マオと影の悪魔の勇ましき英雄譚 ~はじまりの出会い~
むかしむかーし、小さな村に一人の女の子がいました。
女の子は妹と一緒に遊んでいると、森で一つのツボを見つけました。
「なんだろう、これ?」
女の子は思わずツボを持ち上げます。すると途端に、後ろから妹が抱きついてきました。
「へへへ、マオお姉ちゃんつーかまえたー」
「もー、びっくりさせないでよー」
ニッコニコと笑う妹に困ったような笑顔をマオは浮かべます。
ふと視線を落とすと、先ほど手に持っていたツボが割れているのが目に入りました。
そのツボをよくよく見ると、黒い煙らしきものが立ち昇っていました。
マオは妹と一緒に見つめます。
段々と形作っていく煙は、突然『グワーッハッハッハッ!』と笑い声を上げました。
『ついに、ついに封印が解けたぞ! これで俺は自由だ!』
それはあまりにも恐ろしいものでした。
真っ黒な身体に、真っ赤な目。まさに悪魔と呼べる存在です。
あまりの恐ろしさに、妹はマオの身体を抱きしめました。
マオは妹を隠すように前に出て、悪魔を睨みつけます。
すると悪魔は二人に気づいたのか、顔を覗き込みました。
『ほぉ、お前らが俺を復活させたのか。ケケケッ、こりゃラッキーだ。復活した上に飯にもありつけるんだからな。特に後ろのお前、美味しそうだなぁ』
マオは思わず妹に視線を向けます。しかし悪魔は容赦しません。
『いただきまーす』
ヨダレを垂らし、妹に向かって飛びかかる悪魔。マオは咄嗟に妹を押し出し、盾になろうとしました。
妹が何かを叫ぶ中、マオは悪魔に飲み込まれてしまいました。
『グワーッハッハッハッ! まずは前菜ってか!』
妹は震えます。
大好きなお姉ちゃんが、大きな大きな悪魔に食べられて震えます。
悪魔は笑います。
次はお前だ、と言わんばかりに妹を睨みつけていました。
しかし、悪魔は忘れていました。
自分を封じ込めた者はとてもたくましくしつこいことを。
そしてどんな闇にも負けない輝きを持っていることを。
『ん? なんだ?』
悪魔のお腹が光り出しました。その光はどんどんと大きくなっていきます。
思いもしないことに、悪魔はお腹を抑えます。
ですが輝きは消えることなく、それどころか悪魔すら飲み込んでいきました。
『ウォオオォォォオオオォォォォォッッッ!!!』
口から、目から、そして全身が光で溢れると、その真っ黒な身体が破裂しました。
妹はただ呆然と見上げます。一体何が起きたのかわからず、ただただ見つめていました。
ふと、大きな光が目に入りました。
光は徐々に消え去り、その中からマオが現れました。
黒い髪が揺らめきながら地面に降り立つと、途端にマオは倒れてしまいました。
「お姉ちゃん!」
妹が慌てて駆け寄ります。するとマオはゆっくりと目を覚まし、弱々しく「ミーシャ」と名前を呼びました。
「大丈夫、お姉ちゃん!?」
「う、うん。でも、なんか疲れた」
ミーシャはマオの身体を抱きしめて泣きます。それはもうこれまで聞いたことがないほどのうるささでした。
だからなのか、マオは困ってしまいます。それでも自分を心配して泣いてくれているミーシャに嬉しさを覚え、抱きしめました。
ですが、思いもよらないことが起きました。
『うるせぇな。泣いてんじゃねぇよ』
聞き覚えのある声が響きました。まさか、と思い二人は見渡します。
しかし、どんなに探してもそれらしき姿は見つかりました。
『あん、なんだてめぇら? なんでそんなにでかくなったんだ?』
マオとミーシャは思わず視線を落とします。ですがマオは見つけることができません。
ふと、ミーシャを見ました。するとミーシャは青ざめた顔をしていました。
不思議に思い、振り返ってみます。すると自分の影に真っ赤に輝く目がありました。
「え?」
マオは気づきました。自分の影がおかしいことになっていると。
悪魔も徐々におかしなことに気づいたのか、自分の身体を見ます。よっこいしょ、と身体を起こして確認します。
その平面で紙よりも薄い身体を見て、『なんじゃこりゃー!』と悪魔は叫びました。
『うぉぉぉい、これなんだよ! 俺の身体に何が起きたんだよ!』
「私に聞かれても」
「ミーシャもわからない」
『わからないで済むか! まさか、影になったのか? なっちまったのか!!?』
暴れ悶え、苦悩する悪魔。
しかしそれは、傍目から見るとマオの影が暴れているように見える摩訶不思議な光景でありました。
影になってしまった悪魔。その悪魔に振り回されるマオ。
デコボコとしたコンビは、いずれ世界の危機を救う英雄となります。
しかし、まだ幼いマオと影になりたての悪魔はそんな将来のことを知る由もありませんでした。