少女の事情3〈妖魔の王〉
「バフコしゃん、これは?」
わたしは見つけた草をしゃがんでつかむ。
「ハズレだな」
「葉の裏に小さなトゲトゲがあるから、雑草だね」
横からビーツくんが葉っぱを裏返して見せてくれる。
「んじゃあ、コレっーーどぉ?」
「正解、リース草だ」
当たりを見つけて、わたしは薬草を摘んで、ビーツくんに渡す。
するとバフコさんとビーツくんに頭を撫でられた。うふふと笑う〈私〉は3歳。
口調が年齢不詳のエルフみたいだと言われて、リハビリのため(?)に幼女言葉で話させてもらう。
「準備できたにゃ」
スーシャさんが荷物をひとまとめにした肩かけ袋を、ビーツくんに収納してもらっている。ビーツくんの『収納』はさすがにレアスキルらしい。うらやましい。
リュックじゃないんだね、盗まれるから?って聞いたら、いざという時に投げやすいからだって。重要なものは身に付けていて、袋には入れないんだね。
バフコさんが火の始末をしてる間に、斥候のスーシャさんが『探知』をしてくれる。魔獣を避けて、最短で街に戻ってくれるらしい。
アコガレの『探知』は冒険者なら自然にできるようになるスキルらしくって、でも駆け出しのビーツくんよりスーシャさんの方が広範囲にできるんだって。すごいよねぇ。
「じゃあ、行くか」
「・・・いただきます」
「?」
「いえいえ、お気になさらず」
出発にあたり、足の短いわたしは、バフコさんに片腕抱っこされて移動することになっとります。
腐れアラサーにとっては、上腕二頭筋はご褒美でございます。ありがたや〜がっしょう。
できるだけ朝早く出発するのかと思えば、ちゃんと光が差して明るくなってからの移動だ。魔獣や野生動物は夜明け前が一番活発になるからだそう。
魔獣避けというものを焚き火でたいているので、わざわざ危険に遭遇しやすい、暗い時間に移動することはしないらしい。
確かに、夜明け前によく野良猫同士の喧嘩の声で起こされたっけ、前世でだけど。
前世日本との小さな共通点を見つけつつ、冒険者の常識的なことを聞きながら、林の中を行く。
「ポーションをつくるのに、さっきのリースそうは、どれくらいいりゅ?」
幼女に偽装し始めると、あら不思議、口の滑舌が悪くなる。コレが肉体年齢に引っ張られるというものなのね。
口をパクパクさせて頬の筋肉を緩める。
「んー大袋3つくらいだっけ」
ビーツくんが答える。
「作るのはもっと量が必要だろ。買い取りは大袋からで銅貨15枚だ」
「へぇ~ろうがいりゅのね」
銅貨5枚でパンが1個らしい。大袋でだいたい300円から1500円の稼ぎというところか。
この国の貨幣は、銅貨の上が鉄貨、銀貨、白銀貨、金貨、白金貨になるらしい。銅貨の下に、木札や葉札というのが国によってはあるらしいが、この国にはなく、庶民が取り扱うのは銅貨から銀貨が主流らしい。
「スーシャはどうして、まよわないにょ?」
先導する三毛猫獣人の尻尾が、ピンと立ったままなのが面白い。
「光の差し方だね」
この世界の光は恒星からの光ではなく、東の果てから神様が光を掲げてくれているから明るくなるのだという。でも、夜になると、月と星が見えるんだよ。不思議だよねぇ。
「目印になる木を覚えておくのも手だ」
「きをおぼえられりゅ?みんなおなじだよ」
「そうか?」
バフコさんは違うらしい。
「木の種類が分かれば簡単になるって」
「しゅるい?」
そう、と言ってビーツくんがすぐ横の木の種類と細さ、色、見た目の特徴を言っていく。
なるほど、そう言われれば各々違っている。
「ミーツ樹木の固まりの次にはアカギレ木が生えていることが多いんだ」
「へぇ~」
「アカギレ木の下には、この赤いキノコが生えているしね」
さすが冒険者。その知識はなかなか奥が深い。
「スーシャ、どうした?」
その時、先行していたスーシャさんがこちらに戻ってくる。
「大変にゃ!道が閉じているにゃ!」
「とじるぅ?」
「閉じ込められてるのか?」
「50フィル円から先が、魔法で遮られているにゃ」
「ーーまずいな・・・」
みんなの様子が一気に緊張する。
バフコさんが、やにわにわたしを地面に下ろす。
その時だった。衝撃音と共に、横にいたビーツくんが吹っ飛び木に叩きつけられた。
バフコさんがすぐに抜刀し、スーシャさんがわたしを抱えて後方に飛んだ。
「ーーお主らが原因かえ?」
ゾワゾワする声とともに、周囲の景色が一変する。
辺り一面、真っ白な異空間。
真っ白な長髪の女性とその背後に黒髪短髪の男、そして透けた虹色の羽根を持つ妖精の女の子が脇にーー居た。
「ーー妖魔っ!」
「・・・にゃっ!」
呻くような、バフコさんとスーシャさんの息がつまる。
「妾の愛玩獣を返してもらうぞえ」
とてつもない恐怖が、襲いかかってきたーー。




