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悪役令嬢は執着されてハメられる  作者: ちょしゃなげ
12/19

侯爵と侯爵4

更新があいてしまって、すみません。。。

覗いてくださった方ありがとうございます!


それと年末年始は31日と4日の更新になると思います。

 

 開いたドアの向こうから女性の叫び声がまた聞こえてきた。

 何かに意識を囚われていた僕は一瞬、その悲鳴で正気に戻る。

 だが、その後さらに聞こえてきた複数の声の1つに、再び僕の意識は囚われる。

 僕は開いていたドアを開け放ち、廊下に走り出た。


 ーーどこだ!?


「ギーヴィスト様っ」

 お茶のワゴンを引いてきた侍女がドアを開けようとして、飛び出てきた僕に驚く。

 その時再び聞こえてきた揉め事の気配に、侍女は憂いを含んだ困惑顔になった。

「あっ、のっ、これはっ!」

 だが侍女のことは目に入っても、意識には届かない。僕の意識を捉えたたった1つの声。


「お父さまっ!ニーナをおゆるしくださいっ、どうかっお父さまっーーきゃっ!」

「黙れっ!」

 廊下の突き当りを右に曲がると、壁まで飛ばされた黒髪が目に入った。

「うっ」


 ーーエルバーラっ!?


 泣きそうになりながら顔をしかめ、それでも立ち上がるエルバーラは、とんでもなく綺麗だった。

 強く輝く瞳が、ドアの陰から廊下に出てきた大柄な男を必死に見上げている。その男は侍女の髪を掴んで引きずり、止めようとしてエルバーラが侍女の腕にすがる。


 そんな揉め事の中にあってさえ、僕の視線を独占するのはエルバーラひとりだ。


 ーーようやく会えた。


 ーーねぇ、僕を見てよ。この間のように、僕だけを見て、僕だけに声を聞かせてよ。


 ーー僕は君に会うために、ここに来たんだよ?


 僕の中の気持ちだけがいっきに溢れる。

 僕を見てほしくて僕にその声を聞かせてほしくて、君に触れたくて仕方ないのに。

 エルバーラは太った醜い男だけを見て、男に懇願し、侍女の腕を必死に掴んでいる。


 ーーねぇ、僕に気づいて。僕を見て、エルバーラ!


 さらさら振り乱れる黒髪、泣きそうな瞳、叫びに似た声。全部が欲しくてほしくてたまらない。


『ぜんぶ、消滅させちゃえば?』

『えっ』

 脳裏に突然、トゲトゲした黒蜥蜴ブラックの姿が浮かびあがる。今日は〈あの部屋〉に置いてきたはずなのにーー。


『あの太った豚も邪魔な侍女も、いっそのことジェムニールも侯爵家もっ、ぜーんぶ消しちまえば、エルバーラはお前だけを見るさ』

『・・・』

『簡単に消せるぜ、今のお前なら。全部消してエルバーラを独占しちゃえよ』

『・・・』

『てにいれろよ、エルバーラを』

 黒蜥蜴の言葉が僕を促す。


 爬虫類特有の細いこうさいがぬるりと黒光る。僕は何も考えられなかった。無意識に両手を前に突き出すと、手のひらに熱が集まった。


 エルバーラ以外の消滅をっーーージャラッ。


 魔力を放出しようとしたその寸前に、カチリと音がして魔力が突然遮断された。どっと身体が重くなる。乗り物に酔った時のように眼球が揺れる。脳裏の黒蜥蜴に、父親の鎖が巻き付いていた。めまいを振り払うように頭を振れば、ようやく脳裏の黒蜥蜴が消え、いっきに現実感が戻ってくる。エルバーラ以外の音や映像がやっと意味を持って認識できた。


「お父さまっ、やめてっ!」

 エルバーラの幼い声が僕の胸を打つ。幼い彼女の腹を平気で蹴る男を許せないと思った。だが同時に気づいた。その光景は幻で見ていたものと同じだ。


 エルバーラの父親、フランチャスカ侯爵はこれから何度もエルバーラに暴力を加える。分からないよう見えない場所に執拗に、だ。

 この醜い大人を排除することは子供の僕には難しい。だからこそ、脳裏に響く黒蜥蜴の声がいつまでも残る。

 いっそのこと、ぜんぶ消して手に入れたい。でも、それじゃあ彼女を死から遠ざけられないから。

 ようやく冷静になった頭を動かして僕は拳を握る。

 揉めているその場に近づくと、遠巻きに様子をうかがっていた執事が慌てて遮ろうとしたが、僕はひと睨みで通り過ぎた。


「大丈夫かい?」

 僕はお腹をおさえる彼女の前に割り込み、手を差し出す。

「え?」

 驚いたエルバーラが僕を見上げる。それだけで全身がしびれた。


 僕はとびっきりの笑顔を浮かべて彼女の手を引いて立たせる。その際に回復魔法を彼女の全身にそっとゆき渡らせた。

「久しぶりだね」

「あなた、どうしてここにっーー」

「何だお前はっ!」

 割り込んできた僕に、侯爵は怒り狂った醜悪な顔を隠さない。僕は背すじを伸ばした。


「はじめして閣下。僕はモーグ侯爵家が嫡男、ギーヴィスト=フィン=モーグです」

「フィン=モーグ!?・・・『完璧なるモーグ一族』か」

 面白いぐらいに侯爵の顔色が変わる。うろたえたように、掴んでいた侍女の腕と髪を離した。


「はい、モーグ公爵家の直孫じきそんでもあります。閣下はおじい様や父上様と同じ円卓会議のメンバーであると聞いております。機会があればぜひご挨拶をと思っておりましたが、今日はご子息ジェムニール様からのお招きであったため、ご挨拶が遅れてしまいました。申し訳ありません」

「い、や、よい。ジェムニールが招いたのか・・・」

 僕は畳み掛けるように淀みなく話す。


「はい。先日、侯爵夫人と我が家の茶会においでいただき、それ以来仲良くしていただいております。

 恥ずかしながら、僕は同世代との交友が下手で、父上様も母上様も大変心配してくださっていたので、交友関係が広く剣の腕前も素晴らしいご子息様とこのように仲良くして頂き、大変喜んでおります」

「ーーあの中立権化の鉄面皮が、我が家との付き合いを認めているのか。珍しい」

「父上様と僕は違いますから」

 探るように侯爵がギロリと見てくる。


「ほう・・・」

「先程、魔獣と戦う経験をジェムとさせて頂きました。

力を示すという考え方をモーグ家は嫌いますが、僕はそれも時には必要ではないかと考えています。僕が家督を継いだ時、ご子息と一緒に今日のような協力関係が築ければと思っています。

今後も、剣術について色々ご教授くださるそうで、修練を一緒にしないかと誘って頂きました。出入りすることをお許し頂けると嬉しいのですがーー」

 にこやかに許可を求める。


「う、む・・・それについてはジェムニールと話しておくがーーあやつはどこにいる」

 冷静になってきたのか、侯爵はこの場で床に座り込む服を乱した侍女と、僕の横で父親を睨むエルバーラにチラリと視線を向ける。


「こちらに来てはないのですねーーああ、使用人の〈しつけ〉の最中に割り込んでしまいましたか。申し訳ありません。ジェムを探している途中でお姿が見えたので早く挨拶をと焦ったようです。でも当主自ら使用人を〈しつけ〉るとは、侯爵様はお優しい」

「我がフランチャスカでは、これが普通だ。口出しも口外も無用だぞ」

「もちろんです。他家のルールには僕もモーグ侯爵家も興味がありません。なにせ国家法バカですから」

「そうだったな・・・」

 侯爵は、ようやく安堵したように表情を緩めた。そして横柄にエルバーラに侍女を連れて自室に戻れと命じ、部屋の中に戻っていった。

 見ていた執事がようやく侍女を助け起こす。

 僕はといえば、緊張が緩んでほっと息が漏れた。


「あの・・・手をはなして」

 すぐ横で幼い声がする。横を向いた瞬間、僕の心臓は大きく飛びはねた。

 それでもつないだままの手を僕はまだ離したくない。僕より小さくて温かいエルバーラの指先を、もっと味わっていたくてーー離さない。


「だから、手をは、はなして」

 彼女は恥ずかしそうに繰り返す。

「顔が赤いよ、どうしたの?まだどこか痛い?怪我してる?」

 僕はわざと彼女の手を強く握りしめた上で、さらに彼女の頬に触れた。


 ーーああ・・・持って帰りたい。僕だけのものにしたい。


「っ、そのっ、だいじょうぶ。・・・もうお腹もいたくないわ。あなたがなおしてくれたの?」

「君だけ。ヒミツだよ?」

 彼女の耳元に顔を近づけて言葉をささやく。すると小さな耳まで真っ赤になった。


 ーーものすごくカワイイ。

 そう思った途端、彼女の耳に軽く唇で触れていた。


「・・・っ!あなたっ、なななな、なにを!」

「ギーヴ」

「?」

「ギーヴって呼んでくれたら、手を離してあげるよ、エヴァ」

「あなたっ」

 戸惑って怒る表情が愛らしい。

 僕をちゃんと見つめる彼女を閉じ込めたい。何度でも耳にキスしたい。

 からかって笑う僕の内側は、見かけと反してぐるぐると重く粘度の強い感情で煮詰まっている。


 ーーねぇ王子のものになる前に、どうすれば君の心は僕のものになってくれるの?


 幼いエルバーラは、僕の脳裏に焼き付く成長した彼女と違って、まだ僕に色々な表情を見せてくれる。

 でも幻の中の、王子に恋する彼女の様子を思い出すと、僕は素直に優しくできなくなる。

 複雑すぎる感情に身動きできなくなっていると、ジェムニールの声が割り込んできた。僕は舌打ちをこぼすと、名残惜しくエルバーラの手を離した。


「おい、ギーヴそこで何やってんだっ」

「やぁ、ジェム。どうだった?」

 僕は何事もなかったように振り返る。だがジェムニールは僕の質問を無視して、エルバーラを睨んだ。

「おい、売女。なんでここにいる!?」

「ジェムニール兄さま・・・」

「さっさと鳥かごに戻れっ」

「おい、ジェム」

 エルバーラに鋭く命じると、ジェムニールは僕について来いと顎で示す。空気を読んだ僕は、エルバーラとの会話を諦めた。

「またね、エヴァ」

 僕は青ざめて立ち尽くす彼女から、身を切られそうな想いで離れた。


 ーー邪魔するジェムニール、絶対許すまじ。覚えてろよ、この筋肉バカ。


 僕は腹の黒さを綺麗におし隠して、ジェムニールに笑顔で話しかけた。

「ジェム、さっき侯爵様と会ったよ」




ようやく恋愛っぽくなってきました。


ギーヴ=フィン=モーグ

 Sっ気:    10%↑

 ストーカー度: 20%↑

 独占欲:    30%↑


てな感じです。

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