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悪役令嬢は執着されてハメられる  作者: ちょしゃなげ
第2章
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少女の事情4〈契約のペンダント〉

 圧倒的な力ーーそれはどこか滑稽で、皮肉が効いている。

 

 簡単に四肢を踊らせ、血まみれになっていくバフコさんとスーシャさん。


 わたしは何もできなかったーー何も思いつかなかった。逃げることも、助けるために飛びかかることも、できなかった。


 日本人の女で、今は貴族の幼女でしかない〈私〉は、その様子をAIのフェイク映像のように感じる。


 起こったことが早すぎてーーありえなすぎて、現実感を失っていた。

 

 あっという間に倒れ伏す二人を、見ているだけ。


 〈私〉は呆然とそこに立っていた。


「どこぞえ、、、妾の『困っちゃん』」

「〈我が君〉、お待ちくださいーー」

 白髪の女性が虚空を睨んで無邪気に首を傾げると、黒髪の男が倒れたままのビーツくんの方へ、ゆっくり向かう。出で立ちは黒服の護衛騎士のよう。


 そして剣を抜き放つと、おもむろにビーツくんの腹に振り下ろし、無慈悲に引き抜いた。


「がっ、はぁっーーっ!」

 大きく呼吸音を荒げて、目を開くビーツくん。


〈私〉は、勝手に震えだす手足を自覚した。

 声が喉に詰まり出てこない。


 目の前の空間に、突然ドサドサと音を立てて落ちる荷物は、見覚えのあるものばかりだーー昨夜バフコさんに貸してもらった外套や、水を飲ませてもらった木の筒、飯ごうのような容器に縛った干し肉やーー〈私〉が摘んで渡したリース草だ。


 ビーツくんの『収納』に入れてもらったはず、のモノ。

 

 そしてその中から探し出されたのは、わたしを襲い、バフコさんが討伐した魔獣だった。


「死んでおります」

 淡々とした報告にゾッとした。


「少し甘い『ツクリ』であったかのぉ」

「どういたしましょう」

「ナイナイ。動かないモノに〈我が君〉は興味ナーイ」

 妖精のような女性が、甲高い声で言う。白髪の女性は首を傾げたままだ。


「ふむ」

 黒髪の男が、魔獣の死骸をふと一瞥(いちべつ)した。途端、その身体が飛び散り、塵のように光って消えた。


 そして次に、その視線がビーツくんやバフコさん、スーシャさんに向かう。


「や、めてぇーーーーーーーーーーーっ」

 叫べたのは奇跡だった。

 この世界を知らないこの時の〈私〉だったからできたこと。


 優しいバフコさんたちに死んで欲しくないと、それだけを強く思ったから。


 助けなきゃという正義感で叫んだ〈私〉の行動は、後から考えたら、強者を頂点としたこの異世界ではありえないことだった。


「随分と面白き存在じゃ」

「え・・・」

 また周囲の景色が変わる。


 腰を抜かして座り込んだわたしの、すぐ目の前にいくつもの段差が続きーーその中央に敷かれた赤いカーペットの先には、玉座のような、金の椅子に座る白髪の女性と、側に立つ黒髪の騎士のような男が立っている。そして階段の途中に、妖精のような女性が、笑いながら見下ろして飛んでいた。


「『神の戯れ』を始末する・・・わけにはゆくまい」

 わたしは急いで周りを見回す。

「みんなはっ!?」

 ポツンと浮かぶ玉座とレッカーペットが敷かれた階段以外、パソコン画面の中のような、真っ白い空間が無限に広がっている。


「こやつらかえ?」

 白髪の女性が手を前に差し出すと、薄墨色の球体が3つ浮かび上がった。


「バフコさんっ、スーシャさんっ、ビーツくんっ!!」

 胎児のように丸まる3人が、球体の中に閉じ込められていた。

 生きているのかどうかは、下からは分からない。立ち上がろうとして、だが後ろにひっくり返る。


 甲高い笑い声が響いた。虹色の透けた羽根をキラキラさせて、飛んできた妖精のような女性が、わたしの周りをクルクル回る。


「アハハハハ。まだイきてるよぉ。ナニを差し出すの?」

「え・・・」

「コイツラは〈我が君〉の大事な愛玩魔獣(ペット)をコワシタ。オワビに命以外のナニを差しダスのぉ?」

 ニコニコ尋ねられて、背中に汗がわいた。


「ち、ちがうのっ。みんなはエルをたすけてくれただけなのっ」

「シぃ〜ラナイ〜ぃ」

「悪くないの!死んで欲しくないのっ、襲われたから倒しただけなのっ」

「シラナイぃ〜差し出すのっ、イノチ差し出すのっ!アハハハハ」

「やだっ、だめっ」

 混乱するわたしにわざと聞かせるよう、笑い声が周りを駆ける。


「サシュ、お止め」

「ハイッ、《我が君》」

 ピタリと笑い声が止まる。

「ーー良かろう。『神の戯れ』が終わるまで待ってやろうぞえ」


「〈我が君〉・・・」

「仕方なかろう。郎師(ろうし)も良かったではないのかえ?今回は『勇者』ではないのじゃ」

 上の方でされる話に、わたしは耳をそばだてる。顔を精一杯上げて、様子を伺おうとするが、内容が端的すぎて理解できない。


「『神の戯れ』ってなに・・・」

 小さな呟きに答えるように、いきなり目の前に画面が現れた。



名前/エルバーラ=ラズロ= /あんず


所属/人族転生科(元日本人、転生者)

年齢/3歳(34歳)


HP:78(64)

MP:4000(25)制限中


スキル:土、緑、光魔法(制限中)

特殊スキル:異世界知識


役目:『悪役令嬢』

運命の(わだち)

  乙女ゲーム

  『真実の愛なんて信じません。

      成り上がりの私がすべて決めます』

  通称:『ワタ決め』




ーーどう見てもステータスボードだ。ゲームなんかで見るアノ・・・。


「其方は『悪役令嬢』じゃ。神が望む役割を果たしたその後に、其方とこやつらの命をもらおうぞ」

「『悪役令嬢』!?『乙女ゲーム』!?なんてテンプレ・・・って、どうしてっ!」

「どうしてじゃと?」

「あなたのペットを死なせちゃったのは悪かったと思う。でも襲われたんだから、正当防衛よっ!ゲームがどうこう関係ない。なんで、ゲームの役割を果たした後に、命を取るってはなしになるのよぉっ!!」

 だんだん腹が立ってきて、〈私〉は全力で叫ぶ。


 役割って何よっ、『乙女ゲーム』の『悪役令嬢』ってフザケてる!神様が何よ、なんであんな狼を倒しただけで、みんなや私が命を差し出さなきゃいけないのよっ。


「私たちは悪くないわっ」

 恐れが怒りを瞬間的に超えた。


 怖いもの知らずの弱者は、本来なら絶対的な強者に簡単に摘み取られるだけ。それだけで終わった話だった。だけど。


「ナニを言ってル?〈我が君〉の命令はゼッタイ」

「そもそも〈我が君〉って誰よーーっ」

 その途端、髪を引っ張られ、激しく下に叩きつけられる。


 痛みが顔面を襲い、後頭部を押さえつけられた。

 かすんだ視線を動かせば、男の靴が〈私〉の頭を踏みつけていた。


「郎師、もう良い。突き抜けた無知は面白くもある。ソレは異世界の生きものじゃ」

「はっ。ーー尊き〈君〉に礼を尽くせ」

「・・・」

 向けられた声が、忘れかけた恐怖を呼び起こす。

 踏みつけられた圧が、消え、わたしは呼吸いきをつく。全身が細かく震えた。


「〈私〉のせいでっーーみんな、わたしを助けてくれただけなのに・・・」

 涙の代わりに、思いがこぼれた。


ーーそれが超越者の何を動かしたのだろうか。


「良かろう・・・『神の戯れ』に関わるのも一興じゃ。弱すぎるそなたに〈救い〉を授けようぞ」

「ーー」

「オモシロっ!じゃあ妖精のワタシから妖精族の〈祝福〉と〈呪い〉を」

「魔王たる私から〈闇〉をーー」


 その言葉とともに、エルバーラの首にペンダントがぶら下がった。まるで自由を奪う手錠のように。


 黒い魔力をまとう、妖魔との契約のペンダントだった。


言い方をキャラごとで統一修正してます。

細かいですが物語の重要アイテムだったので。


ギーヴから見た場合、ネックレス

エルバーラから見た場合、ペンダント


ギーヴくんは男の子なのでざっくり分類ですが、同じアイテムのことです。

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