間のゆるさはあっても、開始時間は招待状に明記されている。その時間までまだ少し余裕があった。
僕が準備して待機する部屋で、今日から側近で侍従になるギッシュが、新人のチャンクスに、さっそくマウントをとっていた。
「はぁ~でしゃばりは嫌われるっす、こんなことも分からなくて、坊っちゃんのお世話ができるんすか」
そう言いつつ、僕の首もとのネクタイを整える。チャンクスは反論することなく、僕の上着を整えている。護衛騎士なんだけど、つい手が出た感じだ。
「ギッシュ、失礼な口を聞かないでよ、チャンクスは年上だろ」
「坊っちゃん、仕事に年齢は関係ないっす」
「仕事じゃなく能力!僕は能力主義なの。その点で言ったら、僕付きの側近の中では、ギッシュが一番下だからねっ!いい?」
「ひどいっす!こんな従僕ーー」
「チャンクスは、伯爵家の出だから従僕にはならないよ。なるなら、侍従だね」
普通、従僕は下級貴族か平民出身の者がなる。だが、チャンクスは伯爵家の3男だ。
そして、筆頭家令のブルガン家であるギッシュも伯爵家次男である。
「同僚じゃあないっすか。それなら家令見習いだったオレっちの方が先輩ーー」
「護衛騎士。チャンクスは護衛兼侍従なの。騎士ってだけで、すっごく有能だよねっ!・・・あれ、考えたら二人も侍従いらなくない?アンナもいるし」
「ぼ、坊っちゃん、ひどいっす。護衛騎士なら侍従はできないっす。身の周りのお世話をしてる間に、坊っちゃんが襲われても護れないじゃないっすかっーーアンナさんも女性だし、そんなの中途半端で危険っす!ここはやっぱり専属のオレっちが」
僕はぴっと手を振り下ろす。イエローカードの意味だ。
「はいっ、ギッシュの口調、減点。今日はテドさんの魔法で安全だし、完璧チャンクスに侍従してもらいます。決定ね。アンナ、ギッシュを皿洗いに回して」
「坊っちゃんっ」
「口調なおしなよ、ってずっと言ってるでしょ。ギッシュのためだよ」
身内枠なのでついつい見逃しがちだが、今日はお客様が多く訪れるパーティーだ。常に付き従う侍従のポジションでは、評価も厳しくなる。減点は仕方ないよね。
ほんとは仕事が雑なギッシュに、家令や侍従は向かないと思うんだ。でもだからって切っちゃうほど、狭い貴族社会は冷酷でもないし(ちょっとおかしい使用人ぐらい、どこの家にも多少いるからね)、代々家令の家出身であるだけに、職業の選択肢が少ない状況には同情する。
それに生まれた時から接している身内枠だと、なんとか矯正しなくちゃ、と温情まみれになるのだ。
ーーそのうち、ギュッシュに向く業務を探してみようかな〜。
しょんぼりを全身で表現しながらも、ギッとチャンクスを睨みつけてから、アンナに追い出されるギッシュ。頑張れ皿洗い!
「ーーなかなかキョーレツな性格でいらっしゃる」
笑いながら、そう言うチャンクスは大人の余裕がある。ギッシュとそんなに年齢は離れてないはずなのにね。
「感情を隠すのヘタなんだ。色々面倒くさいけど、適当にかわしてあげてね」
「言い合いができる信頼関係は、羨ましいですね。私も主に信頼して頂けるように精進しようと思います」
アレアレ?ちょっと腹黒さが見える。
「イジメないであげてー」
僕は冗談口調でお願いしてみる。するとチャンクスの瞳が、ふっと細められた。ステキ、ものすごく頼りになるー。
「ーー躾けても?」
「もちろん。でもね、ああ見えて知恵が回るし、動物的な勘は鋭いんだ。アンナが手こずるぐらい頑固だし」
「歯ごたえがある方が好きですよ」
それは騎士的に?それとも侍従的に?
鍛え方が違うと思うけど、まっいっか~と、僕はお任せすることにした。
僕にはもっと重要なミッションがあるんだし。
ピョンとソファから立ち上がる。
「お祖母様達が来たら教えて」
アンナとチャンクスに頼んで、僕は窓際に寄る。
この部屋の斜め下に、到着する馬車と下りてくるお客様の姿が確認できた。
しばらく待つと、見覚えのある御者が見えた。前庭を半周して、エントランスに横付けされた馬車から降りてくるのは、水色のドレスを着た貴婦人と、続いて同じ色の正装に身を包んだ背の高い少年、そして濃い緑のドレスを着た少女ーーエルバーラだ。
「もっと似合うドレスがあるってのっ」
思わず舌打ちしてしまう。
普通なら、若い娘が水色で、年配の婦人が落ち着いた緑色のドレスを選ぶものだ。ましてエルバーラは、紫がかった深い黒色の髪に、黒い濡れた瞳だ。
そんな彼女に野暮ったい濃い緑のドレスを与えるのは、悪意があるとしか思えない。しかも家族で一人だけ色が違う。
ーー目立たなくするため、って点は同意だけど、だからってあんな服、似合わな過ぎ。埋没しすぎない?ガーデンパーティーだよ?周りは緑だらけなのにっ。
僕なら、もっと優しい藤色のドレスか、暖かな桃色のドレスを贈るーー僕のエルバーラは、誰よりも綺麗で、着飾らせたら誰にも見せたくないぐらい、素敵な女の子になるから。
「なんか、イライラするな・・・」
手が出せないことに。
三人が建物に入って見えなくなるまで、僕はじっと見下ろしていた。
いつも読んで頂きありがとうございます。
更新なんですが、書くのがあまりにも遅いので、1日おきの更新にさせてもらいます。のんびりお付き合いいただけると嬉しいです。




