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悪役令嬢は執着されてハメられる  作者: ちょしゃなげ
1/19

結果

ヤンデレ公爵のSっ気執着物語です。

悪役令嬢テンプレに初挑戦したくて。。。難しい。一応、短い予定です。設定甘めなのでゆるく読んでいただけると嬉しいです~。


 


「エルバーラ=ラズロ=フランチャスカ、今日をもってお前との婚約を破棄する」



 婚約者であるシャルモン第二王子が、入場したばかりのエルバーラを見つけるなりそう叫んだ。

「・・・シャル、モンさま?」

 頭が真っ白になったエルバーラは、必死に王子を見つめる。


 王子の腕には、シェリーピンクの髪をツインテールにした甘い顔立ちの少女、アルディア子爵の令嬢リリィがすがりついている。

 その背後には王子の側近である宰相イジル侯爵の次男ジルベルトと王軍師団長であるタルべ伯爵嫡男ドリィギア、魔術師長のメイソン伯爵四男ハリスが控えていた。その瞳に満ちるのは憤りと侮蔑だ。

 王子の突然の宣言で、会場内は息を呑む静寂に包まれた。


 学園生活最後の晴れ舞台、卒業パーティへの入場が終わったばかりだった。

 エスコートするはずの婚約者の訪れはいつまで待ってもなく、エルバーラは不安を押し殺し、何でもない風を装いながら、華やかな会場に単身で参加したばかりだった。


 一方待ち構えていたらしい王子たちは、まるで晴れ舞台のように身振りをつけて高らかに声を張り上げた。エルバーラは状況を飲み込むのが精一杯だった。

「もう演技は通じんぞ。お前の罪は明白だ」

「演技?罪?わたくしが、でございますか?いったいどういうお話でございましょう?」

「まだごまかすつもりかっ!?お前がこのリリィを虐めたことは既に明らかだ。証拠も出ている。お前のような弱者を平気で傷つける、性根の腐った悪女を妃どころか王族に連ねることはできんっ」

「そんなイジメなどーー」

「言い訳など見苦しい!!婚約は破棄だっ。妃には、この聖女の如き心清らかなリリィを望む。分かったら二度とその醜い顔を見せるなっ」


 言い訳も話し合いも遮られたエルバーラは、言葉を飲み込んでドレスの裾を握りしめる。

「顔を見せるな」とは、事実上社交界からの追放だ。

 なんとか打開策はないのか、と顔を上げると蔑むように目元を緩めたリリィの表情を見つけてしまった。腹の底がカッと熱くなった。


 ーーこのっ!悪女はあんたじゃないっ!


「エルバーラ様、今までの仕打ち悲しすぎますぅ」

「可哀想に・・・リリィがどれだけ傷ついたのか、お前などに想像もできまいっ」

「シャルモンさまぁ、ありがとうございますぅ。

リリィはホントにツラくてツラくてぇ~みんなのいない所でぇ無礼だってイジワル言われたりぃ、教科書を捨てられたりぃ、階段から突き落とされたりぃ~死ぬかと思いましたぁ。でもぉ二度とぉ、コワイぃエルバーラ様とお会いしなくていいのでぇ、これからはぁ大丈夫ですぅ」

「そうだな、人を貶める悪辣あくらつな女の顔など見たくもない。同じこの場に立っていることさえ腹立たしいっ」

 リズム良く進む喜劇に、エルバーラの参加は一言も許されない。


「おいっ、殿下のお言葉を聞いてないのかっ!分かったらさっさとこの場を失せろっ」

 騎士見習いでもあるドリィギアが低い声でとがめる。威す声に震えながらも、それを隠すように扇を広げ、背筋を伸ばす。冷たい雰囲気の中でようやく声を上げた。


「失せろ・・・と・っ・・承りました、殿下。ですが、ひとつ」

「なんだ」

「こ、婚約破棄については、陛下もご承認されてのことでございましょうか?」

 声が震えないように、小さく掠れないように、ゆっくりと声を出す。思いつく唯一の打開策だった。


 貴族同士の婚約には国王陛下の承認が必須だ。もちろん婚約破棄についても同じだ。破棄自体は珍しいことではないが、国王陛下の手を煩わせるという理由で、十全じゅうぜんに調整されて結ばれた貴族間の婚約は、なるべく破棄を忌避するものだ。

 ましてシャルモンは第二王子である。事前の打診もなく、卒業パーティのような公の場で声高に宣言されることではない。王子ひとりの暴走ではないかと予想しての問いかけだった。


 だがその質問にさえ、王子の態度は変わらない。

 代わりに答えたのは四大公爵のひとつ、若くして侯爵家を継いだギーヴィスト=フィン=モーグだった。

 王子や側近の固まりから少し離れた場所で、周囲に紛れて立っていたギーヴィストがエルバーラの側に歩み寄ってくる。

 令嬢たちが麗しいと騙される薄笑いを貼り付け、しっとりとした艷やかな声で何でもないことのように会話に参加する。


「陛下にはパーティ直前に説明申し上げ、ご承認を頂きました。今頃フランチャスカ侯爵にも、婚約破棄の報せが届いていると思いますよ」

「ギーヴ、あなたーー陛下になにを言ったの!?」

 幼馴染であるこの男も、王子の味方だったことにエルバーラは更に憤りを感じる。

「残念だけど悪事は暴かれるものらしいよ、エヴァ」

「わたしはイジメなんてしてないわっ!」

「そう?でも今は無駄なあがきをやめて、早く帰った方が身のためだと思うよ」

「わたしはっ」

 ギーヴィストの顔がずいっと近づく。

「婚約破棄されちゃた理由が学園でのイジメなんて傑作だ。でも致命的だよね。女性としても貴族としても」

「致命的・・・?」

 その言葉に、さぁっと血が下がる。



 ーーなにを言っても、もう駄目なの!?


 ーーイジメなんてしてないっ!あの女の言うことは全部嘘なのにっ!

 

 ーーわたしがしたのは注意だけ。


 ーー悪いのは礼儀作法も貴族のしきたりもわきまえない、あの女じゃないっ!?


 ーーなのにっ、なんでわたしが惨めに婚約破棄されるのっ!?



 助けを求めて視線をそらせば、強く感じる冷たい視線、面白がる視線、軽蔑する視線、憐れむ視線だ。

 それらの視線から分かったことは、ここでなにを言っても誰も信じてはくれない、ということ。王子が正義。婚約破棄されるエルバーラが悪い、それが貴族社会のすべてだ。長い付き合いの幼馴染さえ自分を糾弾する状況だ。貴族令嬢でしかないエルバーラに何ができるのか?押しつぶされそうな恐怖がわき上がる。


 ーーそれでもっ!


「わたくしは間違ったことは決して、なにひとつもっ、しておりませんわっ」

 それだけ強く述べると、顔を上げ王子とリリィと側近の三人を真っ向から見返す。引きつる頬を持ち上げて、必死に可憐な微笑みを浮かべた。

「それでは殿下、お言葉に従い失礼いたします」

 完璧なしぐさでお辞儀を披露すると、エルバーラはまだ始まってもいなかった卒業パーティの会場から、ひとり退場した。



 ◆


 会場を出た後は、転げそうになりながら早足で馬車に向かう。一刻も早くこの場を去りたかった。その間もエルバーラはこみ上げる涙を堪えられない。しかし馬車に飛び込む前に腕を掴まれた。


「エヴァ」

 ギーヴィストが追いかけてきたのだ。一瞬救いを抱いたエルバーラは、次の刹那には失望に襲われる。

「はっ、泣いてるんだ?」

 見慣れた薄笑いが悪意を持って突き刺さる。

「な、によ・・・っ」

「ぶさいくな顔。それじゃあ婚約破棄されるのも仕方ないーー」

「っ・・・」

 考えるより先に、ギーヴィストの頬を叩いていた。赤味を帯びた肌を見た瞬間、後悔があふれる。

「ぁ・・・ごめ・・さい」

「謝らなくてもいいよ。餞別に許してあげるからさ」

「せんべつ?」

「君はきっと侯爵家から絶縁される」

「・・・えっ・・・?」

 ただでさえ泣いてボウっとしていた頭が、空白になる。


「だって、国王陛下公認で婚約破棄されて、卒業パーティっていう公の場で悪女だって殿下たちに批難されたんだ。社交場から追い出されて、貴族としても女性としても、もう利用価値はなくなった」

「・・・っ」

「いわゆる侯爵家の面汚しだね。君がいる限り、陛下は面倒なフランチャスカ侯爵家を重用しない。そうなった原因の娘を侯爵が許すと思う?すぐにでも追い出すさ。特に君のような〈いらない娘〉なんてさ」

 ささやく寸前のような優しい声がつるりと残酷な現実を紡ぐ。枯れた大地に水が漸う染み込むように、エルバーラはじわりと追い詰められた。


 幼馴染だけあって、侯爵家の内情に詳しいギーヴィストの言葉はどこまでも鋭く正しい。

 彼の言うように、この後を予想することさえできなかった自分の混乱ぶりに、エルバーラは今更笑いたくなる。「あはは」と実際に小さく嘲笑った途端、ギーヴィストが薄笑いをやめた。

 少しだけ気が晴れたエルバーラは、ギーヴィストに掴まれていた腕を振り払って取り戻す。


「そうね。お父様はきっとわたしのことをーー追い出すわね・・・ギーヴの言うとおりよ」

 フランチャスカ侯爵という人物は娘をかばってくれたり、リリィを虐めてないという娘の訴えに耳を傾けてくれるような人ではない。娘に対する愛情などかけらもなく、利用価値がなくなればいつでも処分すると平気で脅す人だった。

「・・・だから?心配で追いかけてきたなんて冗談でも言わないで」

「平民になった元令嬢の末路なんて悲惨だろ?」

「あなたが助けてくれるの?」

「ーー助けてほしいのか?」

「まさか」

 この幼馴染が、自分を助けてくれたことなど一度もない。

 むしろ、助けられそうになったらそれを邪魔するような男なのだ。うっかり失敗しようものなら、穴を掘って埋められて、身動きができなくなるまで、徹底的に苛む気性だ。


「そこまで堕ちてないわよっ」

「さすがエヴァ。惨めになる君の末路を早く見たいな」

「最低ねっ」

 面白がる幼馴染の言葉をこれ以上聞いていたくないと思った。それでなくても悲しくて辛くて不安なのだ。慰めてくれないなら、せめて放っていてほしい。だが正直にそう言えば、この男はもっと面白がってエルバーラを貶めるはずだ。

 だから震える呼吸を繰り返して自分で自分を立て直す。

 必死に保つ矜持まで、壊されたくない。

「平民になる前にあなたを叩けて良かったわ」


 エルバーラはいつの間にか引っ込んでいた涙の跡を拭って歩き出す。

 馬車の御台では、予想外に早く戻ってきた令嬢に驚いた従僕が、慌てて飛び降り、扉を開けに走って来ていた。その姿が滑稽でーーだがもっと滑稽なのはエルバーラ自身だと分かっていた。


 婚約者であった人に不当な理由で責められて、公の場で婚約破棄されて。

 満足に言い返すこともできず、

 誰もかばってくれなくて。

 さらし者の自分が惨めで悲しくてたまらないのに。

 追いかけて来た幼馴染はもっと不幸になれと言う。


 崩れそうになる背を伸ばして粛々と馬車に乗り込んだエルバーラに、無視したくてもできないとわかってる幼馴染の公爵は、尚も優しく告げる。


「君が何もかも失う日を楽しみにしてるよ、じゃあねエヴァ」






シリアススタートですが、軽くなるはず、、、デス。

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