4.森の中の教会堂【ルキ】
――とうとう来たのだ。
ルキは足早に表通りを歩いていた。
すっかり日は傾き、往来する人々はまばらになっていたので、道の真ん中を歩いても誰かとぶつかりかけることもない。
町の入り口から北へまっすぐ伸びる表通りは、途中で東側の広場に向かって折れている。それを曲がらずにさらに北に歩いて行くと、奥の見えない林に突き当たる。
木々の隙間、かろうじて道と呼べる程度の獣道を北へ北へと分け入れば、ルキが身を寄せている教会堂にたどり着く。
なぜこんな人目につかぬ場所に教会堂が存在しているのかは知らない。事実、ここに礼拝に来た人間など見たためしがない。教会堂としての意味をなさぬのではないか、とも思うが、ルキには関係のない話だ。
「お帰り」
併設された住居の小屋の前に、ここの主であるボルダー翁が立っている。
わざわざルキを出迎えに来たということは――
「お邪魔してます」
ボルダーの背後からのぞいた見慣れぬ男の顔に、ルキはため息をついた。
金髪に黒いマントの背の高い男。今朝町でぶつかってきた少年の言うとおりの風貌だ。
「どこにいたの?」
皆で中に入りながら、男に向かって尋ねる。
「誰のために町中探してやったと思ってるの? ここに来るべきって分かってたのならさっさと来ればよかったのよ。それに、連れがいるのならちょろちょろさせておかないでちょうだい」
そこまで言って、相手の男が話を聞いていることを確認し、内心で舌打ちする。
背の高い人間は嫌いだ。いちいち話すときに見上げなきゃならない。
見れば、部屋には黒いマントの男の他にも二人の見知らぬ人間がいた。
褐色の髪の、これまた大柄な男と、黒髪の女だ。
おそらく彼らもまた、魔物と戦う力を持っている。
あの赤毛の少年も、だ。
ルキは再びため息をつく。
「……待ちくたびれたわ」
「ああ、待たせたな」
黒いマントの男はなれなれしい口ぶりで、ルキを見て笑った。
ボルダーにも散々言ってきたことだが、いったいなぜおかしくもないのに笑えるのだろう。
「俺の連れを見たって?」
「赤毛の子供でしょ。お前を探してた」
「そうか。まあ彼は彼でうまいことやるだろう。世渡り上手な少年だから」
無責任な男だ。そもそも大して親密な関係性があるわけではないのかもしれない。
どうでもいいことだ。
「他にもお連れのかたがいるのね?」
質問したのは、黒髪の女だった。
細身の身体はとても戦士には見えない。魔法でも使えるのだろう、得体の知れない女だ。
ルキは僧侶であり、聖の力を操る方法は学んでいるが、魔法の心得は一切ない。聖の力は生命力そのものを生み出すことであり、生命力を様々に変化させる魔の力とは本質的に異なるのだ。
「ああ、弓矢が上手な少年だよ。出発するまでには合流できるだろう」
黒いマントの男は脳天気にそう言って、椅子に腰掛ける。
「出発は明朝だ! この教会の前に集合ね。よろしいですか、ボルダー殿?」
「ええ、もちろん」
ボルダー翁も当然のごとくうなずいた。
「あと今晩泊めていただいても?」
「ええ、もちろん」
「ついでに夕食をごちそうになっても?」
「ええ、もちろん」
「さみしいので一緒に寝ていただいても?」
「ええ、もちろん」
気色の悪い男だ。