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イバンのばか  作者: 夜間三
第二章 最初の戦い
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5.己

 俺は、俺自身を誇っている。

 自我がある、名前もある。

 俺は俺の意思で自分を動かせる。

 単純極まりない下等な怪物ども、俺はそれらをも自由に操れる。

 そうして勝ってきた。

 仲間にも、敵にも、負けたことはない。

 だからこうして前線へとやってきた。

 俺なら、敵を丸ごと滅ぼせる。

 俺は負けない。

 負けたら俺はなくなるからだ。


「アレス」


 目の前の敵が呼ぶ。

 横ざまに斧で払うと、ヤツは後方に跳びすさってかわす。

 切っ先も当たらない。


「なれなれしく呼びやがって」


 いらいらする。

 左手に掴んだ槍を投げつける。

 まっすぐ、ヤツの額に突き刺さるはずだった。

 ところがヤツは、ほとんど音も立てずに片手で槍をいなした。


「お前は何を考えている?」


 ヤツは突っ立ったまま、俺にそう訊いた。


「何を考えているだと?」


 この感情はなんだ?

 ぐらぐらと煮立つような熱を感じる。

 地を蹴り、ヤツとの間を一気に詰める。

 ヤツは俺より速く動けない。

 斜めに斧を振り下ろすと、ヤツは自分の剣で受け止めようとする。

 まっぷたつにしてやる。腕に力を込める。

 しかし、ヤツは身体を引きながら剣で俺の斧を受け流した。

 俺の斧は地面に刺さる。

 手ごたえはない。

 刃を思い切り引き抜くと、後ろに一歩よろける。

 ヤツはただ俺を見ている。


「畜生」


 ああ、いらいらする。

 なぜだ?

 俺は何度も戦ってきた。

 そして勝つのだ。

 俺はこの手でヤツの肉を引き裂いて、血を浴びる。

 ヤツも残りの四匹も、下等な怪物のようにただの物質になるのだ。

 それが俺を高揚させる。

 なのに、なぜ俺はこんなに苛立っているのだ?


「それは憎悪か」


 ヤツが言った。

 憎悪だと?

 俺は憎いのか?

 こいつらは俺に負ける。

 ただの塊になるのだ。

 この俺がなぜヤツらを憎む?


「黙りやがれ!」


 クソ、いらいらする。

 俺は理性的なはずだ。

 なんなんだ、こいつは?


「消えろ!」


 とびかかり、斧を振り下ろす。

 今度はヤツも守り切れなかった。

 かろうじて剣で受け止めたが、刃はヤツの金色の頭のほんの数センチ上。

 ぐ、と上から体重をかける。

 俺のほうが身体はでかい。ヤツは腕で受けるだけ。

 ヤツはまっぷたつになる。

 このまま俺は、勝つ。

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