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悪役令嬢は執着されてハメられる  作者: ちょしゃなげ
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少女の事情〈前世発現〉

◆◆◆◆


 エルバーラの母親は可哀想な女性だった。

 当時仲の良い婚約者がいたのに、父親男爵の強欲のために、フランチャスカ侯爵へ見合わされ、襲われた末にエルバーラを身ごもった。


 そのせいで婚約は破棄になり、しかも精神的に幼かった彼女はエルバーラを産んだことで、心も身体も壊した。


 当時、第二王子の生誕は公にはされていなかったが、上級貴族の間では知れ渡っていた。それを知った祖父男爵は孫を利用し、壊れた令嬢でも侯爵の妾ぐらいになれるのではないかと画策して、エルバーラと母親を交通が不便な田舎の別荘に軟禁していた。


 その田舎で育ったエルバーラは、世話をしてくれる優しい乳母と穏やかな庭師、そして年老いた元家令夫妻に愛されて、日々をゆったりと過ごしていた。


 だが、年齢が3歳になったおりに、とうとうエルバーラひとりだけ、フランチャスカ侯爵家へ養女に入ることが決まったのだ。


 みんなと離れることを知ったエルバーラは、どこにも行きたくないと激しく拒否した。幼いながらも、病んだ母親や強欲な祖父の関係に不穏なものを感じていたのだ。


「エルはねっ、みんなとはなれないのよっ」

 エルバーラは自己主張が強く、同年代と比べても頭がよく、無駄に行動力があった。お気に入りの人形とパンを片手に家出を決行した。


「エルはどこにもいかないのよ。こっそりかくれるの」

 別荘の敷地とつながる近くの山林に入り込み、小川にそって、奥まで迷い込む。途中お腹が空いてパンをかじり、抱きしめた人形を落として探し回る。だがその山林は、国境近くの大規模なダンジョンにつながる、魔獣が出現する危険な森に続いていた。

 エルバーラは思った以上に、別荘から遠く離れていたのだ。


 夕暮れの薄闇と山林の木の葉は、3歳のエルバーラの不安を大きくさせる。

 泣きながら、帰る方向を見失い、乳母たちの名前を叫びながら、歩き回った。そして、狼型の魔獣に襲われたのである。


ーーその時だった。エルバーラが前世の記憶を思い出したのは。



◆◆



「なんでこんな時にっ、思い出すのよっ!手小さっ、足短すぎっ」

 狼の口から逃げるために必死だ。

 噛みつかれそうになるところを間一髪、奇跡的にかわす。走って逃げようとしても、すぐに距離を詰められてしまう。

 逃げ場所を探してじりじり後退するが、すぐに大木の感触を背に感じる。


ーー登る!?登れる、覚醒したばかりのわたし!


 でも背中を向けた途端、飛びかかってきそうだ。

 ラッキーなのかわからないけど、相手は1匹。隙さえあれば、後ろの木に飛び登るのにーーって、狼は登ってこないよね!?

 怖くて狼から目を離せないよ。


 わたしの頭なんてひと飲みできそうな大きな口、筍かよってぐらい鋭い牙、タン塩にしたら何人前になるの!?ってぐらい大きくてぶっとい舌。飛び散るばっちいツバと太い手足と爪。


 って、赤ずきんちゃん物語の狼の記述と一緒!?

 化けてないけど、やっぱり日本にはありえないサイズよっ。


 待ってまってわたし。サイズにビビってる場合じゃないのよ。落ち着いて、走馬灯の中から生き残り策を見つけ出すの!


 エルバーラちゃん、何かない!?

ーー魔法とか魔法とか魔法とか!


 ああっ、まだ3歳!?くぅぅぅ、平和な記憶しかないわっ!

 そうよねっ、困ったから前世の記憶(わたし)を呼び出したはずっ。異世界転生のお約束じゃない。でもね、こういうの、日本人には向かないと思うの。だって、衝撃映像とかで外国の人は危機一髪で避けたり頑丈だったりするけど、日本人はすぐに死んじゃいそうじゃん。

 

 って、こらこら尻尾フリフリ左右ふらふら、いたぶってるの?狼さん。マジやめてっ!

 だけどすぐにガオって飛びかかってきた、でっかい狼に心臓が停止寸前。

「いたいのやだやだやだっ」

 反射的に頭を抱えてうずくまった。

 大声で叫んで叫んで、向こうにいけと願って、背後の木に痛いほど背中を押しつける。


 と。


 ズサっ!


 刃物の鋭い音がしたと思ったら、狼のギャンって声が響いた。大きな音を立てて倒れる狼。

 その向こうに刃物を持った男の人が現れていた。


ーー死んだ狼コワイ血コワイ刃物コワイ。。。


「大丈夫か?」

 助かったらしいというのは分かったけど、身体が緊張していてガチゴチだ。男の人は刃物?剣?を鞘に戻して見えなくしてくれたけど、だからって安心できない。


「なんでこんなところに子供が?」

 そこに中学生の年頃の男の子が走ってくる。

「バフコ!殺したの?」

「ああ。収納しといてくれ」

「了解ーー小さいね」

「群れからはぐれた、迷い子だろう」

「臨時収入だと思ったのに、残念だなぁ」

 中学生が手をかざすと、横たわった血まみれ狼が跡形もなく、消えた。


ーーしゅうのう・・・『収納』!?


 まさか、あの、ラノベおなじみのお宝スキル!?

 恐怖から一転キラキラしたお目々で見つめる幼児に、バフコさん?と中学生がドン引き。


「えーっと、どこの子?」

「さぁな、餌になりかけてた。特に怪我はなさそうだが」

「なんでこの子、こんなに嬉しそうにオレ見てるの?」

「・・・ひとめぼれ?」

「まさかぁ!」

「嬢ちゃん、ひとりか?親は?」

 首をふるわたし。

「『探知』を使ったけど、近くに人の姿はないね。こんな時刻に移動する方が無謀だよ」


ーー『探知』!?まさか、あのラノベおなじみの!!(2回目)


 うわぁドキドキしてきた。異世界ってこうじゃなくっちゃ!

 楽しすぎる。

 魔法でしょ?『収納』でしょ?『探知』でしょ?

 そんで。


「ぼうけんしゃ・・・」

 必須のスキル。

 ごっくんとツバを飲み込んだ私に、男の人ーーバフコさんが手袋に覆われた手を差し伸べてくれる。


「ああ、冒険者だ」

 安心させるように、不器用に笑ってくれたのである。


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