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イバンのばか  作者: 夜間三
第十章 魔女と狼
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3.告白【オズモ】

 オズモは戸惑いを禁じ得なかった。

 確かにビオラの行動には理解に苦しむところが散見される。常に冷静で愛想の良い様子は、本心を見せていない故と言われればそうかもしれない。


 しかしルキの口ぶりは、まるでビオラが邪悪な企みをしているような調子なのだ。

 オズモには、彼女が悪人であるなどとはとても思えなかった。


 だが今こうして糾弾されながらも、ビオラは冷静な微笑みを絶やさない。

 動じていないのだ。そうして否定もする気がない。


 追及を緩める様子はないルキの剣幕に、やがてビオラは息をついた。


「……仕方ないわね」と低い声で笑う。


「構えなくていいわよ、ルキ。まあ、確かにわたしは魔王の手先と会ってた。イバンが分からないと言っていた魔王の目的も聞いてきた。それに、イバンのことを殺せって暗示をかけられたわ」

「何ですって!?」

「落ち着いて。わたしはあんな暗示にはかからない」

「お前の言うことなんて信じられない。偽りを言わずに真実を隠すのが得意技でしょう」


「ずいぶんな言い方ね。なら教えてあげる。イバンの推測通り、魔王は人間を滅ぼして新たな優生種を創り出そうとしてる。闇の精霊の力を持つ魔王は、その存在も闇と同様に恒久的で滅びない。いくら血の気が多くても、魔王を殺すのは無理なのよ、ルキ。でも平和を求める心優しい魔王は、家族であるイバンに説得されたら考えを改めるかもしれない。そうしたら人間から優生種に進化する可能性はなくなる。だからもし優生種になりたいと思うのなら、イバンを止めないとね。殺せば完璧。そうすれば魔王の同胞として認めてもらえる」


「やっぱり――」


 食ってかかろうとするルキを手を上げて制し、ビオラは冷たく笑う。それはどこか自嘲めいた笑みにも見えた。


「安心しなさい。わたしはイバンを止める気はない。なぜなら……もし魔王が精霊の力を手放すようなことがあれば、わたしがそれを手にできるかもしれない。そうすればわたしはやっと不朽の生命を得られる。……殺すわけないじゃない。喜んでイバンに手を貸すわ。それがわたしの目的とも重なるから」


「……不朽の生命? きみは不老不死になりたいということ?」


 ライオネルのためらいがちな質問に、ビオラはふっと笑みを消した。


「理解してもらわなくて結構よ。この世には生命に執着のない者が多すぎる。命を活かすことのできない愚鈍な人間には決して分からない」


 オズモは――どうしてか、少し安心していた。

 今までビオラは、皆のことを見透かすような飄々とした態度で、彼女自身の内面を見せていなかった。

 ルキの不信が生まれたのもそれゆえなのだ。

 友好的な意図ではなさそうとはいえ、ビオラはこうして本心を話してくれた。

 教えてくれれば、理解しようとすることができる。

 彼女自身に近づくことができる。助けることもできるかもしれない。


 しばしの沈黙を破ったのは、ルキの鋭い語調の言葉だった。


「お前が危ない人間だってことはよく分かった。魔王の力を奪って自分が魔王になろうとしてるんだわ」

「やめてちょうだい。わたしは地位にも権力にも興味はない。ただ生命がほしいだけ。ここにいる皆に危害を加えることなんてしないのよ。……わたしにナイフを向けるなら、別だけど」

「望むところだわ」


「やめろよ、二人とも!」


 そこに混乱しきった様子のクライスが割って入る。


「落ち着いてよ……なあ、ビオラ、なんかすごくよく分からないんだけどさ、いつもより怖いし、なんか冷たいし……でも、でもさ、変わらないんだろ……? オレたちの仲間だよね?」

「この女は邪悪な魔女よ!」

「やめろったら! ルキはどうしてそんなに口が悪いんだよ!」

「いいのよ、クライス。本当のことだもの。わたしは魔女。昔からそうだった……」


 と、ビオラが言葉尻をすぼめる。

 遠くに目をやり、明らかにハッとして立ち上がる。


「……どうして?」


 冷たく平静だった彼女の目が、哀しげに潤むのが分かった。

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