表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
イバンのばか  作者: 夜間三
第二章 最初の戦い
13/129

6.声【オズモ】

 ひどい臭いがした。

 肉の焼ける臭いだ。

 

 オズモは槍で吹き飛ばしたスライムが風化を始めたのを確認して、顔を上げる。


「ぐあ!」


 ジュウという音と、太い悲鳴。

 やや離れた場所で、戦っていたはずのイバンと魔物は動きを止めている――

 いや、違う。

 魔物の方が、慌てふためいている。

 その胸のあたりが赤く燃えている。魔物がばしばしと胸を叩いて払うと、やがて炎は消えた。だが、今度はその両腕に、再び火が上がる。魔物は当惑した様子で、顔を上げた。


 そこでオズモは、傍らでビオラが魔物の方を向いて立っているのに気がついた。

 臙脂色の本を開き、なにかを呟いている。


 と、魔物がにわかに、ビオラに向かって突進してくる。

 巨体に似合わぬ速さに、近くにいたイバンは反応できていないようだ。


 彼女が危ない。

 そう思ったのを自覚した。

 鎧を着込んでいるオズモは、機敏には動けない。

 ――また自分は、なにもできないのか。


 魔物が突然、転倒した。

 オズモも思わず息をのむ。

 魔物の体のあちこちから、火柱が上がっていた。

 くそ、と吐き捨てる声。

 立ちあがろうとする魔物に向かって、ビオラが白い手をかざす。ボウ、と爆発音がして、魔物の全身が炎に包まれた。


「うわあああっ!」


 激しい悲鳴。

 あの魔物の痛みだ。

 くそ、くそ、と毒づきながら魔物は地面を転げて炎を消そうと躍起になる。

 焼かれる痛み。

 さっき、オズモも苦しんだばかり。

 あの悲鳴は、金属をこすりあわせたようなスライムの悲鳴とは違う。むしろクライスと同じ、人間らしい声。


 そうだ、彼はイバンと話していた。

 言葉を交わすのは理解し合うことだ。

 それが人間の営みでなくて、なんなのだ?


「!」


 目の前に、ビオラの当惑した顔があった。


「オズモ」


 とがめる声で名前を呼ばれる。

 気がつくと、自分の手がビオラの細い腕を押さえていた。彼女の手にしていた本が、自分の足の先、草の上にうつぶせに落ちている。


「オズモ?」


 返事ができない。

 自分が何を考えているのか、分からない。

 彼女はオズモから顔をそらし、息を吐いた。そちらを見ると、さきほどまで陽炎をたてていた彼の姿が、消えている。


「逃げたわ」


 ビオラはオズモを無視して本を拾い上げ、塵を払った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ