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悪役令嬢は執着されてハメられる  作者: ちょしゃなげ
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開始前4〈手足〉

 パーティー前日、お祖母様達の訪問に脱力した僕は、その夜普通に就寝したはずだった。

 だが、真夜中にパチリと目が覚める。

 前にもあったこの感じーー身体の中から溢れる魔力。


『よう相棒。7歳だな』

 繋がる魔力の先にいつもの黒蜥蜴(ブラック)がいる。

 じっとしているイメージが強い針山の黒蜥蜴が、今は手足を非対称によじって僕の方へやってくる。

 僕はブラックを掴んで肩に乗せた。


「ーー話せるんだ、相棒?」

『おめぇが聞こえなかっただけじゃねぇか。〈神の祝福〉で、ようやく魔力に耐え得る身体ができたってことだろ。俺との繋がりも太くなった』


「〈7歳の祝い〉がこんなに重要だと思わなかった。あはは、魔力が体中をかけ巡ってるや。気持ちいいよね」

『おい、酔っ払うなよ。結界壊したら、あのおっかねぇ父親が駆けつけるぜ。金の鎖は懲りごりだからな』


「テドさん?大丈夫、魔力は溢れているけど、持て余す感じはないよ・・・ああ、でも気持ちいい・・」

 僕はわざと笑い声を立てて、くるりと回る。

 驚くほど身体が軽かった。


 部屋にこもって居たくなくて、ベランダに躍るように出る。

 冷たい空気と星がきらめく空、ベランダに差す月影の闇、全てが心地良い。


『おいっ、調子にのるなって』

「はぁ~気分が最高にいい・・・」

 胸いっぱい、美しき世界の空気を吸い込むーーって、おかしい。なんだか恥ずかしいくらい〈俺〉『クセこと』思ってる。

 ブラックの言うとおり、少し酔っているのかも。


「ははは。コレなら明日の魔法も小細工いらなかったかなぁ」

『ああ、嬢ちゃんからネックレスをくすねる魔法か』

「くすねるって、もっとスマートな言い方をしてくれないかなぁ。だいたい、エルバーラからアレを外させた方がいいって、教えてくれたのはブラックだろ」


「俺は知らねぇよ。俺はおめぇの一部だぜ。おめぇが分かること以上に分かることはねぇよ」

「え・・・僕、ブラックが予知とかで導いてくれるのかと思ってた」

『導けるかってんだ!』


「えぇ~だってあのネックレスが良くないものだって、絵で教えてくれたし、遠見の魔法でエルバーラに会わせてくれたじゃん」

『全部、おめぇの能力だ。おめぇが気づいてないことを俺が気付いただけで、おめぇが会いたいから俺の姿を使って会いにいっただけだ』


「そう聞くと、僕とんでもストーカーだ・・・」

『今更だぜ、この俺さまはーーおめぇの〈独占欲〉は、でっかいドラゴン並みだ』

「ははは。。。」

 僕、エルバーラ食べちゃいそう。ドラゴンならひと飲みできて、エルバーラも痛くないよねぇ。

 お腹の中にエルバーラをおさめた瞬間を想像するだけで、うっとりする。同時にそれがヤバイことだとも自覚する。


 ちょっと頭が冷えて、僕はベランダのガーディニングチェアに腰掛けた。

 その時、コンコンとガラスを叩く音が聞こえた。

「アンナ?」

 侍女の服装のままのアンナが、ガラスの扉を開けて、ベランダに出てきた。


「アンナ、寝ないの?」

「坊ちゃま、お身体を冷やすのは良くございません。室内に暖まる飲み物をお持ちいたしました」

「もう夜中だから、悪いよ。アンナも寝て」

「いえいえ。モーグ家のお子様方は皆様、魔力の多さから、今日この日は夜ふかしされることが当たり前でございます」


「テドさんも?」

「侍女長からそう聞いております。それにお許しいただけるなら、本日お目通りをして頂きたい者も、待機させております」

「ああーー僕の手足になってくれる人?」

 学園に通うようになる7歳に、自由に使ってもいい従僕と護衛と影をつけてくれるとテドさんから聞いていた。


「そういえば、前倒しでお願いしたことは?」

 その話は室内で、と言われて僕は素直に部屋に戻る。

 ソファに座ると見知らぬ男性が、湯気の立つミルクをカップに注いでくれた。


「ありがとう」

 お礼を言って、ためらいもなくカップに口をつける。


「お飲みいただけて光栄です」

「毒は盛らないでね」

 半分本気半分冗談でそう言うと、見知らぬ男性は膝をつき、右手を胸に、頭を下げた。


「『蓮の天輪をお祝い申し上げます』」

 7歳の定形型のお祝いに、笑顔を返す。

 泥沼から立ち上がって咲く蓮のごとく、って病気せず無事7歳を生きられておめでとうって意味だ。


「うん、ありがとう。僕はモーグ侯爵家嫡男、ギーヴィストだよ。こっちは相棒のブラック。君は?」

「ラシュット伯爵家3男、チャンクス=ラシュットと申します。この身この心、全てを捧げて忠誠を誓います」

 ラシュット伯爵家はモーグ家と遠い縁戚関係に当たる、傘下の家門だ。確か騎士の家系だったはず。


「もう働いてもらって、ごめんね」

「なんでもお申し付け下さい」

「でも、チャンクスは侍従?」

「侍従はギッシュでございます」

 アンナが残念な事実を告げる。僕は盛大に顔をしかめた。


「うっそーーギッシュは家令見習いでしょ」

「失格になりました。奥様が坊ちゃんに引き取りーーコホン、鍛えて頂きたいとのことでございます」

「えぇ・・・ギッシュは、なにやっちゃったの!?」

「奥様のお客様に荷物を持たせました」

「うわぁ~使えない!しかも今アイツ寝てるんだよねっ。僕の手足にならないよねっ」

 使える駒が1つ減って、僕は口を尖らせる。


「坊ちゃまなら、いつかお使いになれます」

 いや、無理でしょと心の中で呟く。

 長い付き合いだけに、どこか諦めのようなものを感じて、深くため息をついた。


「んじゃ、チャンクスは護衛してくれるの?」

 本人に聞くのではなく、アンナに言う。

「万能型ですので、ギッシュがいなくても不便は感じませんでしょう」


 あっさりとギッシュに戦力外宣言するアンナは、明日から僕専属の侍女になる。できる男っぽいチャンクスは、護衛騎士の仕事だけでなく、侍従の仕事も完璧にこなしそうだ。僕に向かっていい笑顔で頷いた。


ーーギッシュがお払い箱になるの、時間かからなそう。


「ギッシュの給料下げて、チャンクスの給料上げてもらってね。無理だけはダメだよ」

「はい」

 嬉しそうに答えるチャンクスは愛嬌のある大型犬のようだ。

「それで、影は?」

 お願いした報告を聞きたくて、アンナに言う。


「スクナ」

 呼ばれると、アンナの背後に髪の短い女性が現れた。俯いているので、ジロジロ見づらい。


「報告はこれに」

 アンナがスクナから数枚の報告書を受け取り、僕に渡してくれた。

 そこに書かれていたのは二人の令嬢の情報だった。


「ヨハン子爵家次女イリーナ嬢とトリット伯爵家長女ブリジット嬢ね。ーーエルバーラとは、学園で仲良くなれそうな性格だね。でも、それだけに懐柔されたりしない?」

 僕は僕のエルバーラに、知らない人間を近づけたくない。

 ただでさえ、第二王子が近づいて来るのだ。彼以外(彼もいらないけど)、同性の友達なんかエルバーラにいるかな?いらないよね。


「仲良くなり過ぎないように、コントロールできる?」

「お任せください。それぞれ、甘さのある令嬢です。ヨハン子爵家トリット伯爵家共に、弱みが多数ございますので」

「脅し一辺で動かさないでね。噂も諸刃の剣だから。ーー僕、失敗したくないんだ。あくまでも知らないうちに、エルバーラの友達になって、自然に友達じゃなくなって貰わないと、孤立させられないよ」

「御意」

「まぁ、明日パーティーで本人たちを確認してみるけどね」

 そう言うと、僕は報告書の内容をざっと頭に入れた。


 ようやくーーようやく動けるようになる。


 明日会う君はーーどんなに愛おしいんだろう、エルバーラ。


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