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お遊び

 家に隣り合うように用意されている演習場に移動すると互いに一撃放ち結果を決めることにし、私とシルフィに審判を任せると互いに十分な距離を取った。今日は話し合うだけのはずだったために、スティルもリリアもレオンハルトも防具らしい防具はつけていない。


 「それじゃあ、どうぞ。初手はあげるよ」


 レオンハルトがさらに挑発する様に告げると、スティルとリリアは魔法の詠唱をそれぞれ始めた。魔法の詠唱は一般的には珍しいものではないが、訓練を積んだものは規模、威力などを犠牲に詠唱を省略できる。彼らが詠唱をするような、扱い慣れない大規模な魔法を選んだことは明らかだった。レオンハルトはその様子をつまらなそうにただ眺めていた。ただ、つまらなそうなのは私の隣にいたシルフィもそうだった。その様子が気になり私はシルフィに尋ねた。


 「シルフィ、つまらないか?」


 シルフィは私の方をちらと一目見ると、視線を戻し答えた。


 「つまらない、というよりもスティル様とリリア様のしていることが理解に苦しみます」

 「理解に苦しむ?」


 私のオウム返しに、表情を変えぬまま付け加えるように言った。


 「あの程度の魔法では何もできないでしょうに。せっかくくださったチャンスを有効に使うこともできないのでしょうか」


 私は大きな驚きを覚えていた。シルフィがこれほど人を下に見る発言を聞いたことなどなかった。私が知っているのは、家にいる私たちにレオンハルトがどんな話をしてくれたかを楽し気に話してくれる様子が大半だからだ。最近ではその姿もあまり見れないが。

 だがそれと同時にシルフィの言葉の意味が分からなくもなかった。確かに、使おうとしている魔法はほかのそれとは一線を画すほどの威力を持っているが、レオンハルトを倒せるかと言えば無理だろう。魔法の才能が偏った分、それだけ奴の防御魔法は優れているのは経験で知っている。


 「「ピアシング・ライトニング!!」」


 発動した魔法は、槍の形をとった稲妻が彼らの頭上に一本ずつ現れ、レオンハルトに突き刺さるように放たれた。大規模で速度も十分、避けるのは私でも難しいだろう。私の防御魔法でも無傷では済まないだろう。だが。


 「そうだね。これで十分だろう」


 よく聞こえなかったが、レオンハルトが何かつぶやくと同時に、二枚の透き通ったライトグリーンの三角形がレオンハルトの前に突如現れた。一本の槍に対して一枚の三角形が垂直に衝突し、閃光が辺りを真っ白に塗りつぶした。

 視界を取り戻すと、そこには魔法を発動させる前と何も変わらない景色が広がっていた。


 「それでは、こちらの番だよ」


 こちらまで聞こえるように声を張って言った。スティルとリリアの態勢が整っているのを確認したうえで、ゆっくりと右腕を挙げた。私の隣にいるシルフィが息をのむのが分かった。

 レオンハルトが右手を上げたかと思えば、すぐにおろしてしまった。そして憎たらしいいつもの微笑みを顔に張り付けたままこちらへ歩いてきた。その行動にスティルとリリアは驚きをあらわにしていた。どういうことだ、次がレオンハルトが攻撃する番だろう。私が困惑していると、シルフィが落胆した様子で呟いた。


 「レーヴェ兄様の勝ちです。スティル様とリリア様を呼んだ方がよろしいかと」


 私は何が何だか分からなくなり、スティルとリリアを呼び寄せた。二人も理由がわからず不思議がりながらこちらへ駆け寄った。だが、スティルが近くなってきてようやく状況を理解した。

 スティルの左頬に一筋の傷ができていたのだ。細く浅い傷なのか出血はほとんどなく赤い筋が一本走っていた。どういうことだ、レオンハルトが攻撃らしい攻撃をしたようには見えなかった。一体どうやってスティルに一撃を与えたんだ。

 スティルとリリア、レオンハルトが戻ってきたが私はまだ動揺を抑えきれていなかった。


 「レーヴェ兄様がスティル様に一撃を加えたため、スティル様、リリア様の負けです」


 私に代わって、淡々とシルフィが勝敗を告げた。その言葉に三人ともが驚きを表した、レオンハルトを含め。


 「シルフィに何を言っているんだ!確かに私たちの魔法は防がれてしまったが、奴の攻撃はまだだろう!」

 「そうよシルフィ。まだ終わってないわ」


 スティルとリリアは強い口調で妹に抗議した。しかしレオンハルトは、先ほどまでの笑みを更に深め、心底楽しそうにシルフィに言った。


 「シルフィには見えたのかい?」

 「はい。といっても辛うじてですが」


 シルフィの返答に満足気な表情をつくると、そうそう忘れてた、と呟いてから付け加えるように言った。


 「シルフィ、カイルとアリスにも僕のことよろしく言っておいてくれ」

 「…はい。わかりました」


 シルフィは暗い顔を一瞬見せたが、すぐに笑顔に戻しレオンハルトに答えた。

 そして、それじゃ、と言葉を残しレオンハルトの姿は夜に紛れるように掻き消えた。何の余韻もなく消え去り、未だ動揺から抜け出せない私と、怒りを発散しきれていないスティルとリリア、そして全てがわかっているシルフィだけが残された。

 私は左手で自分の左頬をさすりながら、わかっている事実だけをどうにかして口に出した。


 「スティル、左頬を」


 リリアはぱっとスティルの左頬を見、私と同じように動揺をあらわにした。スティルは自分の指を持っていき、触れ、痛みが走るのと同時に指についた血を見て困惑していた。私はシルフィが見えたというレオンハルトの攻撃を聞こうとしたが、既にシルフィは家に戻っており、この場にはいなかった。

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