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お金と情報と手紙と

 遅い昼食を取り、料理の余韻に浸っていると、


 「料金は1,200イラだよ」


 店主が短く言った。私は聞き慣れない単位を聞いて、少し困ってしまった。


 「ああ、すまない。帝国の貨幣でも払えるかな」


 そう。今まで帝国の外を旅したことがなかったため、貨幣の違いをすっかり忘れていたのだ。したがって今の手持ちは帝国の貨幣しかもっていない訳で、ライズで使える貨幣を持っていないのだ。


 「うちはイラだけしか扱ってないからねえ」


 店主も少し困った様子で答えたが、すぐに表情を改めると視線を私の隣へと動かし尋ねた。


 「ラッセル、あんたなら交換できるんじゃないかい、商人だろう?」


 私の隣の老人、ラッセルはすっと革袋を取り出すと話し始めた。


 「あんた旅は初めてか?国を巡るときはちゃんとその国の金を用意しておくんだぞ。いくらだ」

 「国外に出るのは初めてだね。全く失念していたよ。ご高配に感謝しかない。とりあえずこれだけをイラに変えてほしい」


 私は金貨を数枚ラッセルのそばに並べる。それに合うだけ革袋からイラの貨幣を並べ、これがいくら、こちらはいくら、とイラについて説明までしてくれた。そして説明が終わるとラッセルは豪快に笑いながら言った。


 「ま、お前さんくらい若い兄ちゃんが旅なんて珍しいからな。こんくらいいいってことよ」


 私は換えてもらった金で食事の料金を払うと、ラッセルにさらに話をした。


 「このまま海岸沿いに北へ行って、アシュテームへ行くつもりなんだが、そこも帝国のは使えないのかな」

 「いや、あそこは大陸中と貿易してっからどこの金でも大丈夫だぜ。にしても根性あるな、陸路でアシュテームなんて今時商人でも少ないってのによ」

 「なに、移動は魔法を使うから多少はね。それよりも旅で訪れる街や景色を楽しみたくてね。他にもいろいろとね」

 「なんだ兄ちゃん魔法使えんのか、なら納得だな。にしても旅か、いい趣味してんじゃねえか。ああ………そうだなあ」


 突然ラッセルが会話を切ると窓の外に視線を移し、何か考え込むと、再び口を開いた。


 「ここを北に出て、しばらく行ったところにな、海側に横穴があるんだ。その穴は少し行くと下までおりる階段があるんだが。兄ちゃんも見たろ、ここが山の途中にあって海側は崖になってるのを。だがなその階段を下りきるとなんと、崖の下に浜があるんだ、小さいがな。そしてそこは丁度、大陸に海が入り込んでいる部分の一番奥のところなんだ。だから浜からは空が両側から崖に切り取られたみたくあってな、そこから見える景色が格別なんだ」


 ラッセルの説明にたまらず笑みがこぼれるのが分かった。今まで上から眺めるばかりだったが下から見上げる景色、それも雄大な自然を。楽しみで仕方がない。


 「いい顔だな。ただな、階段を下るって言ったが崖を下るんだ、時間が思ったよりずっとかかるんでな。今の時間だとあれにギリギリ間に合うかどうかなんだ、行くんなら急ぎなよ兄ちゃん」

 「あれ、とはなんだい?」

 「それを言っちゃあ楽しみが薄れるってもんよ、急ぎな兄ちゃん」

 「ふむ。少しいいことを思いついた。だから、そうだね。すまない、ちょっといいかい」


 ラッセルとの会話を止め、店主を呼んだ。


 「さっきの料理を何かに詰めてもらえないかい、量は少なくてもいい」

 「別にいいよ、冷めるかもしれないけどね」


 そういうと再び料理を作り始めた。そのやり取りを見てラッセルは慌てた様子で言葉を発した。


 「兄ちゃん、今から料理ができるのを待ってたら間に合わんぞ」

 「大丈夫さ、魔法を使うからね」


 私の様子を見て苦笑するとラッセルは、急げよ、と言って席を立とうとした。そこでラッセルが商人だということを思い出し、少し引きとめた。


 「便箋は売っていないかい?」

 「便箋?兄ちゃん手紙なんか書くんかい。まああるぜ」


 ラッセルにお金を渡し便箋を受け取った。そしてラッセルは今度こそ店を出て行った。

 今買った便箋を三枚だし、それぞれ宛名にカイル、リリアそしてシルフィと書き、近況を書くと特殊な魔法をかけた。三枚書き終えたタイミングで店主から料理を受け取り代金を渡した。美味しい料理だった、とお礼を言って店を出て北へ歩を進めた。

 村から出て少ししたところで、使い魔の鳥を三羽呼び出すとそれぞれに手紙を渡し、届けておくれ、と頼み飛び立たせた。既に陽は傾き、橙赤色に変わりしずみ始めていた。

 さて、ラッセルも言っていたように急ぐとしよう、目印は海側の横穴か。魔法を使い、今度はくだりの山道を滑り降りた。しばらく行ったところに横穴を見つけたのでその周辺を見ると、横穴の周りには今までとあまり変わらない木の杭で作られた柵があるばかりだった。次に横穴の中をのぞくと、崖を削ったようにして出来た階段が確かにあった。階段は途中で折り返しているようで、おりきったところはほとんど穴の真下に当たるようだ。

 なるほど、これなら問題はなさそうだね。横穴から出て、すぐ隣の木の柵をまたぎ崖のすぐそこに立つ。

 崖の下に本当に小さく浜を確認すると、崖から飛び降りた。

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