1.襲われた村【クライス】
日の出前、辺りはまだ薄暗い。
クライスはいつものように、ひとりで早朝散歩にうろついていた。
遺跡を発ってから一晩経ち、一行は山の中に踏み込んでいた。
平地よりも変わった色や形の植物にあふれ、小さな獣の姿も幾度か見かけた。
仲間になった妖精が色々とウンチクを語ってくれたものの、どこまで真実であるかは分かったものじゃない。
それよりもクライスが一番驚いた変化は、オズモである。
先ほど、目を覚ましていたらしいオズモに朝のあいさつをしてきたのだが、昨日とは違って、「おはよう」と返事が返ってきたのだ。
それ以上の会話があったわけではないのだが、なんだかとても仲良くなったような気がして、クライスには嬉しかった。
「クライス!」
何やら興奮した様子の甲高い声に呼ばれる。
見回すと、妖精がぶんぶんと手招きながらこちらに飛んできた。
「見つけちゃいました!」
「なんだよ、どーした? 何を見つけたって?」
「えへへ、すごいんですよ! びっくりしました!」
クライスは、返事をしながら顔の周りをくるくる飛び回るニコを頑張って目で追う。目が回る。
「だから、何が? ああもう、ハエか、きみは! 落ち着けっての」
「ハ、ハエ? なんて失礼千万、怒り心頭に発しますよ!」
ニコはにやにや笑いながらそんなことを言って、やっと顔の正面で静止してくれた。
そうして元来た方を全身で指し示す。
「村ですよ、村! 山を下りたところに村があったんです」
「村ぁ? へえ、そう。こんなとこにも村があるんだ。妖精が住んでたりして」
「ざんねん、妖精じゃなかったです。ニコよりも大きくて、クライスよりもちょっと小さい人たちがたくさんいましたよ。なんだかざわざわしてて、あっちこっちでキャンプファイアーみたいなのがあがってました。きっとお祭りですよ! 見に行きましょ、ね!」
「お祭りだって!?」
なにしろ楽しいもの好きのクライスは、祭りの言葉に意味もなく気分が浮き立った。
「そりゃ行こう、行こう」
「ですよね! 行きましょう。こっちですっ」
深く考えることもせず、ニコのきらめく軌跡にくっついて、クライスは木々の間を走って山を下った。
* * *
「……お祭りじゃあ、ないよな」
「……そーですね?」
ニコの言う村は見つかった。
妖精の村でも人間の村でもない。
色の濃い肌に、小柄だががっしりとした体格。そしてひげを蓄えている者たちが目立つ。
クライスの見たところ、ドワーフと呼ばれる種族であるように思われた。
彼らはニコの言うとおり、外に大勢出てざわめいているし、煙もあちこちで上がっている。
ところがそのざわめきは楽しげなものではなく、むしろ不穏なものであった。
うごめく人々の姿は祭りに浮かれているどころか、逃げ惑っている様子だ。
そして火の手の元は、どう見ても村を作る家々である。
「しかも、あれ……」
もはや見慣れたその形は、うきうきした気分であったクライスを一気に戸惑わせた。
逃げ惑う村人たちを追いかけているのは、武器を手にしたオークに、スライムと、ウィスプたち。
「襲われてるよ?!」
クライスは反射的に村に向かって駆けだした。
自分が戦わなければ、と当然のように思い立ったのだ。
しかし後ろ髪を思い切り引っ張られて、ぐわっという奇声とともに尻もちをつく。
「痛い」
「何行く気なんですか、クライス! 死にますよ! 弓矢が使えても接近戦には無能でしょ?」
「なんだよ! 分かってるよ!」
釈然としないまでも確かにそうだと納得して、きびすを返してイバンたちのいるキャンプへ戻ることにした。
「なんだよ、自分は全体的に無能なくせに……」
「ニコは雰囲気をなごます役だからいいんですう」
「俺だってなごますよ! なごませっぷりと言ったらもうプロ級よ。ルキのケンカをとめたりね」
「ル、ルキの……! ぬう、でもニコだって人間と妖精の第二次大戦において、影の仲裁役としてそれはもうサカモトリョーマのごとく大活躍を――」
「うそつけっ」




