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旅先最初の村

 木があまり生えておらず、むき出しの山の地肌を眺めながら山道を駆けあがっていると、坂の向こうに建物が見えてきた。砦から随分進んだようで、険しい山道を上ったためずっと見えていた海は、木の柵を超えた崖の下に広がっていた。

 そのまま坂を進むと、先ほど見えた建物は村の一部であることが分かった。魔法を停止させると村の入り口にたった。都市部で見られたその街を囲む城壁のようなものはなく、木で作られた大きな門と、村と山を分けるように木の杭が地面に打たれているだけだった。その木の杭も敷き詰められていることはなく、杭同士の間隔はまちまちでお互いを細い縄でつながれていた。

 入り口をくぐると、すぐ脇に大きな馬車がいくつも無防備に置かれていた。その隣には馬小屋があるようで、こちらには注意書きの書かれた看板が置かれていた。

 村の中は人が少ないもののにぎわっており、初めてここに訪れた私にも快い挨拶をして迎えてくれた。そこで食事がとれるところはないかと尋ねたところ、この村にはあそこの一軒しかないよ、と笑いながら教えてくれた。

 この村に一軒の食事処はほかの建物より大きく、来る途中で見えた建物はこれではないだろうか。そんなことを思いながら入ると、テーブル席が四つかそこら、そしてカウンター席が一番奥にあるようだ。だがテーブル席はすでに人で埋まっており、カウンター席もその八割は埋まっていた。

 カウンター席に歩み寄り、この建物の中では比較的歳のいった老人に隣に座ってもよいか尋ね、了承をもらったので座ることとした。


 「兄さん、何にするんだい」


 私が席に座ったところ見るや、店主の女性が聞いてきた。


 「ここで一番人気のものが食べたいな」


 それを言うと少し意外そうな顔をしたかと思うと豪快に笑い、料理を作りだした。

 料理ができるまで暇だな、と思いながら辺りを見ていると目につくものがあった。


 「料理中申し訳ないが、そこの新聞は読めるのかい?」

 「読めるわよ。あ、でもそれは先週のだからついでにラッセルから新しいのもらってよ」


 料理から目を離さず、てきぱきと進めながら店主は言った。初めて来た私にはラッセルが誰なのかわからないのだが。そう思っていると、先ほどの隣の老人が新聞を取り出し話しかけてきた。


 「兄ちゃん、これが今週の新聞な。読んだら席に置いたままでいいから」


 私の目の前に新聞が二部置かれた。片方は大陸の南東にあるフレイ国の新聞で、各国の情勢について書かれているようだった。もう一方はライズ合州国の国内についての新聞だった。

 私は先にフレイ国のものを取り、内容を読んでいった。


 『ユグル法国が港を設置。今まで法国に行くにはツェヅヒ共和国もしくはエスト帝国からの陸路であったが、ついに海に面した都市の内、二か所に港を作った。これにより共和国の南端から、そしてフレイ国からも船で行き来が可能となった。アシュテームとは大陸の正反対に位置するが船による物資の移動が可能になるかもしれない。』

 『エスト帝国内部で不穏な動き。先の戦争でいくつもの南部の小国を併合してきた帝国の内部で、併合された小国同士がまとまり始めている様子が見られる。今まで帝国に対し抗議の声を上げてきていたが、今はそれに加え裏で結束し、更にわずかに武装した集団が見かけられた。この状況に帝都から軍を送りより監視を強めるようだ。』

 『アシュテームが新たな貿易に着手。アシュテームは陸路でも海路でもこの大陸中で貿易を行ってきたが、今回共和国の南端とフレイ国の南東に、中継地として比較的大きなものを作ることを決めた。そしてこの中継地からさらに別の大陸へと貿易の網を広げるそうだ。』

 『ライズ合州国で異例の勝者。月に二度、年に二十四回、ライズ国内の州のどれかが開かれる武道大会で、今年の第一回大会から前回の第十九回大会まで優勝者が変わらないという異例の事態が起きていた。十九大会連続優勝したのはクロエという女性だという。この連覇を止めるものが現れるだろうか。』


 ふうん?なかなか愉快なものが多いじゃないか。ただ帝国の一件は……。南か。砦のあれは別件かな。

 さて次はライズの新聞かな。といってもこっちは………。これはなんだ。紙面のほとんどが今の大会の記事じゃないか。偏っているというレベルじゃないだろう。数少ない大会以外の記事に目を通していると、どん、と皿を無造作に置きながら店主は言った。


 「はい、出来たよ。新鮮な魚介と山菜を使ったご飯だよ」


 置かれた料理は、平らで浅く広い皿いっぱいに、山菜と焼いた魚の身、炒めた米が混ぜ合わせられたものが盛られており、更にその上に大きな貝と海老などが並べられていた。香ばしい匂いとわずかな磯の匂いで、既に昼を大きく過ぎて空腹な私は皿に添えられたスプーンを使って米を頬ばった。

 すると、見た目より豪快に魚の風味を感じ、炒めた米と魚の身の油で、口の中でしつこく海を味わいつつも、山菜から得るわずかな苦みがアクセントになって飽きることがなかった。そして盛り付けられた貝は淡泊で、かかっているソースは濃いもののその淡泊さと調和しており、加えて食感に歯ごたえがあり、噛むたびに旨味があふれてきた。

 米を食べつつ、盛られた魚介をたべ、存分に舌鼓をうった。

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