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悪役令嬢は執着されてハメられる  作者: ちょしゃなげ
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愛猫2

ちょっと残酷な表現があります。ご注意下さい。

 

 いつもの鉄箱の前までやってくると、ジェムニールが特等席を作ってエルバーラを座らせる。護衛の一人を見張りにつけた。


「ギーヴお願いっ、お願いだからマールを助けてっ」

 服の裾を掴まれて、必死にお願いされるのは悪くない。できれば堂々と助けて笑顔で感謝されたいんだけど、それは上策じゃないんだ、エルバーラ。

「ごめんよ」

「うっ・・・なんでよぉ、にがしてくれるだけでいいのっ!魔獣のえ、えさなんてひどすぎるっ」


 いつも大人びた様子でいるエルバーラが、年相応に表情を崩して泣き出す姿がものすごく愛らしくて、力いっぱい抱きしめたくなる。嗚咽をもらす彼女の小さな肩が揺れ、真っ赤になった頬に綺麗な涙が幾筋も流れると、修行の足りない僕は堪らなくなる。

 我慢できなくなった僕は習得したばかりの隠蔽魔法を周囲に放った。それは6秒間しか保たないモーグ家特製魔法だ。

 その上で僕はエルバーラの頬に触れて、綺麗なまなじりを舐めあげた。


「・・・っ」

 エルバーラがびっくりして固まる隙に、もう片方の眦もペロリと舐める。

「エヴァの涙は甘いよねぇ」

 自分の唇を舐めながら味わうようにうっとりと囁くと、エルバーラは眉を寄せて唇を震わせる。

 耳も目も涙も、王子より先に味わうのは僕。

 その上でこの怒りも僕だけ(・・)に向けられるならすごく、最高に幸せだ。


「ひど・・わっ」

「ギーヴ、早く来いよ!始めるぜ〜」

 エルバーラが怒ってくれる前にジェムニールに呼ばれてしまった。残念、時間切れだ。

 僕はそっとエルバーラの手に触れてから、ジェムニールの元へ行く。


 ジェムニールはエルバーラに見えるよう鉄箱の鉄板を片側だけ外し、全体は魔導具で遮断していた。僕が鉄箱の中に入ると、ジェムニールが気絶していた猫を起こして放り投げた。

 一回転した猫は魔獣の臭いとうめき声に怯え、逃げ場を探して鉄箱の中を逃げ惑う。


魔毒大鼠マジックポイズンヌートリアのことは知ってんだろなぁ?」

 剣を抜いたジェムニールに聞かれて、僕も剣を抜く。

「全身の毒毛と前歯の毒刃に注意だよね?」

「急所は?」

「左右の心臓」

「よっしー。行くぜ、相棒」

 テンションをあげる脳筋とは反対に、僕は冷静に心の中で魔術の逆算を始める。

 短剣に展開する魔法陣の1つに流れる魔力を遮断。次に認識誤認のモーグ家特性魔法を無詠唱で起動する。

 その間に、フランチャスカ侯爵家の護衛騎士が魔獣の檻を開けた。


 飛び出す魔毒大鼠マジックポイズンヌートリアが一直線に、走り回る猫を追いかける。その後を僕とジェムニールが左右から追いかけた。

 魔毒大鼠マジックポイズンヌートリアの動きは速く、獲物を追いかけながらも、近づく僕達を認識しているようだ。不意打ちで毒の毛が飛んでくるので、その度に避けたり、剣で払い落としたりする。

 そうする間も魔毒大鼠マジックポイズンヌートリアはあっさり猫を追い詰めた。前歯をむき出しにして猫に飛びかかる。


「マールっ!」

 エルバーラの悲鳴が僕の力になる。


 3つ目の魔法を無詠唱で発動し、魔毒大鼠マジックポイズンヌートリアが猫に喰い付く瞬間を狙って、猫だけを魔法陣にのせて転移させる。代わりに認識誤認の魔法が効力を強め、捕食のために動きを止めた魔毒大鼠マジックポイズンヌートリアの右腹に剣を突き立てるジェムニールにあわせて、僕も左腹に硬化の魔法を付加した短剣を刺し込んだ。


 それでも即死しない魔獣にジェムニールが回り込んで首を刎ねる。首無しになった魔毒大鼠マジックポイズンヌートリアは全身の毒毛を四方八方に放って息絶えた。その毒毛をすべて撃ち落として、ようやく僕達は足を止めた。

「へへへっ、やったな。今度は野外に出ようぜっ」

「はぁ、そうだ、ね・・・」

 無邪気に喜ぶジェムニールと違って、剣と魔法三連発を同時に行った僕は息も絶え絶えだ。脱力感が半端ない。のろのろと魔獣の血を払ってから、護衛騎士に解毒の魔法をかけてもらう。


「マールっ、マールっ」

 鉄箱の外に出ようとしたら、エルバーラが泣きながら飛び込んできたので、どさくさ紛れにその身体を抱きとめる。少しだけ罪悪感がわいた。

「もう食べられちゃったんだよ、エヴァ。すぐに浄化するからお腹を割いて確かめさせてもあげられない。ごめんね」

 本当は黒蜥蜴ブラックの側に転移させたんだけど、それは秘密だ。エルバーラの膝を占領したんだから、それくらいのイジワルは許されるよね?

「っ・・・それがあなたの狙いなの?」

「え?」

「ーーもういいわっ」

「エヴァ?」

 険しい表情が普通の怒りとは違う。僕は慌ててエルバーラの腕を掴んだ。嫌わられるのは分かっていたけど、でも嫌われたままではいたくない。

 どう言えばいいのか悩んでいると、慌てた様子の侍女がエルバーラを呼びに来た。


「第二王子様がーーお出ででございますっ!」

 それはーー僕にとって一番嫌な、目障りくん(ライバル)の登場だった。


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