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存外の発見

クロエの師匠視点です。

 「相席、いいかしら」


 その答えを聞く前に、クロエと一緒に空いた椅子に座る。好ましくない私たちの態度にも目の前の男は眉一つ動かさず、口にしていたカップをテーブルの上のソーサーに戻し答えた。


 「ああ、別に構わないよ」


 そして視線を私、クロエの順にゆっくりと動かすと楽しそうな声で会話を始めた。


 「さっきぶりだね、クロエ。人と会う約束は果たせたようだね」

 「そうよ。で、あなたは何してたの?」

 「街を見て回っていただけだよ」


 そこで話を一度切ると再びカップに口をつけた。そして店員を呼ぶと、別の飲み物を頼んだので、私とクロエも同じものを頼んだ。

 頼んだものがテーブルに運ばれ、皆がそれぞれ口にし一息ついたところで彼が口を開いた。


 「クロエは、この人と関係が?」

 「せ、先生よ。私の」


 私の前では使わないような言葉づかいでクロエが答える。

 再び沈黙する彼に、今度はクロエから少し不満な様子で声がかけられた。

 

 「私への最初の質問が先生のことってどういうこと?」

 「どうと言われても、私が別段君に関心がなかっただけだよ」


 帰ってきた残念すぎる言葉に呆けた様子でいるクロエに彼は付け加えるように言った。


 「まあ、今は興味あるがね」


 そこで会話は終わりと言うかのように、視線を私に向け口を閉じた。クロエはまだ何か言いたそうな顔をしていたが、それを遮り今度は私が切り出した。


 「この子からあなたのことを聞いたのよ。なんでも見たことも聞いたこともない魔法を使うとか」

 「………なるほど」

 

 彼から魔法の発露を感じ取り警戒するがその様子を特に気にした様子もなく補足した。その声は言葉が問題なく聞き取れるくらいには明瞭だったが、わずかにこもって聞こえた。


 「気にするほどのことじゃないよ。聞かれると少し、困ったことになるかもしれないからね」

 「便利な魔法ね」

 「私もそう思うよ」


 魔法の全てに精通しているとは言わないが、それでも知識だけなら広く浅く把握している。しかし彼が使った魔法を私は知らなかった。単純に疎い方面であったことには気付かなかったことにした。

 信じていなかったわけではないが、弟子の話に確かな証拠を得てますます関心が高まる。


 「君に興味があるの。ちょっとつきあってくれない?」

 「先生!?」


 慌てた様子のクロエを気にした様子もなく、目の前の青年は再び飲み物でのどを潤すと、視線を街の雑踏に向けて答えた。


 「あなたに興味を持っていただけることはうれしいのだけれど……断らせてもらうよ」

 「へえ……私のことわかるんだ」

 「そのペンダントから確かに強い力を感じるよ。でも、足りないね」

 「足りない、のね。もっと付き合ってほしくなったわ」


 私が人目につくところを歩くときは常につけるようにしているこのペンダントには認識阻害の魔法が施されている。私の姿を見ていい気分がしない人はたくさんいるだろうしね。

 口調も感情も少し強く出した私に彼はさっきまでのティータイムを楽しむ目ではなく、鋭く冷たい視線を向けた。


 「"戦争卿"からのお誘いはとても魅力的だが、今は君の時間でも場所でもない」

 「そこまで知ってるならその"戦争卿"がそれだけじゃないのもわかってるでしょ?」

 「私は君の考える強者などではないのだが」

 「それは私が決めることよ」


 テーブルをはさんで睨み合い、ぴりぴりと緊迫した雰囲気が生まれていた。肌が粟立つ感覚や神経が研ぎ澄まされるのが伝わってくる。目の前の青年に意識が集中していく。

 不意に彼の右腕が私の盲点を突くように意識の外から突然現れ、机上に伸びる。その手が開かれたと思うと、何かが零れ落ちた。

 ―――チャリン

 と、机の上で硬貨が跳ねる音がした。ハッとした時にはもう遅く、向かいに座っていたはずの男の姿はどこにもなかった。


 「ああ!やられた!」


 私のことを知ってるやつは多いが、あそこまでうまくかわされたのは今までで数えるほどしかない。

 ペンダントを看破し、"戦争卿"のこともわかっていた。その上で私の提案を断るだけの度量もある。それだけで十分に期待値も注意力も大幅に改めたのだが、足りなかったのか鈍ったのか。

 いやそこじゃないな。久しぶりの相手に浮かれていたんだな私は。それに"戦争卿"としての性格もうまいこと利用されたって所かなあ。

 ここまで綺麗に煙に巻かれたのは久しぶりだ。もっと慎重を期すべきだったか。


 「ねえクロエ」

 「は、はい。なんでしょうか」


 男の姿は消え、張り詰めた空気が雲散霧消したことでおろおろしているクロエを見て後悔していた気持ちはどこかへ行ってしまった。今度は状況変化への対応が下手くそな弟子をどうしごこうかという思いが占有しだした。

 

 「あの子が惹かれそうな話題ってないかしら」

 「え?話題ですか?」

 「そ。次会えた時くらいこっちのペースでやり込めてやりたいのよ」

 「んー」

 

 この先の弟子の育成計画を練りながら、記憶を掘り出している様子を眺めていると、だんだんといつもの頭と気分が戻ってきた。

 元は暇つぶしのつもりであったが、想像していたより数倍有意義な時間だったといえるだろう。費やされた時間は短かったが。

 

 「考え付くのは、綺麗な風景とか、おもしろそうな街の話題だと思います」

 「そういえば旅をしてるんだっけ?彼」

 「そういってました」


 そっか。ふーん。それはいいことを聞いた。思わず笑みがこぼれる。

 "戦争卿"として大陸中を駆け回って見た土地、景色、街。彼の興味を引く話題はたくさんあるわ。次こそは捕まえられそうね。

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