2.黒いマントの男【オズモ】
のどかな日であった。
晴れてはいるが日照りは強くなく、心地よい風に白い雲がそよそよと流れる、眠くなるような午後だった。
しかし、オズモの心は穏やかではない。
オズモは優しい男である。人を傷つけることを嫌がった。
とうてい兵士には向かない人間なのだ。
敵に攻撃することを躊躇してしまう彼は再三叱咤され警告を受けてきたが、結局は見放されることになった。
クビになったわけである。
オズモは自分自身にうんざりしていた。
お人よしで臆病で思い切りが悪くて、自分を主張できないくせに相手に従いきることもできない。
そんな扱いづらい男は、用無しになって当然だと、我ながらに嫌気がさしていた。
町の東南側に広がる林の壁に沿って歩いて行くと、不意に地面に伏した影が前方の視界に飛び込んだ。
何はともなく駆け寄ると、倒れている二人の男である。
二人はオズモにも見覚えのある鎧をつけている。兵士だ。どちらも傷を負っており、目を閉じて動かないが、息はある。
幸い、町はすぐそこだ。
しかし一人ならともかく、二人の重傷人を運ぶ自信はない。
人を呼んでくるべきだ、と思い立ち、それにつけて「一旦ここを離れるが見捨てるつもりではない」という意思を伝えておく方がよいかと逡巡する。
その前に事情を聞いておくべきか?
意識があるのかどうかも確かめていない。
悠長に話している場合ではないか、それより傷の程度を確認しておくべきか――
オズモは焦燥を感じた。
足元が揺れるが、靴の底が地面に張り付いたように動かない。
いつもこうだ。
自分のすべきことを考えるといつも、頭が乱れる。体が硬直する。
頭では分かっているのに、体が逆らうのだ。
――いや、きっと頭の方が、分かっているふりをして逆らっているに違いない。
一方の男が薄く目を開き、あえいだ。
「……い、医者を……頼む……」
やりきれなかった。
オズモは、町へと走った。
* * *
町の入口に人を見つけた。
腕を組んで仁王立ちし、あさっての方向を見つめている背の高い男だ。きっと人一人を運ぶくらいできるだろう、とオズモは声をかけようと口を開きかけ、ためらう。
なんと言えばよいか?
怪我人を運ぶのを手伝ってくれ、とそれでよかろう。
しかし断られたらどうする?
頼み込むべきか、それとも他の人をあたるべきか?
そもそも助けを求めるのは一人だけで充分か? 二、三人が必要ではないか?
いや、問題になるのは時間だ。人の命がかかっているのだ。
さっきも、あの倒れていた男の言葉がなければいつまでも逡巡していたに違いない。仕事をクビになったばかりだというのに、自分は何と反省のない男か。
とにかく彼に助けを求めるのだ。それが第一ではないか?
オズモが駆け寄ると、じっと立っているその男がふとこちらを見た。
オズモは声を絞り出す。
「――た、……頼む」
その男はにやり、と笑ったように見えた。
「よしきたッ」
そう言って、オズモが来た方へと颯爽と駆けだした。
オズモは一瞬呆けたが、あわてて彼の黒いマントの背中を追って走った。